喝采かっさい)” の例文
そんな、苦心談でもって人を圧倒してまで、お義理の喝采かっさいを得ようとは思わない。芸術は、そんなに、人に強いるものではないと思う。
自作を語る (新字新仮名) / 太宰治(著)
「うまいぞうまいぞ」と喝采かっさいするものがある。最後にかれはへびを一まとめにして口の中へ入れた。人々は驚いてさかんに喝采した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この一文は案外方々から喝采かっさいを博した。しかし家元の封建性の弊を指摘してあるので、家元には都合の悪いものであったに違いない。
それを道庵が出て易々やすやすと解決をつけてしまったから、今まで黒山のように人だかりしていた連中が、ここで一度にどっ喝采かっさいしました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
両者を合してやや調和したる者をものするは、非常の辛苦を要しながら存外に喝采かっさいを博すること能はざればその覚悟なかるべからず。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ビゼーの生涯は甚だ幸福でなく、その上短命で「カルメン」への世界の喝采かっさいも知らずに死んだが、芸術家としては決して不幸でない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
公開堂こうかいどうの壇上、華かなる電燈の下で、満場の聴衆が喝采かっさいの内に弾きならしたはこの琴であります、またこの一めんは過ぎし日わたしが初めて
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
彼らが喝采かっさいしてるのは、歌曲リードをではなかった——(彼女がたとい他の曲を歌ったのであっても、彼らは同じように喝采しただろう)
聴衆は道也のいきおいと最後の一句の奇警なのに気を奪われて黙っている。ひとり高柳君がたまらなかったと見えて大きな声を出して喝采かっさいした。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
トレープレフ おっ母さんはね、この小っぽけな舞台で喝采かっさいを浴びるのが、あのニーナさんで、自分じゃないのが、しゃくのたねなんですよ。
だけど、群衆はただぼんやり見てるきりで、喝采かっさいする者もなく、お金を放ってやる者もあまりありませんでした。少年は悲しそうでした。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
喝采かっさいの音が、また右側の半分から起った。御しやすい連中だな、とKは思ったが、ただ左側の半分が黙っているのが気になった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
しかししばりもやまない喝采かっさいから彼等がわれに返って見廻した時には、もう次郎右衛門忠明のすがたはどこにも見当らなかったとある。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
との一言をはなち、かえって反対者の喝采かっさいたところなどは、その公平無私かつ度量どりょうの寛大なるところは、ほとんどドラマチックであった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
娘と劉がちょっと手をつないで軽く挨拶をしたとき、固唾かたずをのんでいた観客も、はじめて気がついたように大きな喝采かっさいを送った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
徒刑囚のうちのある者など、徒刑場に名の響き渡ってる者などは、歓呼と喝采かっさいとを浴びせられて、それを一種のほこらかな謙遜けんそんさで迎えた。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
そして、白分の機知の成功で実にたやすくみんなの喝采かっさいを博することができたろうに、そんな喝采のことなどはまるで考えてみもしなかった。
こう云う自分も皆と一しょに、喝采かっさいをしたのは勿論である。が、喝采している内に、自分は鉄棒の上の丹波先生を、半ば本能的に憎み出した。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
部下のうちでもこの方面に心得のあるものをこれに配合してバード・ストーン曲馬団なるものを組織し、各地で興行をして大喝采かっさいを博しており
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
乗り合いは思わず手をちて、車もうごくばかりに喝采かっさいせり。奴は凱歌かちどきの喇叭を吹き鳴らして、おくれたる人力車をさしまねきつつ、踏み段の上に躍れり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「効果はてきめんだった、米谷と古内が立ったあとで、里見十左がさっそく詰問し、七十郎はそれを二ノ矢だと喝采かっさいした」
小芝居、手品、見世物、軽業かるわざ、——興行物の掛け小屋からは、陽気な鳴り物の音が聞こえ、喝采かっさいをする見物人の、拍手の音なども聞こえて来た。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木戸口の横に、電気人形アウトマーテンに扮した役者が立っていて、人形の身振りをするのが真に迫るので、観客の喝采かっさいを博していた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
丁度公園では歌がんだところであったが、聴衆がひどく喝采かっさいしてまないので、同じ歌がまた始めから繰り返された。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
という言葉に、朱線を引き、感激した彼女は、今、その感激はちょうど、小さい子供が、頭の上の空で、美くしく拡がる花火の光りを、喝采かっさいしながら
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そうして強飯こわめしでもなくはぎの餅よりもさらによくつぶされた新式の餅が、世に現われて喝采かっさいせられ、始めて多くの人を餅好きにしたのではないかと思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ふたたび起こる喝采かっさいの声! かくてM大尉エムたいいは第一等の栄冠えいかんて、予定通りわが日本のために万丈ばんじょう気炎きえんをはきました。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そしてこの瞬間しゅんかん喝采かっさいのことも、美しい歌姫のことも、その歌声やほほえみのことも、だれひとり知る者もなく、忘れられ、過ぎ去ってしまうのです。
こうした眼に見えない石が自分の方へ飛んで来る時の痛さ以上に、岸本は見物の喝采かっさいを想像して見て悲しく思った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鳴り止まぬ喝采かっさいの音を聴きながら、私は親身な感情のこみあげてくるのを感じ、面をあげることが出来なかった。
前途なお (新字新仮名) / 小山清(著)
あたかもしその日は与謝野鉄幹よさのてっかん子を中心とせる明星みょうじょう派の人々『両浦島』を喝采かっさいせんとて土間桟敷に集れるあり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
しかも私たちがエクセントリック味を満喫している間も、何か面白い場面でも中では映っているのであろう。はげしい喝采かっさいが聞えて笑いがどよめいてきた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
どこでも見物は熱狂し、割れるように喝采かっさいした。そして舞台の支那兵たちに、蜜柑みかん南京豆ナンキンまめの皮を投げつけた。
新内しんない若辰わかたつが大の贔負ひいきで、若辰の出る席へは千里を遠しとせず通い、寄宿舎の淋しい徒然つれづれにはさびのある声で若辰のふしころがして喝采かっさいを買ったもんだそうだ。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼女は微笑を含んだ会釈えしゃく喝采かっさいこたえると、水色のスカートをひるがえしながら、快活にピアノに向って腰を降した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
運動会の前奏ともいうべきこの学芸会で最も一同の喝采かっさいを博したのは、花岡一郎のオルガン弾奏であった。花岡一郎というのは、まだ若い蕃人の巡査である。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
そのうちにおきまりの三味線とうたと舞踊とが、何の感興もなく初まって何の感興もなく終った。それだのにそれが済むと、席は待ち構えていて拍手喝采かっさいした。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
「こいつ等は、まるで素人じゃねえ、」鼈四郎は檜垣の主人に向ってはこうも押えた口を利くようなものの、彼の肉体的感覚は発言者を得たように喝采かっさいした。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と書生の杉山が手をうって喝采かっさいした。この男はおせじ使いだから、若様がたがしゃれをいうと笑いころげる。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
之は、ロビンフッド的な義侠ぎきょう行為と見做みなされ、島民一般の喝采かっさいを博した。勿論、商会側も黙ってはいない。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
華やかなあらし捲起まきおこしたこの新夫婦、稲舟美妙の結合は、合作小説「峰の残月」をお土産みやげにして喝采かっさいされた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
小田君が送別の辞をべてくれたので、余は答辞を陳べねばならぬことになり、頗るまずい演説をした。碧梧桐君は松島遊覧の発句を一句高誦して喝采かっさいを博した。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼は、誰先生に直接きいて来たんだという確証を与えることによってのみ、生徒たちに喝采かっさいされ、彼自身の功績を誇りうるということをよく知っているのである。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
と、小滝は少しも躊躇ちゅうちょの色をしめさずに、「それア誰だッてそうですわねえ、……むろん林さん!」と言った。小滝も酔っていた。喝采かっさいの声が嵐のように起こった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
えゝ此のたびほまれ高き時事新報社より、何か新作物を口演致すようとの御註文でございますから、かつて師匠の圓朝えんちょう喝采かっさいを博しました業平文治なりひらぶんじの後篇を申上げます。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして、旦那どのは、うらみ重なる男のあとにつづいて梯子を上って行ったのだ。これを見ていた人々は喝采かっさいした。それもそうだろう。いやたった一人を除いてはネ。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勝負がつく度に揚る喝采かっさいの声は乾いた空気を伝わって、人々を家の内にじっとさしては置かなかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
二月五日の衆議院で、東条とうじょう首相が堂々とこの新製鉄法を述べ、これで今次の大戦をまかなうべき鉄には不自由しないと演述した。議員は皆喝采かっさいした。私たちは唖然あぜんとした。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
それにつきましても、いのちがけの芸当げいとうゆえ、無事ぶじになしわせましたさいは、どうぞご喝采かっさいねがいます。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
壮士の喝采かっさいを博し どこへ行っても壮士が舌を出して敬礼をするようになり、その壮士が陰となり日向ひなたとなって私を護るために、便宜を得たことが沢山ございました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)