しっ)” の例文
その一隊が三人の前まで来た時、手を左右に振りながら、警戒するように『しっ!』と云った。近寄るなとでも云っているようであった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
松山は周囲まわりに注意した。店員風のわかい男と、会社員風の洋服男が来てれちがおうとしていた。松山はしっと云って半ちゃんに注意した。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あるいは伍子胥ごししょとなっておのが眼をえぐらしめ、あるいは藺相如りんしょうじょとなって秦王しんおうしっし、あるいは太子丹たいしたんとなって泣いて荊軻けいかを送った。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼はかく自らしっし、かの痛をおおうてこの職分の道に従い、絶望の勇をあげて征戦の事に従えるなり。死を彼は真にちりよりも軽く思えり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼は、子の短慮と暴行とをしっすべき言葉も、権威も持っていなかった。彼の身体を支えている足は、絶えずわな/\とふるえた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しっ! お静かに」そしてユアンの右腕が挙がった。此奴こいつめ! 拳銃ピストルを突きつける気だな! と私は直感したのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
虚言うそけ」と、保さんはしっした。取組は前から知っていて、小柳やなぎが陣幕の敵でないことを固く信じていたのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この時「脚気かな、脚気かな」としきりにわが足をもてあそべる人、急に膝頭をうつ手をげて、しっと二人を制する。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しっ!」とばかり、此の時覚悟して立たうとした桂木のかたわら引添ひきそうたのは、再び目に見えた破家あばらやおうなであつた、はたせるかな、糸は其の手に無かつたのである。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして其所そこらを夢中で往きつもどりつ地を見つめたまま歩るいて『決してそんなことはない』『断じてない』と、魔をしっするかのように言ってみたが、魔は決して去らない
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかも、のこのこ後にいて来るのである。菊王の眼が、あるじの弁ノ殿に、しっ……と注意したのを、さとくも後ろで知ったらしく、山伏は急に二人の背へ呼びかけて来た。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、鋭くしっして、傍へやって来て歩いて見せる。覚えが悪くて余りたびたび間違えると
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
途端とたんに恐ろしい敏捷すばやさで東坡巾先生はと出て自分の手からそれを打落うちおとして、ややあわ気味ぎみで、飛んでもない、そんなものを口にして成るものですか、としっするがごとくに制止した。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
家族には近い知人の二階屋に避難すべきを命じ置き、自分は若い者三人をしっして乳牛の避難にかかった。かねてここと見定みさだめて置いた高架鉄道の線路に添うた高地こうちに向って牛を引き出す手筈である。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
清三は自己の影の長く草の上にひくのを見ながら時々みずからかえりみたり、みずからののしったりした。立ちどまって堕落した心の状態をしっしてもみた。行田の家のこと、東京の友のことを考えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
問…しっ! 汝はホリシス神の御前にある事を忘れたるか。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しっ。」と、しわがれた声で大喝しました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しっ、あちらへ行っておいで」
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しっ!」「しっ!」という例の声が、植木師の声などとは思われないような、威嚇的の調子をもって、一際高く響きわたり、ふいに行列が立ち止まった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夫人は久し振にった弟をでも、愛撫あいぶするように、耳近く口を寄せてささやいたり、軽くしっするように言ったりした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
栗うりの童は、逸足いちあしいだして逃去り、学生らしき男は、あくびしつつ狗をしっし、女の子はあきれて打守うちまもりたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「さあ、やられた!」と身をもだえて騒げば、車中いずれも同感の色を動かして、力瘤ちからこぶを握るものあり、地蹈韛じだたらを踏むもあり、奴をしっしてしきりに喇叭らっぱを吹かしむるもあり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
物は見ようでどうでもなるものだから、この怒号をただ逆上の結果とばかり判断する必要はない。万人のうちに一人くらいは高山彦九郎たかやまひこくろうが山賊をしっしたようだくらいに解釈してくれるかも知れん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しっすれば、皆々同じく頭を下げて
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しっ、いやな蝶々だこと」
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しっ……。うるせえぞたけ
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「誰だ!」と、しっした時、相手は勝平の顔を見て、ニヤリと笑った。それは紛れもなく勝彦かつひこだったのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
余は道の東西をも分かず、思いに沈みて行くほどに、きあう馬車の馭丁ぎょてい幾度いくたびしっせられ、驚きて飛びのきつ。しばらくしてふとあたりを見れば、獣苑じゅうえんの傍らに出でたり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ちょっと、わたくしが……あの見て参じます。」と茶の道にさぶろうたる小間使の秀、御次へスルリ、辷出すべりいでて東の縁の雨戸一枚外して取るや否や、わんと飛付くを、しっ——叱りながら
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
張、そのずるをまって、後ろよりこれをしっす。その人惶懼こうくす。これをきくすれば盗なり
しっ、静かにっ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しっ! 叱!」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しっ、」と押えながら、島野紳士のセル地の洋服のひじを取って、——奥を明け広げた夏座敷の灯が漏れて、軒端のきばには何の虫か一個ひとつうなりを立ててはたと打着ぶつかってはまた羽音を響かす
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
香以は旧に依って讌遊えんゆうを事としながら、漸く自己の運命を知るに至った。「年四十露に気の附く花野かな。」山城河岸の酒席に森枳園きえんが人をしっしたと云う話も、この頃の事であったらしい。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
阿兄! と云いながらも、語調だけは、目下をしっしているような口調だった。九郎助は、毎度のことながらむっとした。途端に、相手に対する烈しい競争心が——嫉妬しっとがムラムラと彼の心に渦巻いた。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しっ! 叱!」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しっ。お帰り」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しっ!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それを可恐こわくは思わぬが、この社司の一子に、時丸と云うのがあって、おなじ悪戯盛いたずらざかりであるから、ある時、大勢がいくさごっこの、番に当って、一子時丸が馬になった、しっ! ったやつがある。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しっ……』
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しっ!」
しっ!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しっ! 声高しと押止めて、眼を見合わせ少時しばらく無言だんまり、この時一番鶏の声あり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しっ……』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しっ!」
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しっ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と声を懸ける、万歳、と云う、しっ、とおさえた者がある。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しっ!」
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しっ
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しっ!」と押えて源次はしてやったという顔色かおつき
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)