刃物はもの)” の例文
こんな場合、刃物はものというものは、不思議な強味を与えるのである。お綱は、それを拾って、暗闇の畳の上へ、くの字形に体を投げた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかしひとは、今日こんにち田舍ゐなかきこり農夫のうふやまときに、かまをのこしけてゐるように、きっとなに刃物はものつてゐたものとおもひます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
お三根を殺傷さっしょうした凶器きょうきは、なんであるかわからないが、なかなかあじのいい刃物はものであるらしく、頸動脈はずばりと一気に切断されていた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
板屋根を葺くのは枌板といって、もとはすぎだのひのきだのの柾目まさめのよくとおったふとい材木を、なたのような刃物はものでそぎわったうすい板であった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しまいには、畳のへりの交叉したかどや、天井の四隅よすみまでが、丁度刃物はものを見つめている時のような切ない神経の緊張を、感じさせるようになった。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いったい何分ぐらいで済むのかなあ。眼で見ないでもあの刃物はものの音だけ聞いていると、好い加減変な心持になるからな」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「出て来たぞ! 逃げろにげろ! 刃物はものを持ってるから傍へよっちゃあいけねえ。とても生捕りには出来ねえから、みんな逃げろ、逃げろ……」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
砂でみがき、刃物はもので手入れをされた竹は表皮のつやを消されて落ちついた青さであった。ぱさっと地をはたくように振ると、一握ひとにぎりの竹はのたうってそろう。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
このいえまえとおりかかりましたが、乞食こじきは、おみよが、いま人形にんぎょうにごちそうをこしらえてやろうとして、きくはなや、山茶花さざんか花弁はなびらを、ちいさな刃物はもの
なくなった人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで砥石といしに水がられすっすとはらわれ、秋の香魚あゆはらにあるような青いもんがもう刃物はものはがねにあらわれました。
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一口にえば塾も住居すまい殻明からあきにして仕舞しまい、何処どこを捜した所で鉄砲は勿論もちろん一挺いっちょうもなし、刃物はものもなければ飛道具とびどうぐもない、一目明白、すぐに分るようにしました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まえったら、まるで身体からだ刃物はものでもくっつけてるみたいなんだもの——やり切れやしないわ。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
刃物はものもこの町で色々作ります。金物かなもので想い浮ぶのは「塔寺釜とうでらがま」でありますが、もとは河沼郡八幡やわた塔寺とうでらの産であったかと思われます。今はかえって他郷に仕事を奪われました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
よく膨れるとモー饅頭のかたちでなくってうすのような形になります。蛇の目の印をつけた処は双方別に膨れて取りよくなりますからとがった刃物はもので中の蓋をちょいとがすと直ぐ剥がれます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
何から何まで皆手掛りでは無いか第一顔の面長いのも一ツの手掛り左の頬にあざの有るのもまた手掛り背中せなかの傷も矢張り手掛り先ず傷が有るからには鋭い刃物はものきったには違い無いすれば差当り刃物を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
倉地は愛子に刃物はものなどに注意しろといったりした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「飛んでもねえこんだ、刃物はものなんぞを持って」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
刃物はものをもって……卑劣なやつ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
まづ石器せつきおなじような刃物はものるいをやはりほねつのつくるのでありますが、もっともこれをつくるには石器せつきもちひたのでありませう。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
兵法と傲慢とは、どこへ行ってもつき物のように鼻につくが、それ程な自尊心もなくては、刃物はものと天狗の上に住んでいられない理由もある。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刃物はもののような風がぴゅうぴゅうと吹きつける。めりめりと音がしたと思ったら、筏の一部がかんたんにわれて、あっと思うまもなく荒浪あらなみにもっていかれてしまった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また実際白の容子ようすは火のように燃えた眼の色と云い、刃物はもののようにむき出したきばの列と云い、今にもみつくかと思うくらい、恐ろしいけんまくを見せているのです。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
イザ施術という時には雛鳥を俎板まないたのような物へせて首と両足とを動けないようにしばって、ず胸からももへかけて羽毛はねをよく刈ってそれから鋭利な刃物はもので腿と胴の間の外皮かわを一寸ほど切る。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いままでまをしました石器せつきは、刃物はものか、それに類似るいじのものでありますが、なほほか刃物以外はものいがいのものもあります。そのなかでも面白おもしろいのは、石棒せきぼうです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
先に刃物はものの付いている棒をいきなり横に持たれたのですから、立派な敵対行動を示して、相手の心を勃然ぼつぜんと怒らしめたのもまたやむを得ません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただし三人の住所は近所ではなくバラバラであった。第三に三人の屍体は同様の打撲傷だぼくしょう擦過傷さっかしょうおおわれていたが、別にピストルを射ちこんだ跡もなければ、刃物はものえぐった様子もない。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ムックリと身を起こしたのは案外体の小さい小童で、その影が飛躍すると共に、彼の手にある棒先の刃物はものが、水を振るようにキラキラと闇に閃流せんりゅうする。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わかりました。頸動脈けいどうみゃくをするどい刃物はもので斬られて、出血多量で死んだと思います」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「今、あの木立こだちの暗がりで、盗賊に刃物はものをつきつけられ、恐ろしい目にあおうとしていたものでございますから、それで思わず不作法な……ど、どうぞ、お助けなされて下さいまし」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後からわかったことであるが、警部の傷はかれの右足のすこし上にある動脈どうみゃくが、するどい刃物はもので、すぱりとられているのだった。だから鮮血がふんすいのようにとびだしたわけである。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
短い刃物はもの血糊のりを拭いて、ニヤリと意味のない、不気味な笑みをこちらへ向けた。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸倉老人の顔は、するどい刃物はもののようにひきしまっている。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うまいあめぼうでもしゃぶらしてやろうと思って、ひとが親切しんせつにいったものを、コケおどしの刃物はものなんぞふりまわして、よせやい、おれだって、はばかりながら、刀ぐらいはしているんだからな
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)