停車場ていしやぢやう)” の例文
パデレウスキイといへば波蘭ポーランドの聞えた音楽家だが、最近米国に渡つた時、ある日勃士敦ボストン停車場ていしやぢやうで汽車を待ち合せてゐた事があつた。
停車場ていしやぢやうと言つても、ほんの小さな建物があるばかりで、町らしい形を成してゐる部落などは何処まで行つても眼に入つては来なかつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
蹴込けこみ片足かたあしけてつてたのでは、おほいに、いや、すくなくとも湯治客たうぢきやく體面たいめんそこなふから、其處そこで、停車場ていしやぢやう出口でぐちさくはうひらいて、悠然いうぜんつたのである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其處そこほねひとく』といふ文句もんくそれ自身じしんがふら/\と新宿しんじゆく停車場ていしやぢやういたのは六月二十日の午前ごぜん何時であつたかわすれた。かく一汽車ひときしやおくれたのである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
停車場ていしやぢやう、ホテル、舞踏場ぶたうぢやう、如何なる所にてもよし、かの燦爛たる燈火の光明世界を見ざる時は寂寥せきれうに堪へず、悲哀に堪へず、あたか生存せいぞんより隔離されたるが如き絶望を感じ申候まをしそろ
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
が、やがて發車はつしやふえつた。わたくしはかすかなこころくつろぎをかんじながら、うしろ窓枠まどわくあたまをもたせて、まへ停車場ていしやぢやうがずるずるとあとずさりをはじめるのをつともなくちかまへてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
小川の家では折角下男に送らせようと言つて呉れたのを断つて、教へられた儘の線路伝ひ、手には洋杖ステツキの外に何も持たぬ背広扮装いでたち軽々かろがろしさ、画家の吉野は今しも唯一人好摩停車場ていしやぢやう辿たどり着いた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
タフト氏は大きな旅鞄をげて、のつそり列車のなかから出て来た。そして停車場ていしやぢやう前の薄汚い旅籠屋はたごやに尻を落ちつける事にした。
その黎明しのゝめの茫とした夢のやうな空気の中に、最初の私の発見した停車場ていしやぢやうの名は白い板に万家嶺まんかれい Wan-chia-ling と書いてある字であつた。
アカシヤの花 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
伊達だて停車場ていしやぢやうもなく踏切ふみきりして、しばらくして、一二軒いちにけんむら小家こいへまへに、ほそながれ一際ひときはしげつてたけののびたのがあつて、すつとつゆげて薄手うすでながら
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
づ二だいの三等車とうしやつぎに二等車とうしやが一だいこのだいが一れつになつてゴロ/\と停車場ていしやぢやうて、暫時しばらくは小田原をだはら場末ばすゑ家立いへなみあひだのぼりにはひとくだりにはくるまはしり、はしとき喇叭らつぱいてすゝんだ。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
汽車が途中のある駅につくと、停車場ていしやぢやうにはこの偉大な政治家を一目見ようといふ物好きな土地ところの人が一杯に待つてゐた。
わたしは裏道にまわつて見た。此処こゝはつい此間このあひだまでもと停車場ていしやぢやうのあつたところで、柵などがまだ依然として残つてた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ときたびに、色彩いろきざんでわすれないのは、武庫川むこがはぎた生瀬なませ停車場ていしやぢやうちかく、むかあがりのこみちに、じり/\としんにほひてて咲揃さきそろつた眞晝まひる芍藥しやくやくと、横雲よこぐも眞黒まつくろに、みねさつくらかつた
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
上田敏博士が文科大学教授として初めて京都の土を踏んだ時、腹が空いてゐたので、停車場ていしやぢやう近くの或る旅館はたごやへ飛込んで、昼飯ひるめしき立てたことがあつた。
と噂されるので、今度の旅行には気持よく新聞記者に会つて談話はなしをするのみか、停車場ていしやぢやうに立つてゐる巡査や駅夫にまで、にこ/\顔で一寸愛嬌をかはしてゐる。
亜米利加の丸持長者まるもちちやうじやアンドリウ・カアネギイがこの頃ある宴会でした話によると、氏が昨年英吉利に旅をして、とある停車場ていしやぢやうから倫敦ロンドン行きの汽車に乗つた時の事
その晩リンカンが泊る筈になつてゐる旅籠屋はたごやは、停車場ていしやぢやうから十四マイルほど引込んだところにあつた。リンカンはがた馬車に乗つて旅籠屋に出掛けた。途中で雨が降り出した。
英国のある停車場ていしやぢやうの駅長はグラツドストーンが落して往つたくつかゞとを拾つて、丁寧に箱入にしてしまつておいたといふから、黄河の濁り水を克明に瓶に入れて持つて帰つたからといつて
この画かきはある停車場ていしやぢやうで(どこの停車場だつたか、画かきははつきりとその名を覚えてゐない。一体画かきといふものは余り物覚えがよくないやうだ)汽車を待つのつれづれに雲を見てゐた。
それを見たヘンズレエ嬢は、毎日朝つぱらから停車場ていしやぢやうに詰めて、兵士を載せた汽車がプラツトフオームに着くと、飛蝗ばつたのやうに飛んで往つて、汽車の窓につかまつたまゝ、誰彼の容捨なく接吻キツスをする。