でん)” の例文
旧字:
筆をって書いていても、魏叔子ぎしゅくし大鉄椎だいてっついでんにある曠野こうや景色けいしょくが眼の前に浮んでくる。けれども歩いている途中は実に苦しかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
清濁せいだくあわせむ、という筆法で、蜂須賀小六はちすかころくの一族をも、そのでんで利用した秀吉が、呂宋兵衛に目をつけたのもとうぜんである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王賓は史にでん無しと雖も、おもうに道衍が詩を寄せしところの王達善おうたつぜんならんか。声を揚げて遙語ようごす、いやしむも亦はなはだし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
橇引きのでんは、名前よりも狼といふ仇名の方が有名で、何年か前に村里の居酒屋で酌婦の奪ひ合ひから大立廻りを演じて、相手の炭焼の男を殴り殺した。
その朝もやはりかう云ふでんで、いよいよ鐘が鳴る間際まぎはまで、見晴しの好い二階の廊下に彽徊ていくわいしてゐたのである。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
広小路ひろこうじの方まで行って寿司屋すしやだのおでん屋などに飛び込み、一時半か二時にもなってヒョックリ帰園きえんいたしますこともございますので、その日も多分いつものでんだろうと
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
描金まきゑよくして人のかすをなめず、別に一趣いつしゆ奇工きこうす。破笠はりつ細工とて今にしやうせらる。吉原の七月はじめ機燈からくりとうろを作りて今に其余波よはのこせり、でんつまびらかなれどもさのみはとてもらせり。
髪かたちも妓家の風情をまなび、○でんしげ太夫だゆうの心中のうき名をうらやみ、故郷の兄弟を恥いやしむ者有り、されども流石さすが故園情こえんのじょう不堪たえずたまたま親里に帰省するあだ者成べし
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これ貴方あなた御承知ごしようち石切河岸いしきりがしにゐた故人こじん柴田是真翁しばたぜしんをうところわたくしつて聞いた話ですが、これ可笑をかしいて……わたくし何処どこつても口馴くちなれておしやべりをするのは御承知ごしようち塩原多助しほばらたすけでんだが
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
梅屋敷うめやしきは文化九年の春より菊塢きくうが開きしなり、百花園くわゑん菊塢のでん清風廬主人せいふうろしゆじん、さきに国民之友こくみんのともくはしくいだされたれば、誰人たれびとも知りたらんが、近頃ちかごろ一新聞あるしんぶん菊塢きくう無学むがくなりしゆゑ
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
粗末な宣教師がやって来て毎度だましたことがあるから、またそのでんだろうという疑いが起る。ところが日本人は同種族で、同門で、一番近い親類だから、ごく真実に世話をしてやる。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
つけたのだったろう。すんだことだから、それはそれでいいが、公家では、またぞろ、そのでんを蒸しかえそうとしている。おぬしらは、この二月に州崎の浜へ流れついた漂民の話を聞いたろう
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
古河黙阿弥ふるかはもくあみの著述に大蘇芳年たいそよしとしの絵を挿入さしいれた「霜夜鐘十時辻占しもよのかねじふじのつじうら」。伊藤橋塘いとうけいたうと云ふ人の書いた「花春時相政はなのはるときにあひまさ」といふ侠客伝けふかくでんもある。「高橋たかはしでん」や「夜嵐よあらしきぬ」のやうな流行の毒婦伝もある。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
蔵前では例の高橋おでんの事件などやかましかったものですが、これはまず名誉のことだというので騒ぎましたから、自然、そういうことが町内の人々、また一般にもうわさ高くなりましたのでした。
どんなことでも、もう一度はなして貰ひたいなどと言はうものなら、きまつて、何か新事実をつけ足すか、でなければ、まるで似ても似つかぬものに作りかへてしまふのが、いつものでんであつた。
「君ひとりか?」と訊くと、赤井は酒くさい息をはきながら、「野崎の奴いくら待っても来ないんだ。一時間以上も待たされた。いつものでんだと思ったから、諦めて京極で酒を飲んで帰って来たんだ」
青春の逆説 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それがみなでん又兵衛になっていることは争われません。
双語 (新字新仮名) / 上村松園(著)
その財布を盗んだ掏摸も、その同じでんかも知れんよ
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ちねえ、でんさん」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こんどもそのでん
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
なまじい昔の高僧だとか聖徒セーントだとかのでんを読んだ彼には、ややともすると精神と肉体とを切り離したがる癖がありました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
云いながら、隣りの対局へ、横から顔をつき出したのは、横鬂よこびんに黒い刀傷かたなきずのある村安むらやすでんろうである。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
描金まきゑよくして人のかすをなめず、別に一趣いつしゆ奇工きこうす。破笠はりつ細工とて今にしやうせらる。吉原の七月はじめ機燈からくりとうろを作りて今に其余波よはのこせり、でんつまびらかなれどもさのみはとてもらせり。
多助たすけでん是真翁ぜしんをうが教へてくれたのが初まりだが、可笑をかしいぢやありませぬか。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
其の分封太侈たいしを論ずるにいわく、都城百雉ひゃくちを過ぐるは国の害なりとは、でんの文にも見えたるを、国家今やしんしんえんせいりょうびんの諸国、各そのを尽してこれを封じたまい、諸王の都城宮室の制、広狭大小
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
宗助の父にも慾があったかも知れないが、このでんで叔父の事業にぎ込んだ金高はけっして少ないものではなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あ、これですね。前田青邨せいそん氏がめておられたはなおどしは」と、嘉治さんは杉本画伯と共によろいの前にたたずむこと久しい。それはでん平ノ重盛の紺糸縅しと隣り合っていた。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見るとそれは、夕刻、今井二かんと少し話して帰った、山屋敷常詰じょうづめ同心どうしん河合かあいでん八。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御目付役の詰めているたまりの間にいた多門おかどでんろう
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)