今生こんじょう)” の例文
御足労、痛み入りますが、今生こんじょうのごあいさつをね、ちと申しあげたい儀もございますので、お矢倉の上までお運び願いとう存ずる
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある金持かねもちは、たくさんのおかねうまんでひとらぬに、みなみくにして、今生こんじょうおもあさはや旅立たびだちをしたのでありました。
金の魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これは手順を以て下横目へ申し立つべき筋ではございますが、御重役御出席中の事ゆえ、今生こんじょうの思出におじきに申し上げます。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、やがて話が終ると、甚太夫はもうあえぎながら、「身ども今生こんじょうの思い出には、兵衛の容態ようだいうけたまわりとうござる。兵衛はまだ存命でござるか。」
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで尽きたからそれで死ぬのです……今生こんじょうの善根が、他生たしょうの福徳となって現われぬということはなく、前世の禍根が
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今生こんじょうでの、お別れになるかと思いますと、生きているのも果敢はかなく覚えますが、然し、武士の妻として、いつでも、御出立出来るように、用意は——
寛永武道鑑 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「さいなあ。今生こんじょうの思い出に今一度、見たいと思うてはおりまするが、今の体裁ていたらくでは思いも寄りませぬ事で……」
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
母が身ももはやながくはあるまじく今日きょう明日あすを定め難き命に候えば今申すことをば今生こんじょう遺言いごんとも心得て深く心にきざみ置かれたく候そなたが父は順逆の道を
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ちりりんと鈴の音にさえわが千万無量のかなしみこめて、庭に茂れる一木一草、これが今生こんじょうの見納め、断絶の思いくるしく、泣き泣き巡礼、秋風と共に旅立ち
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
罪人は平然として、むしろ喜びの色を見せている。そうして「今生こんじょうの命は一切衆生しゅじょうに施す」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「宮様高野へお落ちあそばされたわ! ……さえぎる逆賊あろうもしれぬ! ……なんじ参って防ぎ矢つかまつれ! ……それこそ忠! ……それこそ孝! 今はこれまで! 今生こんじょうの別れ!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
が、それが今生こんじょうの別れであろうとはペインは夢にも思わなかったのである。なお又、彼女がそれから死骸となって発見されるまで、彼女の生きた姿を見たものは一人もなかった。
今生こんじょうにて今一度竜顔を拝し奉らんために参内仕りて候ふと申しもあへず、涙を鎧の袖にかけて、義心其の気色に顕れければ、伝奏いまだ奏せざる先にまづ直衣ひたたれの袖をぞぬらされける。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今生こんじょうぶん尽きたれば汝を用いずと言わしむると、象すなわち地中に入ってしまった、仏いわく昔迦葉仏かしょうぶつの時、象護の前身ある塔中菩薩が乗った象の像少しくげたるを補うた功徳で
月こそ変れ、先君内匠頭の命日である上に、今生こんじょうの名残りというので、大石内蔵助を始め十余名の同志は、かねての牒合しめしあわせに従って、その日早く高輪泉岳寺にある先君の墓碣ぼけつに参拝した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
実に夢幻泡沫でじつなきものと云って、実はまことに無いものじゃ、世の人は此のらんによって諸々もろ/\貪慾執心どんよくしゅうしんが深くなって名聞利養みょうもんりように心をいらってむさぼらんとする、是らは只今生こんじょうの事のみをおもんぱか
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今生こんじょうの見おさめによそながら暇乞いを、と云うような心にはとてもなれなかったので、娘も乳母も小さくなって、家の中にちゞこまっていたが、後から聞けば、一番の車には父、二番の車には安国寺
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夫人 (外套をとり、ちりを払い、画家にきせかく)ただ一度ありましたわね——おおぼえはありますまい。酔っていらしって、手をお添えになりました。この手に——もう一度、今生こんじょうの思出に、もう一度。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
有王 今生こんじょうでふたたびお目にかかれるとは。あゝありがたい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
もはや最後も遠からず覚えそうろうまま一筆ひとふで残しあげ参らせ候 今生こんじょうにては御目おんめもじのふしもなきことと存じおり候ところ天の御憐おんあわれみにて先日は不慮のおん目もじ申しあげうれしくうれしくしかし汽車の内のこととて何も心に任せ申さず誠に誠におん残り多く存じ上げ参らせ候
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
今生こんじょうの 果報かほうえて 後生たすけさせたもうべく候 こんじょうの果報をば 直義にたばせ候て 直義を安穏あんのんに まもらせ給い候べく候
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前世の果報が尽きた時に、今生こんじょうの終りが来るのでございますから、死ぬも生きるもおのれのごう一つでございます。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……コレ……祖父の命令いいつけじゃ。立たぬか。伯父様や伯母様方に御暇おいとま乞いをせぬか。今生こんじょうのお別れをせぬか。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
人を討つに、己のみが助かろうとは思わぬから、或いは、これが今生こんじょうの別れかも知れぬ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
道元は答えた、「利他の行も自利の行も、ただ劣なる方を捨てて勝なる方を取るならば、大士の善行になるであろう。今生こんじょうの暫時の妄愛は道のためには捨ててよい」(随聞記五)。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
「よく来たな。有王! おれはもう今生こんじょうでは、お前にも会えぬと思っていた。」
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで云う、今生こんじょう唯一の希望のぞみを申せ! ……左門、身に代えて叶えてとらせる!
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今生こんじょうの拝顔も怖らくは今日を限りと覚え候、お情けには、武士を捨てたる野良犬の後をお尋ね下さるまじく、さらばご息災を蔭に祈りて
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日ここで逢えないように、明日のところで逢えないかも知れません、或いは今生こんじょうこの世で逢えないのかも知れません……といってわたしは、それを悲しみは致しませんよ
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たとい今生こんじょうでは、いかなる栄華えいがを極めようとも、天上皇帝の御教みおしえもとるものは、一旦命終めいしゅうの時に及んで、たちまち阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄にち、不断の業火ごうかに皮肉を焼かれて、尽未来じんみらいまで吠え居ろうぞ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「中途で弾き止めた清元の『山姥やまうば』、今生こんじょうの思い出にえとうござる」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「しっかりと——抱いておもらい。これが——これが、今生こんじょうでの——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
今から思いますとこの時こそ夫の姿の今生こんじょうの見納めでございました。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのすべてが、秀吉を戸主と仰ぎ、秀吉を柱とたのみ、朝に蔭膳かげぜんそなえ、夕に武運を祈り、今生こんじょうの箇々小さなる命をまとめて
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今生こんじょうのふざけついでにそのシナリオなるものを一つやっつけてみよう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今の一歩一歩が、死の府へ向っているのか、なお、今生こんじょうの長い道へ歩んでいるものか——そんなことすら思ってもみなかった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今から思いますとその時が今生こんじょうのお別れで御座いました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今生こんじょうの思いをとげた気がしたよ。妻子の顔を見るなどは、ここでは、ぜいたくなことだった。皆には何かすまないのう」
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「両名とも、或いは、これが今生こんじょうのおわかれとなるやもしれませぬ。弥栄いやさかの御武運を祈りおります。今日は先もいそぎますれば、これでお暇を」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど。……けれどね、城太さん。わたしはいつぞや瓜生山で、武蔵様とお目にかかった時、これが今生こんじょうの最後だと思って、ありッたけな心のうち
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たった今、会うて参りました。今生こんじょうの拝顔も成り難けれど、輝元様以下、元春様にも、隆景様にも、くれぐれよしなにとのお言伝ことづてにござりました」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「愚かなことを。来世を願うよりも今生こんじょうに楽しもう。貂蝉、今にきっと、そなたの心に添うようにするから、死ぬなどと、短気なことは考えぬがいい」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
良人が自分たち妻子へ姿をみせに来たことの裏には何か「……今生こんじょうのこともこれきりだぞ」としているものがありそうな気がして、こわいそぞろな予感に
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さあれば、これが今生こんじょうのお別れ。——ひとえに、ご聖運のひらけますよう、泉下せんかよりお祈り申しあげておりまする
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ついては、今生こんじょうに思い残りのないよう、今日は、心の隅まで、お打明けもいたし、お尋ねもいたしてみたいと存ずるが、おさしつかえありますまいか
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今生こんじょうあかしをとろうと励むことにあるのは、二道、方法のちがいはあっても、目ざす所に変りはないのでございます
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
選びましょう。……お別れです。今生こんじょうのこと、お礼も何も、申しているいとまはございません。死出の山で——
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわば「両雄の胸にかくされた私のじょう」は——今生こんじょう相容あいいれぬ敵——と尊氏を呼んでいた正成の方にもあった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はや乱軍とみえまする。かかるうちにはからずも、おすがたを拝し得たのは、尽きせぬ今生こんじょうの御縁。多年、御厚恩をこうむりましたが、入道も今日は、長のおわかれを
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信忠もうしろに来てたたずんでいたが、その人のあるも忘れて眺めていた。あたかも今生こんじょうの名残のように。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)