一喝いっかつ)” の例文
一喝いっかつして首筋をつかみたる様子にて、じょうの内外一方ひとかたならず騒擾そうじょうし、表門警護の看守巡査は、いずれも抜剣ばっけんにて非常をいましめしほどなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
平次が一喝いっかつするのと、八五郎が跳びつくのと一緒でした。首筋をつかんで物蔭からズルズルと引出したのは、留守番に来ていた伝助。
私は足音あらく赤犬のそばにつめより、「こら。」と一喝いっかつをくらわした。ふしぎなことに、私の口からは「ワン。」という声がもれた。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
その一喝いっかつこそ、塙隼人はやとの壮年時代から、鍛えぬかれたところである。「悪の仲間」をして戦慄せしめた、威力と正義の宣言である。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余りの軽薄さに腹を立てて一喝いっかつを喰わせることもあるが、大体において、後世おそるべしという感じを子路はこの青年に対して抱いている。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
富岡老人釣竿つりざお投出なげだしてぬッくと起上たちあがった。屹度きっと三人の方を白眼にらんで「大馬鹿者!」と大声に一喝いっかつした。この物凄ものすごい声が川面かわづらに鳴り響いた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
見向きもせずにぬッと立ちはだかって、ぬけぬけと語るそういう連中に向い、最後の威たけだかな一喝いっかつをくらわせねばならぬ必要を感じた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
今、おれをその下請のルンペンに見立てやがったのだ、ということを米友が覚ったから一喝いっかつしました。米友から一喝されても、その野郎はなおひるまず
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父の一喝いっかつって、這々ほうほうていで、逃げ帰った杉野子爵ししゃくは、ほんの傀儡かいらいで、その背後におそろしい悪魔の手が、動いていることを感ぜずにはいられなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おれの一喝いっかつで夢からさめたとき、自身でもまたやったかとおっかながって、おぞ毛をふるっていたじゃねえか
署長は「では何もかも言うのですぞ」と一喝いっかつして置いて、まず工場主から夫人失踪前後の模様を聴取した。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
其処そこだ!」と海野は一喝いっかつして、はたと卓子ていぶる一打ひとうちせり。かかりしあいだ他の軍夫は、しばしば同情の意を表して、舌者ぜっしゃの声を打消すばかり、熱罵ねつばを極めて威嚇いかくしつ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「駄目です」と私は気が立っていたから言下に一喝いっかつした。「もうこのあらそいはあなた方の諍いではありません。私とあの会社との諍いです。私は重大な侮辱を受けた。 ...
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「役目を捨ててなにごとだ、見苦しいぞ」惣兵衛の一喝いっかつは決定的だった、「この場の詮議せんぎは追てする、みな持場へかえれ、みだりに騒ぎたてると、屹度きっと申しつけるぞ」
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そんな古いものが役に立つものか」と何にも知らない主人は一喝いっかつにして迷亭君をめつけた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一喝いっかつすると「それでもデッキの方で誰か一人でもいいんですから」と泣きそうな顔をする。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、一応は、身体に触るといけないからといって、いさめたのですけれど、廣介の一喝いっかつにあって、たちまちひとすくみになり、唯々いいとして主命に服する外はありませんでした。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
太郎は、草履ぞうりを脱ぐももどかしそうに、あわただしく部屋へやの中へおどりこむと、とっさに老人の右の手をつかんで、苦もなく瓶子へいしをもぎはなしながら、怒気を帯びて、一喝いっかつした。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
喜楽の女将の一喝いっかつにあえば、多くの芸妓は縮みあがってしまう勢いがあった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そんなにあわてて騒ぐに及ばないと一喝いっかつした。そうしてその一喝した自分の声にさえ、実際は恐怖心が揺いだのであった。雨はますます降る。一時間に四分五分ぐらいずつ水は高まって来る。
水害雑録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
話下手はなしべたということはどうにもしようがない。花袋はそれをどうとったのか、「死が因襲であろうはずはない」と例の性急な口つきで声を励ました。鶴見はこの和尚の一喝いっかつを喫してたじろいだ。
最前からの山冷やまびえにて手足も凍え、其の儘に打倒うちたおれましたが、女の一心、がばと起上り、一喝いっかつ叫んでドンと入れました手練しゅれん柔術やわら、一人の舁夫はウームと一声ひとこえ、倒れるはずみに其の場を逃出しました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と老師は一喝いっかつしひょいと指を一本出し、太郎の眼前へぴたりと据えた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ひとりでやれ!」と奥から一喝いっかつ
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
天城四郎はといえば、本堂にあって、経櫃きょうびつの上に傲然ごうぜんと腰をおろし、彼の姿を見ると突っ立って、頭から一喝いっかつをくらわした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一喝いっかつしました。ここでこの野郎と言った意味はなんだかよくわかりませんが、今まで気のつかなかった疑問が、一時に解け出したような狼狽の仕方で、米友が
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むごくもたもとを振払いて、再び自家おのれの苦悩にもだえつ。盲人めしいはこの一喝いっかつひしがれて、くびすくめ、肩をすぼめて
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けしきばみながらどやどやと木刀小太刀だちひっさげて駆け迫ってきた門人どもに莞爾かんじとしたみを送ると、叱咜しったしたその一喝いっかつのすばらしさ! すうと胸のすくくらいです。
然しこの広告が富岡先生のこの世に放った最後の一喝いっかつで不平満腹の先生がせめてもの遣悶こころやり知人ちじんってらされたのである。心ある同国人の二三はこれを見て泣いた。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私も祖父から一喝いっかつをくらって縮みあがった覚えがある。小学校の三年生のとき、貯蓄奨励の意味でポストの恰好をした貯金箱を実費で購入して生徒にけてくれるというくわだてがあった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
「どうしたかッ」大江山警部は、ギョッとふりかえって、一喝いっかつした。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
坊ばは相変らず「ばぶ」と一喝いっかつして直ちに姉を辟易へきえきさせる。しかし中途で口を出されたものだから、続きを忘れてしまって、あとが出て来ない。「坊ばちゃん、それぎりなの?」と雪江さんが聞く。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小男は偽探偵の一喝いっかつに遭って、一縮みに黙り込んでしまった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母親はそう言って亭主を一瞥いちべつし、富次に向っては一喝いっかつした。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
休之助の一喝いっかつは痛烈であった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
木原伝之助は一喝いっかつしました。
躍りかかって、有無うむをいわせず縄を打とうとした判官末貞の部下も、振向いた僧の一喝いっかつと、その眼光にはっと足をすくめて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取舵とりかじ!」とらいのごとき声はさらに一喝いっかつせり。半死の船子ふなこ最早もはや神明しんめい威令いれいをもほうずるあたわざりき。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主膳が、怒鳴りつけるように一喝いっかつしたその調子が変ですから、鐚があわてて、逃げ腰になりました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
といわぬばかりにぎょうてんしたのを、つづいてまたピタリと胸のすく一喝いっかつ——
『黙れ! 生意気な』と老人は底光りのする目を怒らして一喝いっかつした。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
巡査部長の一喝いっかつで、若い警官たちはグッと唇をつぐんだ。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
老練だな、と不死人は見たので、ついに暴言を承知で「……おいッ、何とかいえ」と、一喝いっかつを放ってみたのである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
米友に一喝いっかつされた女中たちは、怖気おぞげをふるって雨戸を締めきってしまいました。それがために米友も、張合いが抜けて喧嘩にもならずにしまったのは幸いでありました。
変化へんげ出でよ、一喝いっかつで、という宵の内の意気組で居たんです。ちっとお差合いですね
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のぼせ返って聞きもしないことをまくしたてたものでしたから、鋭い一喝いっかつ
モレロの一喝いっかつで、ラルサンは首をちぢめた。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
信長が、一喝いっかつした時、日吉のうしろから追いすがった士の一人が、えりがみをって、彼の体を、大地へほうりつけた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一喝いっかつして追い飛ばしてくれようと身構えた時に、それは茂公ではないことが直ちにわかりました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
姦婦かんぷ」と一喝いっかつらいの如くうついかれる声して、かたに呼ばはるものあり。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)