麝香じゃこう)” の例文
麝香じゃこうの輸出先 この麝香はどこへ最も多く輸出されるかといいますと、この頃はシナよりもインドの方に余計に輸出されて居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
麝香じゃこうを噛んだような女の息を、耳元に感じた新九郎は、今にも頬へ触れてきそうな黒髪の冷たさを想像していらえをするのを忘れている。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沈香じんこう麝香じゃこう人参にんじんくま金箔きんぱくなどの仕入、遠国から来る薬の注文、小包の発送、その他達雄が監督すべきことは数々あった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「敏感な麝香じゃこう虫が騒ぎ出した」スルスルと窓まで走ったが、「困ったことだ! 何か起こる! 俺には解る、大事件が起こる!」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ぷんと、麝香じゃこうかおりのする、金襴きんらんの袋を解いて、長刀なぎなたを、この乳の下へ、平当てにヒヤリと、また芬と、丁子ちょうじの香がしましたのです。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近寄せてはなりませんぞ、御係りへはわたしから届ける、もう一つ、麝香じゃこうきなされ、無ければ持たせてよこす、毒を消すには至極だから
山椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あの黒方くろほうと云う薫物たきもの、———じんと、丁子ちょうじと、甲香こうこうと、白檀びゃくだんと、麝香じゃこうとをり合わせて作った香の匂にそっくりなのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なら、プンプン麝香じゃこうを匂わせた板倉屋が、そばへ寄って自分の刀を抜くのを待っているはずはねえ。白旗直八は自分の腰の物で刺されたんだぜ」
内障眼というがたい眼病だ、僕も再度薬を盛りましたが治りません、真珠しんじゅ麝香じゃこう辰砂しんしゃ竜脳りゅうのう蜂蜜はちみつに練って付ければ宜しいが、それは金が掛るから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
吾輩知る所を以てすれば、西半球にシュー人は鼠の近類たる麝香じゃこう鼠を創世神の一とす(一九一六年板、スペンスの『北米印甸人インディアンの鬼神誌』二七一頁)
立って箪笥たんす大抽匣おおひきだし、明けて麝香じゃこうとともに投げ出し取り出すたしなみの、帯はそもそも此家ここへ来し嬉し恥かし恐ろしのその時締めし、ええそれよ。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
名香のかおりに何処か麝香じゃこうをほのかにまじえた様な睫毛であった。あんな少女が生きているとは不思議な位だ。
人の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
が、ミスラ君がその花を私の鼻の先へ持って来ると、ちょうど麝香じゃこうか何かのように重苦しい匀さえするのです。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そうした大名にも出来ない気ままが、家のうちに充満して、彼女のくしげには何百両の鼈甲べっこうが寝せられ、香料の麝香じゃこうには金幾両が投じられるかわからなかった。
そして軽く麝香じゃこうの漂うなかで男の字のような健筆で、精巧な雁皮紙がんぴしの巻紙に、一気に、次のようにしたためた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
麝香じゃこうの無心があった事か如何どうか分らないが、手塚の二字を大阪なまりにテツカと云うそのテツカを鉄川と書いたのは、高橋順益じゅんえき思付おもいつきほどく出来てる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
麝香じゃこうでも肉桂にっけいでも伽羅きゃらでも蘭奢待らんじゃたいでもない。いやそんなものよりもっとよい、えも言われぬ香りでした。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
折から白い花を咲かせているどくだみは、その根を引き抜くとき、麝香じゃこうのような、執念ぶかい烈しいかおりみなぎらす。嗅神経がこれを迎えて、あわてていよいよ緊張する。
登は茶の盆をすこし左の方に押しやってから、コップの乗った盆を引き寄せ、それを持ってすこし舌のさきに乗せてみた。それは麝香じゃこうのようなにおいのある強烈な酒であった。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
見事な宝石や金の光彩と其の立派な上衣とを競はせて麝香じゃこうの匂をさせてゐるかみきりになるのだ。
要するに、にんじんの好みは一風いっぷう変わっている。しかも、彼自身、麝香じゃこうにおいはしないのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
近傍の……日天スールヤの堂でも見たのか。そこには、奇矯のかぎりを尽す群神の嬌態がある。それとも、麝香じゃこう沈香ちんこう素馨そけいの香りに——熱帯の香気に眩暈を感じたのではないか。
一週一夜物語 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
どうしてかと聞いてみると、それはわが国では得がたい麝香じゃこうというものであったそうな。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これは日本北岸原産の麝香じゃこうバラといふ珍種であるむねを主張してゆづらなかつた。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
まつつぁん。おめえ本当ほんとうに、おんなにおいは、麝香じゃこうにおいだとおもってるんだの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
一丁ほども行って、十八番館の煉瓦塀れんがべいについて曲ろうとしたとき、いきなり僕の左腕さわんに、グッと重味がかかった。そしてこの頃ではもうぎなれた妖気ようき麝香じゃこうのかおりが胸を縛るかのように流れてきた。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これは典医の光雅みつまさから、麝香じゃこうをふくむ貴薬とか申して贈ってくれたもの。これに少々だが金を添えて、女を慰めてやるがよい
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう人間の持って来る麝香じゃこうは少しも混り気がなくって、殊に大きな良いのを沢山持って来ますが値段は非常に安い。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
特に妙子の場合は、感情が激発した時や、生理的変化のある前後は、汗も、唾液も、涙も、あらゆる分泌液が、薫蒸した麝香じゃこうのように匂うのでした。
それがナ貴君あなたのお眼は外障眼がいしょうがんと違い内障眼ないしょうがんと云ってがたい症ですから真珠しんじゅ麝香じゃこう竜脳りゅうのう真砂しんしゃ四味しみを細末にして、これを蜂蜜はちみつで練って付ける、これが宜しいが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ポンポン桶をたたきながら黙って聞いていた桶屋おけやはこの時ちょっと自分のほうを見て変な目つきをしたが、「そしてその麝香じゃこうというのはその木の事かい、それともまた毛虫かい」
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
外観はつまらないが、中は贅沢なもので、抹香臭いのと同時に変に麝香じゃこう臭い所であった。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
牡動物が牝の心をくために身から出だす麝香じゃこう霊猫れいびょう香、海狸かいり香、がく香等を、今も半開未開の民が強勢の媚薬と尊重し、欧米人も興奮剤として香飾にしばしば入れるに異ならず。
片言交かたことまじりに彼等の云いそうな事を並べ立て、何でもの男は無心むしんを云われて居るに相違ないその無心は、屹度きっと麝香じゃこうれろとか何とか云われた事があるに違いないと推察して、文句の中に
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
高瀬で造り出した奇応丸きおうがんは、木曾山でとれるくまを土台にして、それにシナ朝鮮のほうから来る麝香じゃこうやにんじんなぞを用い、形もごく小粒な飲みいい丸薬として金粉きんぷんをかけたものですが
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それらの食物や水の中に、愛慾をそそる××質が——麝香じゃこうとか、芫花けんかとか、禹余糧うよりょうとか陽起石ようきせきとか、狗背くはいとか、馬兜鈴ばとれいとか、漏蘆ろろなどというそういう××質が、雑ぜられてあるということを。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
階上には一めんに花毛氈はなもうせんを敷いて、室の中も門口も、垣根も便所も、皆燈籠をけてあった。三四十人の麗しい女が公主を扶けて入ってきてかわるがわるおじぎをした。麝香じゃこうの気が殿上から殿外に溢れた。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
麝香じゃこうというのは、こんな匂いじゃないかしら)
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「三平、此の麝香じゃこうはいゝ匂いがするだろう。」
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は、貂蝉の肌に秘められていた鏡嚢かがみぶくろを見つけて、何気なく解いた。中には、貂蝉が幼少から持っていたらしい神符札まもりふだやら麝香じゃこうなどがはいっていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おもなる輸出品 英領インドの方へ輸出する品物は羊毛がおもで、次が麝香じゃこう、ヤクの尾、毛皮、獣皮くらいのもので、なお細かな物は少し位ずつ出るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一寸ちょいと往来でゞもそうでございます、若い綺麗な婦人に行会ゆきあいますと振返りたくなるが殿方の癖で、殊に麝香じゃこうの匂いがプーンと致しては我慢が出来にくいものだそうで
香料は皆言わば稀薄きはくである。香水の原料は悪臭である。所謂いわゆるオリジナルは屍人くさく、麝香じゃこう嘔吐おうとを催させ、伽羅きゃらけむりはけむったい油煙に過ぎず、百合花の花粉は頭痛を起させる。
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
狭間はざま作りの鉄砲がき! 密貿易の親船だ! 麝香じゃこう、樟脳、剛玉、緑柱石、煙硝、かも、香木、没薬もつやく、更紗、毛革、毒草、劇薬、珊瑚、土耳古トルコ玉、由縁ある宝冠、貿易の品々が積んである! さあ
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
加うるにその百余人の蛮卒は手に手に金銀珠玉或いは麝香じゃこうだの織物だの、持ちきれぬほどな財宝を持って、孟優の統率の下に、孔明の陣へ静々歩いてきた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とすぐに次! 次! 次! と順々に出る品物は、南京どんす幾巻いくまき鼈甲べっこう何斤なんぎん、皮、短銃、麝香じゃこう、さまざまな異国品ばかりが一しきりけいず買いの欲心を血走らせる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御方は今、朝の風呂から上がって、麝香じゃこうや、白檀油びゃくだんゆの匂いと覚えるものが、ぷんと鼻をうつばかりな化粧のに入って、心しずかに、いやが上の装いをらしている。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口中は麝香じゃこうをふくんだようである。ほのぼのと、身のうちはかろく
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)