“風貌:ふうぼう” の例文
“風貌:ふうぼう”を含む作品の著者(上位)作品数
寺田寅彦5
吉川英治4
紫式部4
島崎藤村4
太宰治3
“風貌:ふうぼう”を含む作品のジャンル比率
芸術・美術 > 絵画 > 絵画材料・技法100.0%
芸術・美術 > 芸術・美術 > 芸術史 美術史40.0%
文学 > フランス文学 > 小説 物語7.7%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
彼はその男の風貌ふうぼうや人柄を想像してみて、通俗小説にでもありそうな一つの色っぽい出来事と場面を描いてみたりしていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
閑居のことであるから、そんな人もやや近い所でほのかに源氏の風貌ふうぼうに接することもあって侍は喜びの涙を流していた。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かれは、人柄ひとがらとしては、まことに温和おんわ風貌ふうぼう分別盛ふんべつざかりの紳士しんしである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
——ブルさんとはその風貌ふうぼうぜんたいをさした仇名であるが、あまり似すぎているため、かえって興ざめなくらいであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし、そのころになってもまだ、彼の完全な沈黙は破られなかったし、風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然やわらげられはしない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
おおかめさんの風貌ふうぼうを、もすこしくわしくいえば、体の大きさと眼との釣合はくじらを思えばよかった。
にこりともしない風貌ふうぼうにはじめて接し、やはり私のかねて思いはかっていた風貌と少しも違っていないのを知り
『井伏鱒二選集』後記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そういえば「新青年しんせいねん」誌上にのっている金博士の顔は、蜘蛛の精じみた風貌ふうぼうをもっているよ。
天井板が吹き飛ぶかとばかり、豪快に笑った風貌ふうぼうを、あの時代の軍人の、一つのタイプとして、印象が深い。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
むしろ、何か悪霊あくりょうにでも取りかれているようなすさまじさを、人々は緘黙かんもくせる彼の風貌ふうぼうの中に見て取った。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
日本の学者たちの、この人にはおそらくはなはだ珍しかったであろうと思われる風貌ふうぼうを彼一流のシネマの目で観察していたことであろう。
北氷洋の氷の割れる音 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これ芭蕉が、蕪村に比して理知的な頭脳をもち、哲人としての風貌ふうぼうそなえていたことの実証である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
切れ目のはっきりしたすずしいつきだけはうつされている男女に共通のものがあってこの土地の人の風貌ふうぼうを特色づけていた。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おゆうの良人としての相良寛十郎は、一空さまも木場の甚も識っているので、人相風貌ふうぼうなどを話し合ってみると、完全に一致するのである。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
然るに、日本の小説家には、そうした風貌ふうぼうを感じさせる作家が、殆どれにしかいないのである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
それが、博士の性格的な風貌ふうぼうと相まって、博士の達識ぶりを、いちだんと引き立たせて見せていた。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
すべての飛鳥仏のごとく下ぶくれのゆったりした風貌ふうぼう茫漠ぼうばくとした表情のまま左手につぼをさげて悠然ゆうぜん直立している。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
田もはたけも凍りついた冬枯れの貧しい寒村。窮迫した農夫の生活。そうした風貌ふうぼうの一切が「猿なり」という言葉で簡潔によく印象されてる。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
彼はその目で、将軍の風貌ふうぼうをも熟視しようとしたが、それははなはだかたいことであった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ちょうどそのころ、彼はその海岸に住んでいるという、長男の同窓であるマルクス・ボオイの風貌ふうぼうをも、葉子のサルンでちょっと見る機会があった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もう一時間と経たないうちに、空襲によって風貌ふうぼうを一変した重病者「大東京だいとうきょう」のむごたらしい姿が、曝露ばくろしようとしている。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これらみ仏そのままの風貌ふうぼうで、飛鳥びとはこの辺を逍遥しょうようしていたのであろうか。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
正香らはつとめて西洋人の風貌ふうぼうを熟視しようとしたが、それは容易なことではなかった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし彼の風貌ふうぼうにはどことなく心の奥底のやさしみと美しさが現われていたように思う。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これに応じて山川草木の風貌ふうぼうはわずかに数キロメートルの距離の間に極端な変化を示す。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
製作者はまたその面に男女両性を与え、山嶽さんがく的な風貌ふうぼうをも付け添えてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
われわれはこの朦朧たる一枚の映像をたよりに彼女の風貌ふうぼうを想見するより仕方がない。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
要するに、なるべくその人が生きていた時の風貌ふうぼうや血色と違わぬようにするのである。
いかさま、主人大学の保証したとおり、一見するに目の動き、腰の低さ、高家の忠義無類な用人らしい風貌ふうぼうでしたが、しかし、その服装がいささか不審でした。
ネーには、このグロテスクな中に弱味を示したナポレオンの風貌ふうぼうは初めてであった。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
いまだ少年であった私がたとい翁と直接話をかわすことが出来なくとも、一代の碩学せきがく風貌ふうぼうのぞき見するだけでも大きい感化であった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
あごからほおへかけてりあとの青い男らしい風貌ふうぼうを持つてゐた。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
同じ曲をポリドールのフレッシュのひいているのは、先のヘンデルのソナタと一緒にアルバムに入っているが、録音の悪さのうちから、老教授の風貌ふうぼうが見えて面白い。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
二人の先生の言葉の調子は、その風貌ふうぼうの異なるようにちがっていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
私は最近、二科の会場でパリ以来久方ひさかたぶりの東郷青児とうごうせいじ君に出会った、私は東郷君の芸術とその風貌ふうぼう姿態とがすこぶるよく密着している事を思う。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
私は最近、二科の会場でパリ以来久方ひさかたぶりの東郷青児とうごうせいじ君に出会った、私は東郷君の芸術とその風貌ふうぼう姿態とがすこぶるよく密着している事を思う。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
いったい彼の風貌ふうぼうや性格には、つまり押しなべて彼の生まれつきには、何かしら捕捉しがたい魅力があって、それが女の気をいたり、女を誘い寄せたりするのだった。
三本ひげを蓄えた顔は、中国の大人たいじん風貌ふうぼうによく似ている。
(新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そういうふうに彼は二年も三年も漂然ひょうぜんといなくなって、現れるとムッツリとした風貌ふうぼうを示し、やがてまた人々に送られて、至極満足そうなニコニコ顔で出かけた。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とはいえ艶冶えんやたる風貌ふうぼうは二十四、五にしか見えなかった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
将来の有望なことが今から思われる風貌ふうぼうの備わった人であるのを
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
奥利根の釣聖、茂市の風貌ふうぼうに接するのも一つの語り草にはなる。
香魚の讃 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
彼の風貌ふうぼうのうちには、沈重ちんちょうな北方人の趣きと瞑想めいそう的な苦行者の趣きとがあるといわれているが、その心には、輝かしい溌剌はつらつたる魂が蔵せられていた。
しかし短檠たんけいの光に照らされたその風貌ふうぼうをみるに、色こそ雨露うろにさらされて下人げにんのごとく日にやけているが、双眸そうぼうらんとして人をるの光があり
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと云うのも、畢竟ひっきょう敦忠が母親似であったからで、中納言を見ると、遠い昔に会った母の風貌ふうぼうを想い起してなつかしさに堪えないと、滋幹は幾度か記しているのである。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「お見受けすればここら辺りのご住民とも見えぬご風貌ふうぼう、いかなるお方にござりましょうや。かく申す私は御嶽冠者と申す者。ここにおられるはオースチン老師、また数馬殿、筑紫権六」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
殊更、その風貌ふうぼうは、眉が美しく、鼻梁はなすじが通り、口元が優しくひきしまっているので、どちらかというと、業態ぎょうていにはふさわしからぬ位、みやびてさえ見える。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
四人とも皆高い貴族の子供たちで風貌ふうぼうが凡庸でない。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
次郎はまだ一度もその風貌ふうぼうに接したことはなかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
こんどの回では、後白河法皇の肖像画を見たかったが、肖像画全集も、所載誌の美術研究も手もとにないので、古い記憶の映像に、史料解釈を重ねて、その風貌ふうぼうや性格の片鱗を書いて行った。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
上のお兄様は陸軍の軍医になっていられ、兄が陸軍へ出るようになった始の頃に、地方へ検閲に行った時の上官で、一緒に写された写真を見ましたが、痩型やせがたの弱々しい風貌ふうぼうの人でした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
と、孝子が、ヒラヒラと見せびらかした一枚には「明治文学界八犬士」の見立みたてがある。滝沢馬琴ばきんの有名な作、八犬伝の八犬士の気質風貌ふうぼうを、明治文壇第一期の人々に見立てたのだ。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
三人の兄弟のだれと思い比べてみても、どこか世間をはなれたような飄逸ひょういつなところのある点でいちばん父の春田居士しゅんでんこじ風貌ふうぼうを伝えていたのではないかと私には思われる。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お嬢さんたちと立話をしてゐる私を、その父兄とでも思つたのだらうか、神父はにこやかに私に会釈をしたので、私もあわてて礼を返す拍子に、ふとかのウルガン伴天連バテレン風貌ふうぼうを思ひ浮べた。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
一見するに凛烈りんれつ、人を圧するような気品と凄気せいきをたたえて羽織はかまに威儀を正しながら雪の道に平伏している姿は、どうやら、一芸一能に達した名工、といった風貌ふうぼうの老人なのです。
人間が自然に各様式の風貌ふうぼうを以て生れては来るのであるが、便宜上馬に類する者、たぬきに類するものきつねに類するものを集めて、狸面、狐面と区別すると、説明がしやすいからだろうと思う。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
越中守もがっかりして奥へ引籠ひきこもっている。浪士達へは、伝えなければならない。——今朝はもう三日となった。後一日か二日——永遠にあの笑い声も、あの各〻の風貌ふうぼうも地上から消されるのだ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なにしろ、母親さんは、神聖にして犯すべからず——吾家うちじゃそう成っていましたからネ。しかし、叔父さん、小泉忠寛翁の風貌ふうぼうを伝えたものは——貴方の姉弟中で、吾家の母親さんが一番ですよ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
魅力ある輝かしき剛壮なる風貌ふうぼう
しかし光輝はそなえていて、かなり強烈な物質的生気をもった風貌ふうぼう、見せつけがましく傲然ごうぜんと差し出してる美しい肩、その美やまたは醜をも、男子をとらえるわなとなすだけの才能、などをもっていた。
むかし讃岐さぬきの国、高松に丸亀まるがめ屋とて両替屋を営み四国に名高い歴々の大長者、その一子に才兵衛さいべえとて生れ落ちた時から骨太く眼玉めだまはぎょろりとしてただならぬ風貌ふうぼうの男児があったが
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さて「高等中学」の教室に現われた教授ウンラートはと見ると、遠方から見たいったいの風貌ふうぼうがエミール・ヤニングスのふんした映画のウンラートにずいぶんよく似ているので、よくもまねたものだと多少感心した。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私は、それを一目みると何とも言えないいやな気持になって、「あの人間が!」と、ちょうどウロンスキイが、自分の熱愛しているアンナの夫のカレニンの風貌ふうぼうを見てけがらわしい心持になったと同じような気がして
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
彼の優雅な風貌ふうぼうの一つであってわれわれが既に述べたところの、あの子供らしい快活さをもって彼が話をする時、人は彼のそばにあっていかにも安易な気持を覚え、あたかも彼の全身から喜悦がわき出て来るかのようであった。
両手の指は筆の軸のように細く長く、落ちくぼんだ小さい眼はいやらしく青く光って、鼻は大きな鷲鼻わしばなほおはこけて口はへの字型、さながら地獄の青鬼の如き風貌ふうぼうをしていて、一家中のきらわれ者、この百右衛門が
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
このように彼の生活条件、彼の環境が限定されたものであったところから、従って形の見えるものであったところから、人間自身も、その精神においても、その表情においても、その風貌ふうぼうにおいても、はっきりした形のあるものであった。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
ドアを開けると、元来禁欲そうじみた風貌ふうぼうの彼にはよく似合うりたての頭をして、寝台しんだいにどっかと胡坐あぐらをかき、これも丸坊主の村川と、しきりに大声で笑いあって、なにかうれしそうに話をしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
組しやすい風貌ふうぼうの持ち主と見えるせいか、子どもたちによくからかわれるので、すさまじい世の中に、家もなく、身を守る何ものもない彼ではあったが、漂泊ひょうはくの行く先々にも、何か、知己はあるという心だけは失われずにある。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きき知ったか、奥の仕事べやから、両手をどろまみれのままで、当の藤阿弥がいかにも名ある人形造りらしい風貌ふうぼうをたたえながら、取り次がぬ先に姿をみせましたものでしたから、こわきにしていた髪の毛をつきつけると、鋭く問いただしました。
源氏の君を非常に愛しておいでになりながら、東宮にお立てになることは世上の批難を恐れて御実行ができなかったのを、帝は常に終生の遺憾事に思召して、長じてますます王者らしい風貌ふうぼうの備わっていくのを御覧になっては心苦しさに堪えないように思召したのであるが
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この名を覚えて置いたほうがいい。凄いやつらしいんだ。ライオンのような風貌ふうぼうをしているそうだ。留学生たちも、この人のいう事なら何でも聴く。絶対の信頼だ。そのおそるべき英傑の顧問が、その宮崎なんとかいう人をはじめ日本の民間の義士だ。ここが間一髪のところさ。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
吾人が今日の社会に望むものは、民衆と同じ側に立って演説する人——彼等はあまりに多すぎる——でなくして、むしろ彼等に対抗し、反対の側に立っていながら、しかも根柢こんていの足場に於て、民衆と同じ詩的精神の線上に立っているところの、一の毅然きぜんたる風貌ふうぼうを有する人物である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
しかし、象牙ぞうげの塔のガラス窓の中から仮想ディノソーラス「ジャーナリズム」の怪奇な姿をこわごわ観察している偏屈な老学究の滑稽こっけいなる風貌ふうぼうが、さくら音頭の銀座ぎんざから遠望した本職のジャーナリストの目にいかに映じるかは賢明なる読者の想像に任せるほかはないのである。
ジャーナリズム雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼の胸に描く飛騨の翁とは、いかにも山人やまびとらしい風貌ふうぼうをそなえ、すぎの葉の長くたれ下がったような白いあらひげをたくわえ、その広い額や円味まるみのある肉厚にくあつな鼻から光った目まで、言って見れば顔の道具の大きい異相の人物であるが、それでいて口もとはやさしい。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
風貌ふうぼうも、その時はちゃんとネクタイをしておられたし、飄々ひょうひょうなどという仙人じみた印象は微塵みじんも無く、お顔は黒く骨張って謹直な感じで、鉄縁の眼鏡の奥のお眼は油断なく四方を睥睨へいげいし、なつかしいどころか、私にはどの先生よりも手剛てごわいお方のように見受けられた。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
医学書生のやる学問は常に肉体に関することだから、どうしても全体の風貌ふうぼうが覚官的になって来るとおもうが、長谷川翁の晩年は仏学すなわち仏教経典の方に凝ったなどはなかなか面白いことでもあり、西洋学の東漸中、医学がその先駆をなした点からでも、医学書生の何処どこかに西洋的なところがあったのかも知れない。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
事変の前には、あの小づくりな上に、のろりとした風貌ふうぼうで、無能家老だの、昼行燈ひるあんどんなどと云われていた内蔵助——又事変後には、祇園や伏見で豪奢ごうしゃまいていを見せたり、そうかと思うと疾風迅雷に最後の目的に向い、儼然と、討入の事実を示して、天下を震駭しんがいさせている彼でもある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人の問答を聞いているのもおもしろいが、見ているのも妙だ、一人は三十前後のせがたの、背の高い、きたならしい男、けれどもどこかに野人ならざる風貌ふうぼうを備えている、しかしなんという乱暴な衣装みなりだろう、古ぼけた洋服、ねずみ色のカラー、くしを入れない乱髪らんぱつ! 一人は四十幾歳、てっぺんがはげている。
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)