トップ
>
顳顬
>
こめかみ
ふりがな文庫
“
顳顬
(
こめかみ
)” の例文
その
顳顬
(
こめかみ
)
の上や、両眼の下や、両頬の窪みには、濃い紫の死びと色があらわれていた。又その色は彼の長い指にも爪ぎわにもあった。
世界怪談名作集:14 ラザルス
(新字新仮名)
/
レオニード・ニコラーエヴィチ・アンドレーエフ
(著)
急に暗い眼つきをして、窓のほうへぼんやりと視線を漂わせていたが、右手の人差し指を曲げて
顳顬
(
こめかみ
)
にあてがうと、沈み切った声で
キャラコさん:05 鴎
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
私はその日が暮れ落ちて大きな夜が迫つてから、変に乾いた感じのする紙屑のやうな映像が
顳顬
(
こめかみ
)
にこびりついてしやうがなかつた。
山麓
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
いきなり
真向
(
まっこう
)
をなぐられたので、
額
(
ひたい
)
ぎわの左から
顳顬
(
こめかみ
)
へかけて随分ひどく打ち割られて、顔じゅうが血だらけになってしまったのです。
半七捕物帳:48 ズウフラ怪談
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
狸
(
たぬき
)
が
真物
(
ほんもの
)
になって、ツイ、うとうととした平次、ガバと飛起きて行って見ると、お静は流し元に
崩折
(
くずお
)
れて、
顳顬
(
こめかみ
)
を押えております。
銭形平次捕物控:019 永楽銭の謎
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
▼ もっと見る
顳顬
(
こめかみ
)
と後頭部にほんの僅かばかり残っていた髪の毛はすっかりもつれて、脇や胸や、それにズボンが全体に雪だらけになっていた。
外套
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
彼女はいきなり自動車から引出された男のそばに
馳
(
かけ
)
寄った。そこにぐったり寝て、
顳顬
(
こめかみ
)
に血の塊りをつけた男は木島三郎であった。
腐った蜉蝣
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
彼は冷ややかで落ち着いて重々しく、半白の髪をすっかり
顳顬
(
こめかみ
)
の上になでつけ、いつものようにゆっくり階段を上がってきたのだった。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
彼れは夫れを見ると鋭利なメスを頭蓋骨に達するまで刺透して、右の
顳顬
(
こめかみ
)
から左の顳顬にぐつと引きまはしたい衝動に襲はれた。
実験室
(旧字旧仮名)
/
有島武郎
(著)
背が高く、強壮で、頭がすっかり
禿
(
は
)
げ、金縁眼鏡で
顳顬
(
こめかみ
)
をはさみつけ、かなりの
容貌
(
ようぼう
)
だった。彼はみずから病気だと思っていた。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
顳顬
(
こめかみ
)
に
即効紙
(
そっこうし
)
をはって、
夜更
(
よふ
)
けまで賃仕事にいそしむ母親の
繰
(
く
)
り
言
(
ごと
)
を聞くと、いかなる犠牲も
堪
(
た
)
えなければならぬといつも思う。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
そこで私は、私の
頭腦
(
あたま
)
に、その返答を速く探せ、と命令した。
頭腦
(
づなう
)
は、次第に
速
(
はや
)
く働き出した。私は、頭にも
顳顬
(
こめかみ
)
にも脈打つのを感じた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
「
顛倒上下
(
テンダウジヤウゲ
)
。……
迭相顧戀
(
テチソウコレン
)
。
窮日卒歳
(
グニチソチサイ
)
……
愚惑所覆
(
グワクシヨブ
)
」——暫らくすると、圭一郎は
被衾
(
よぎ
)
の襟に顏を埋め兩方の拳を
顳顬
(
こめかみ
)
にあて
崖の下
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
プリニウス言う、ハジ(アフリカの帽蛇)の眼は頭の前になくて
顳顬
(
こめかみ
)
にあれば前を見る事ならず、視覚より足音を聴いて動作する事多しと。
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
と不意を喰らった雨龍太郎は、すぐ大刀を抜き合せたが志摩の鋭い切尖に、
顳顬
(
こめかみ
)
から頬を
掠
(
かす
)
られて
朱
(
あけ
)
に染まって横倒れになる。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
ピストルは右の
顳顬
(
こめかみ
)
から約五センチメートルほど離れたところから発射され、死の時間は昼食後一時間乃至二時間後であることをたしかめた。
闘争
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
で、単に
涯
(
はて
)
しれぬ哀愁と倦怠のほか何の理由もなく、彼はそのピストルを
顳顬
(
こめかみ
)
へもっていって、押しつけて、引金をひいた。
孤独
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
コルク張りの床に俯伏せに倒れて、硬直した右手にピストルを握り、血の流れている右の
顳顬
(
こめかみ
)
には煙硝の吹いた跡がある。
遺書に就て
(新字新仮名)
/
渡辺温
(著)
そして両の
顳顬
(
こめかみ
)
のあたりに、結核性とも見えるような、かすかな赤みがさし、目玉は昨日よりも更にどんよりとしていた。
女と帽子:――「小悪魔の記録」――
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
イベットは両手で小田島の腕を握り、毛織物を通して感じられる日本人独特の筋肉が円く盛上った上膊に
顳顬
(
こめかみ
)
を
宛
(
あて
)
がった。
ドーヴィル物語
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
暗色の髪は短く刈りこんで、
顳顬
(
こめかみ
)
のところだけちょっと前へ
梳
(
と
)
き出してあった。彼は軍隊式に活発な大またで歩いて来た。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
この間やはりここへ散歩の足を運んだ時には、この道を上り下りするだけで胸が高鳴り、呼吸が亂れ、
顳顬
(
こめかみ
)
のあたりがづきづきして顏がほてつた。
生活の探求
(旧字旧仮名)
/
島木健作
(著)
そんな大言壮語したあとではきつと、頭が痛いと苦しがつて両手で
顳顬
(
こめかみ
)
を揉むのが例になつてゐる。
莫迦
(
ばか
)
なことである。
現代詩
(新字旧仮名)
/
武田麟太郎
(著)
そのうちにタッタ今のこと、
隙
(
すき
)
を窺ったロスコー氏は哀れにもポケットからピストルを取出し、自分の頭の
顳顬
(
こめかみ
)
上部を射撃して自殺してしまった。
S岬西洋婦人絞殺事件
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
嫌な奴だな、と思いながら、
顳顬
(
こめかみ
)
へ当てた手の指の間から、三次、それとなしに見守りだした。のっぺりした好い男で、何となくそわそわしている。
早耳三次捕物聞書:02 うし紅珊瑚
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
焦点
(
ピント
)
が……焦点が……その焦点が
外
(
はず
)
れてるぞ! といわんばっかりに、未亡人の
顳顬
(
こめかみ
)
がピクピクするから、ひとまず問答もこれで打ち切らざるを得ぬ。
グリュックスブルグ王室異聞
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
脣
(
くちびる
)
も時時ひき
攣
(
つ
)
るらしい。その上ほのかに
静脈
(
じやうみやく
)
の浮いた、
華奢
(
きやしや
)
な
顳顬
(
こめかみ
)
のあたりには薄い汗さへも光つてゐる。……
わが散文詩
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
しかし、そう云いながら、里虹はぜいぜいと息を切らし、
顳顬
(
こめかみ
)
の脈管が、蛇のように膨れ上っているのが見えた。
人魚謎お岩殺し
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
あはれ姥桜、残んのいろ香艶に婉なる三十女お藤が
匂
(
かぐ
)
はしき体臭よ。癇癪持らしい色白面長のその
顳顬
(
こめかみ
)
には頭痛膏の江戸桜が小さく切つて貼られてゐよう。
山の手歳事記
(新字旧仮名)
/
正岡容
(著)
どうかした拍子に
顳顬
(
こめかみ
)
に浮かぶギラリとしたものが、やはり、複雑な過去を潜めており、そう単純に親切ではあり得ないことを暗示しているようでもある。
曲者
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
いかに
窶
(
やつ
)
れたことであろう! 高い鼻は尖って
棘
(
とげ
)
のようになり
顳顬
(
こめかみ
)
は槌で叩かれたかのように、痩せてくぼんでへっこんで、広がった額が
狭
(
せば
)
まって見える。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
帆村はうずく
顳顬
(
こめかみ
)
をおさえつつ、このノートに見入った。ここで急速に答を出さなければならない。六桁の被除数は、まだ第一数字しかわかっていないのだ。
暗号数字
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
博士は
顳顬
(
こめかみ
)
を
拇指
(
おやゆび
)
で押へた
儘
(
まゝ
)
じつと考へ込んでゐると、都合よく
道真
(
みちざね
)
公の歌がひよつくりと滑り出して来た。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
やわらかい
金色
(
こんじき
)
な髪をまん中で二つに分け、それが金の波を打つ二つの河になって両方の
顳顬
(
こめかみ
)
に流れているところは、王冠をいただく女王のように見えました。
世界怪談名作集:05 クラリモンド
(新字新仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
と清は
顳顬
(
こめかみ
)
に両方の人差し指を当てた。頭痛膏の意味だ。御機嫌の悪い時に貼るから、清には低気圧の信号になっている。尚おお隣りの女中は清の学校友達だ。
求婚三銃士
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
で
其毛
(
それ
)
を下に
垂
(
た
)
らして
吊鬚
(
つりひげ
)
のような具合に見せて居るのです。しかしそれを
厳
(
きび
)
しい僧官に見付けられますとその
顳顬
(
こめかみ
)
に生えて居るところの毛を
引抜
(
ひきぬ
)
かれてしまう。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
桃子の柔かい巻毛のこぼれている
顳顬
(
こめかみ
)
のところへ心からな親愛の接吻を与える心持をこめて、順助は
夜の若葉
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
私は池へ行つてそれを洗つた。私の不注意からできた
顳顬
(
こめかみ
)
の上の疵を、さつきの鶴嘴の手応へを私は後悔してゐた。部屋に帰つて、私はそれをベッドの下に置いた。
測量船
(新字旧仮名)
/
三好達治
(著)
顫える指先で盛んに
顳顬
(
こめかみ
)
のあたりをトントンと軽く叩きながら、塑像のように
立竦
(
たちすく
)
んでしまった。
石塀幽霊
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
蜘蛛の巣よりも柔かく細い髪の毛。それらの特徴は、
顳顬
(
こめかみ
)
のあたりの上部が異常にひろがっていることとともに、まったくたやすくは忘れられぬ容貌を形づくっている。
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
紫縮緬
(
むらさきちりめん
)
の
錏頭巾
(
しころずきん
)
をかぶり、右の
顳顬
(
こめかみ
)
にあたる所に小き
錠
(
じょう
)
を附け、紫縮緬に大いなる
鴉
(
からす
)
数羽飛びちがひたる模様ある綿入に、
黒手八丈
(
くろではちじょう
)
の下着、白博多の帯、
梅華皮
(
かいらぎざめ
)
の一本差
両座の「山門」評
(新字旧仮名)
/
三木竹二
(著)
殊に午後になると、
顳顬
(
こめかみ
)
に動悸を打って痛んで来る。或は「よくない行為」のせいではないか、とも疑う。私は更に不愉快になる。とにかく、その頃の私は感情が変り易い。
澪標
(新字新仮名)
/
外村繁
(著)
その
顳顬
(
こめかみ
)
の筋肉が、ピク/\動いたかと思ふと、彼は顫へる手で箸を降しながら、それでも声
丈
(
だ
)
けは、平静な声を出さうと努めたらしかつたが、変に上ずツてしまつてゐた。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
五人の
従同胞
(
いとこ
)
の中の唯一人の男児は、名を巡吉といつて、私より
年少
(
としした
)
、
顳顬
(
こめかみ
)
に火傷の痕の大きい禿のある児であつたが、村の駐在所にゐた木下といふ巡査の種だとかいふので
刑余の叔父
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
さう云ひながら三枝は自分の蒲團からすこし身體をのり出して、私のづきづきする
顳顬
(
こめかみ
)
の上に彼の冷たい手をあてがつた。私は息をつめてゐた。それから彼は私の手頸を握つた。
燃ゆる頬
(旧字旧仮名)
/
堀辰雄
(著)
それから
身体
(
からだ
)
が生れ代ったように丈夫になって、
中音
(
ちゅうおん
)
の
音声
(
のど
)
に意気な
錆
(
さび
)
が出来た。時々頭が痛むといっては
顳顬
(
こめかみ
)
へ
即功紙
(
そっこうし
)
を張っているものの今では滅多に
風邪
(
かぜ
)
を引くこともない。
妾宅
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
薄い頭髪、然うとは見えぬやうにきように
櫛卷
(
くしまき
)
にして、
兩方
(
りやうほう
)
の
顳顬
(
こめかみ
)
に
即効紙
(
そくかうし
)
を張ツてゐた。
白粉燒
(
おしろいやけ
)
で
何方
(
どつち
)
かといふと色は
淺黒
(
あさぐろ
)
い方だが、鼻でも口でも
尋常
(
じんじやう
)
にきりツと締ツてゐる。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
現在は小説書きという特殊な職業をやっているものの、根が労働者であるせいか頑固な
身体
(
からだ
)
つきで、それがひどくシンが疲れているとみえて、
顳顬
(
こめかみ
)
あたりには白髪がめだっていた。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
どうしたらそれを手に入れられるだろうか? それが(
顳顬
(
こめかみ
)
を両手で押しつけながら)
ジーキル博士とハイド氏の怪事件
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
顳顬
(
こめかみ
)
や
頬
(
ほお
)
から、
頸
(
くび
)
へ滑り落ちようとした、男の指をまだ肌が感じている。女は門口へ出た。そこには
誰
(
たれ
)
もいない。
家主
(
いえぬし
)
の女は夕食の品物を買いに出たはずだという事を思い出した。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
“顳顬(こめかみ)”の解説
こめかみ(顳顬、蟀谷、en: temple)とは、頭の両側の目尻の後、目と耳のつけ根のほぼ中間にある、皮膚のすぐ下に骨(側頭骨)のある場所のことである。こめかみから下顎までを結ぶ側頭筋という筋肉があり、顎の動きに連動してこめかみが動く。
(出典:Wikipedia)
顳
漢検1級
部首:⾴
27画
顬
漢検1級
部首:⾴
23画
“顳顬”で始まる語句
顳顬窩
顳顬筋
顳顬骨