面当つらあて)” の例文
旧字:面當
そんなら、僕への面当つらあてに死んだんやないか。そんな水臭いことてあるかい……。商売上のことは、そらお前にはいちいち云へへん。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
もう一度石にくいついても恢復なおって、生樹なまきを裂いた己へ面当つらあてに、早瀬と手を引いて復讐しかえしをして見せる元気は出せんか、意地は無いか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その様子がどう見ても何か訳がありさうに思はれたので、女は前後の考なく、男への面当つらあてにふいと外へ出てしまつたのだといふ話でした。
畦道 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それから皆が相談して「トルストイ」に何か進物をしようなんかんて「トルストイ」連は焼気やっきになって政府に面当つらあてをしているという通信だ。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と散々にあやまったのでヤット源次だけは盃を引いたが、他の者は、その源次へ面当つらあてか何ぞのように、無理やりにお作を押しけてしまった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
近く新劇「鶏頭」を巴里への面当つらあてに羅馬、ミラノ、ゼノア、フィイレンチェの四箇所で同時に上場しようとして居たのに
台風 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
こんな時、彼は車掌の依頼に応じない乗客達に、面当つらあてとして自分だけは、グン/\中央部へ突進するのが、好きであつた。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ですから、昨夜ルキーンとの結婚を拒んだのも、私には父に対する面当つらあてとしか思われません。実は昨夜こうなんです。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
叔父は武家奉公は面倒だから町家ちょうかけと申しまして彼方此方あちらこちら奉公にやりますから、私も面当つらあてに駈出してやりました
然し隠居をしても、濶達な重豪は、自分に面当つらあてのようなこの政策に、激怒した。そして直ちに、秩父を切腹させ、斉宣を隠居させ、斉興を当主に立てた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
あまり日数が経つので、私はとうとう気を腐らして、頑固な編輯整理に対する面当つらあてから、芥川氏の同意を得て、その原稿を未掲載のまま撤回することにした。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
死んでいる、死んでいる。防寨ぼうさいで生命を投げ出したのだ、このわしを恨んで。わしへの面当つらあてにそんなことを
番地の附いている名刺に「十一時三十分」という鉛筆書きがある。金井君は自分の下等な物に関係しないのを臆病のように云う同国人に、面当つらあてをしようという気になる。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
帰って来たおゆうが、一つはしゅうとめや父親への面当つらあてに、一つは房吉にねるために、いきなり剃刀かみそりで髪を切って、庭の井戸へ身を投げようとしたのは、その晩の夜中過であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一つには、腑甲斐ない俺を励ますつもりもあったろうし、俺に対する面当つらあてもあったろうが、その狂言に自分から引っかかっていった。もう立派な病気で、時々その発作を起した。
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
私の母は口惜くやしさにふるえながら、やけ気味に、面当つらあてに、私をその場で無茶苦茶にひっぱたいた。私は痛さにヒイヒイ云って泣いた。しかし、源公のおふくろは、めもしなかった。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「アアア、それだから、アアア、ほんとうにお前さんは頼りにならないといふの。何も面当つらあてがましく出る出るつて言ふ必要もないだらうに。行先もない宿無しが、何で簡単に出られるものか」
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
ドーッとすぐあとで楽屋から笑い声がぶつけられてきた、面当つらあてがましく。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
私も腹を立てていたので、私の目の前で妻が薬を出したのを見て、私への面当つらあてにそんな真似をやるのか、勝手にしろと思っていました。処が狂言ではなく、妻はそれを一と息に呑んでしまったんです。
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
是れもいささか面当つらあてだと互にわらって、朋友と内々ないないの打合せは出来た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
面当つらあてに、死んでやるんです」と、おそろしい力でもがいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少しは米吉への面当つらあてでしょう。
こう、おめえたちにゃ限らねえ。世間にゃそうした情無なさけねえ了簡な奴ばかりだから、そんな奴等へ面当つらあてに、河野の一家いっけ鎗玉やりだまに挙げたんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その態度がお重には見せびらかしの面当つらあてのように聞えた。早く嫁に行く先をきめて、こんなものでも縫う覚悟でもしろというなぞにも取れた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神様にしても、こんな事位で三度々々さうお礼を言はれては、何だか面当つらあてがましく聞えない事もなからう。
又は周囲に対するテレ隠しや、相手に対する面当つらあてなどの意味も含まれていない事は無いと考えられます。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「各々方、今夜はお別れでござる。我々に無礼を働く鳥取藩士への面当つらあてに、明日は潔い最期を心掛けようではござらぬか。各々方が、平生の覚悟を拝見しとうござる」
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
是れでお瀧は茂之助へ面当つらあてしく、わざとつい一里と隔たぬ猿田村やえんだむら取附とりつきに山王さんのうさまの森が有ります、其の鎮守の正面むこうに空家が有りましたからこれを借り、葮簀張よしずばり掛茶店かけぢゃやを出し
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
とらのように女に夢中になれば、少なくとも獅子ししのように戦えるんだ。それは女から翻弄ほんろうされた一種の復讐ふくしゅうだ。ローランはアンゼリックへの面当つらあてに戦死をした。われわれの勇武は皆女から来る。
すると爺さんは逃げおくれたまま立っている人たちへ面当つらあてがましく
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
見くびって、面当つらあてかくまてを致すと見える
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
は愛をざきにする。面当つらあてはいくらもある。貧乏は恋を乾干ひぼしにする。富貴ふうきは恋を贅沢ぜいたくにする。功名は恋を犠牲にする。我は未練な恋を踏みつける。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
生意気に道学者に難癖なんぞ着けやあがって、てめえ面当つらあてにも、娘は河野英吉にたたッ呉れるからそう思え。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ささ。それが左様さよう手軽には参らぬ。与九郎奴の追放は薩藩への面当つらあてにも相成るでな」
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そんだら、はあ、丁度おらが娘聟の持地とおつつかつつだと見えるだね。」農夫ひやくしやうは面と向ふ折には、こつぴどく面当つらあてを言はないでは置かない同じ口で、自慢さうに娘聟の噂を始めた。
彼様な奴だから三十両か四十両の端金はしたがねで手を切って、お前をうちへ連れて行って、身体さえ丈夫になれば立派な処へ縁附ける、も無ければ別家べっけをしてもい、彼奴あいつ面当つらあてだからな、えゝ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
歇私的里性ヒステリーしょうの細君に対して、どう反応するかを、よく観察してやる代りに、単なる面当つらあてのために、こうした不自然の態度を彼女が彼に示すものと解釈して
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「何じゃ——(八百半やおはんの料理はまずいまずい、)はあ、可厭いやな事を云う、……まるでわし面当つらあてじゃ。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
チャイナ号の向い合わせに繋留かかっていたアラスカ丸の船長……貴下あなた発見みつけて拾い上げた……チャイナ号へ面当つらあてみたいに小僧の頭をでて、慰め慰め拾い上げて行った……という話なんです。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あなたは私が家にいるのを面白く思っておいででなかったでしょう。だから私が家を出ると云うのに、面当つらあてのためだとか、何とか悪く考えるのがいけないです。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それに、貴下あなた打棄うっちゃっておいでなすったと聞きました、その金剛杖こんごうづえまで、一揃ひとそろい、驚いたものの目には、何か面当つらあてらしく飾りつけたもののように置いてある。……」
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むなしき家を、空しく抜ける春風はるかぜの、抜けて行くは迎える人への義理でもない。こばむものへの面当つらあてでもない。おのずからきたりて、自から去る、公平なる宇宙のこころである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だけどもねえ、身でも投げて死んじまうと、さも面当つらあてにしたようで、どんなに心配を懸けるか知れないし、愛想を尽かされると、死んでからも添われないと悪いから。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それには用意がなければならず、覚悟もしないじゃ出来まいが、自分へ面当つらあてなら破れかぶれ。お千世へだけの事だったら、陰でほころびを縫うまで、と内気な女が思直す。……
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「連れて行っても好いですが、あんまり面当つらあてになるから——なるべくなら穏便おんびんにした方が……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兄妹きょうだいとして云えば、自分とお重とは余り仲のい方ではなかった。自分が外へ出る事を、まず第一に彼女に話したのは、愛情のためというよりは、むしろ面当つらあての気分に打勝たれていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御老体にして見れば、そこらのゆきがかり上、死際しにぎわのめくらが、面当つらあてに形をあらわしたように思召しましたろうし、立入って申せば、小一の方でも、そのつもりでござりましたかも分りません。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
実を云うと自分は相当の地位をったものの子である。込み入った事情があって、こらえ切れずに生家うちを飛び出したようなものの、あながち親に対する不平や面当つらあてばかりの無分別むふんべつじゃない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
鳥羽の鬼へも面当つらあてに、芸をよく覚えて、立派な芸子になれやッて、姉さんが、そうやって、目に涙を一杯ためて、ぴしぴしばちちながら、三味線を教えてくれるんですが、どうした因果か
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)