開闢かいびゃく)” の例文
すでに平民へ苗字みょうじ・乗馬を許せしがごときは開闢かいびゃく以来の一美事びじ、士農工商四民の位を一様にするのもといここに定まりたりと言うべきなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今でいえば科学普及というたぐいであろうが、その先生の話をきいていると、何だか宇宙開闢かいびゃく以前の夢の方が余計に聯想れんそうされやすかった。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
然り、義経及びその一党はピレネエ山中最も気候の温順なる所に老後の隠栖いんせいぼくしたのである。之即ちバスク開闢かいびゃくの歴史である。
風博士 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
この渓谷けいこくの水が染物そめものによくてきし、ここの温度おんどかわづくりによいせいだというか、とにかく、おどしだに開闢かいびゃくは、信玄以来しんげんいらいのことである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まして、この大湖の岸には、飛騨の高山と違って、日本開闢かいびゃく以来の歴史があり、英雄武将の興亡盛衰があり、美人公子の紅涙があるのです。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
宇宙開闢かいびゃく論的見解や夢想や神秘説などを外にして、社会主義者らが提起する問題のすべては、二つの主要なる題目に帰結することができる。
其身斗満の下流に住みながら、翁の雄心ゆうしんはとくの昔キトウスの山を西に越えて、開闢かいびゃく以来人間を知らぬ原始的大寂寞境の征服にせて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その日をこの地方の者は決して忘れますまい、——というのは、開闢かいびゃく以来吹いたことのないような、実に恐ろしい台風の吹きあれた日ですから。
かくのごとき社会の大変態は、開闢かいびゃく以来、いまだかつてないことであろうとは、もはや、だれもがそれを疑うものもない。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日本はおろか、支那でも、西洋でも、いな、世界開闢かいびゃく以来、いまかつ何人なんぴとによっても試みられなかったであろうと、僕はおおいに得意を感ぜざるを得ない。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そうしてそこは、揚子江、黄河、メーコン三大河の水源をなし、氷河と烈風と峻険しゅんけん雪崩なだれとが、まだ天地開闢かいびゃくそのままの氷の処女をまもっている。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
もしくも厳冬の候に起これば、人々の苦痛と惨状とはいっそう烈しいであろう。その日は『患難なやみの日』だ。天地開闢かいびゃく以来、空前絶後の患難だろう。
……天地開闢かいびゃくの始め、イーブに智慧のこのみを喰わせたサタンの蛇が、更に、そのアダム、イーブの子孫を呪うべく、人間の頭蓋骨の空洞に忍び込んで
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
天然の色彩を写したいという事は写真というものの開闢かいびゃく以来の希望であったが、始めて一つの名案を出して喝采を博したのは仏のリップマン氏である。
天然色写真新法 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
高祖開闢かいびゃくの霊場で、高祖の心血の御作ぎょさくたる「座禅儀」を拝誦するありがたさが彼の心身に、ひしひしと浸み渡った。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
土佐で西洋音楽会が開かれたのは、これが開闢かいびゃく以来はじめてであったので、大勢の人が好奇心にかられて参会した。
馬鹿にならないどころか、この疑は、春の沼辺の水草の根の様に、見る見る、彼の心の中に根を張り枝を伸ばして行く。世界開闢かいびゃく説についてばかりではない。
セトナ皇子(仮題) (新字新仮名) / 中島敦(著)
そんな事はお江戸開闢かいびゃく以来のことと見えて、アンポンタンの幼い頃にも忘れない不思議な光景を残している。
しかし、刃物を使った人殺しは、天地開闢かいびゃく以来はじめてなんですよ。なんしろ、切れもの、刃物、刃のついているものはいっさいご禁制のご牢内なんだからね。
これは開闢かいびゃく以来の大仇討、昨夜本所松坂町吉良上野介様のやしきへ討入った浅野浪士の一党四十七人、しゅうあだ首級しるしを揚げて、今朝こんちょう高輪の泉岳寺へ引上げたばかり
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
かえりに区役所前の古道具屋で、青磁せいじ香炉こうろを一つ見つけて、いくらだと云ったら、色眼鏡いろめがねをかけた亭主ていしゅ開闢かいびゃく以来のふくれっつらをして、こちらは十円と云った。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「全くだよ、狸が泥棒したって話は、開闢かいびゃく以来だ。猫に小判ならわかるが、狸に小判じゃ洒落しゃれにもならねえ。神田からわざわざ本所まで恥をかきに来たようなものさ」
まずその手始めとして斑足太子をたぶらかし、天地開闢かいびゃく以来ほとんどそのためしを聞かぬ悪虐をほしいままにしている。今お前が見せられたのはその百分の一にも足らぬ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
言葉の修練を積むに従って詩の天地が開闢かいびゃくする。鶴見はおずおずとその様子を垣間見かいまみていたが、後には少し大胆になって、その成りゆきを見戍みまもることが出来るようになった。
全世界を通じていえば、どこにも戦争のないという日は開闢かいびゃく以来おそらく一日もなかろう。
戦争と平和 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
このために、大阪市は開闢かいびゃく以来見たことのない芸術的の都市になるであろうと考えられた。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
石鎚山や白山の開闢かいびゃくに関する縁起は、大体に於て信ずるに足るものであるが、それにも優りて『性霊集』に載っている「沙門勝道歴山水瑩玄珠碑並序」の文は、弘法大師の作に係り
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
大風はつのり募りて暴風となり、台風たいふうとなり、開闢かいびゃく以来、記録に存せざる狂風となれり。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
開闢かいびゃく以来この世にうようよして、たがいにぶっつかりあっているほかの思想や理論にくらべて、より愚劣だったというのだ? 完全に独立不羈どくりつふきな、日常茶飯事の影響から離脱した
ここに於て私は断言する。吾人はまさに国家開闢かいびゃく以来の皇恩に対し、努力して報恩の誠を致さねばならぬ。この皇恩に報ずるの道は吾人の理想を実現するにある。吾人の理想とは如何いかん
早稲田大学の教旨 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
われわれに開闢かいびゃく以来大和やまと民族が発音した事のない、T、V、D、F、なぞから成る怪異な言語をい、もしこれを口にし得ずんば明治の社会に生存の資格なきまでに至らしめたのは
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「恩に掛けて手を引かせる、開闢かいびゃく以来ない図だな。それもよかろう。さあ立ったり」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これぞ我大日本国の開闢かいびゃく以来いらい、自国人の手を以て自国の軍艦ぐんかん運転うんてんし遠く外国にわたりたる濫觴らんしょうにして、この一挙いっきょ以て我国の名声めいせいを海外諸国に鳴らし、おのずから九鼎きゅうてい大呂たいりょおもきを成したるは
ゆえに、これを暗夜の提灯ちょうちんと心得てよろしい。その提灯は霊魂の所在ばかりでなく、世界開闢かいびゃくの前より閉鎖の後まで照らすことができる。さてもさても広大無辺の提灯ではありませぬか。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
まことに百間橋を七台の自動車が舳艫じくろ相銜あいふくんで渡るなぞは開闢かいびゃく以来の出来事だった。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうなって御覧ごろうじろ、役者としては、日本開闢かいびゃく以来の名誉ではあるまいか——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
易牙えきがが彼の子供を蒸して桀紂けっちゅうに食わせたのはずっと昔のことで誰だってよくわからぬが、盤古が天地を開闢かいびゃくしてから、ずっと易牙の時代まで子供を食い続け、易牙の子からずっと徐錫林じょしゃくりんまで
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そして開闢かいびゃく以来の珍事で、村の郵便局はヘコ垂れ切っているのであろうか。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もとより暴君汚吏おり民を悩まし人をぎょしたるものもすくなからざりしといえども、概して論ずれば徳川時代の封建政治は、我が国民に取りては、開闢かいびゃく以来無上むじょうの善政たることは、吾人ごじんが敢て断言する処。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
さてその神代の巻は我が国の開闢かいびゃく以来の話だといわれ、そうしてそれが我が国の最古の史籍であるというためか、とかく世間ではそれに、我々の民族もしくは人種の由来などが説いてあるように思い
神代史の研究法 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
続紀しょくきには、天平二十一年二月、陸奥みちのく始めて黄金をみついだことがあり、これは東大寺大仏造営のために役立ち、詔にも、開闢かいびゃく以来我国には黄金は無く、皆外国からのみつぎとして得たもののみであったのに
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「講義がおもしろいわけがない。君はいなか者だから、いまに偉い事になると思って、今日こんにちまでしんぼうして聞いていたんだろう。愚の至りだ。彼らの講義は開闢かいびゃく以来こんなものだ。いまさら失望したってしかたがないや」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
開闢かいびゃくとは今日のことなり
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
西洋の数字にいたっては、わずかに十字なりといえども、開闢かいびゃく以来、人の知らざるものなれば、これを学ぶにも多少の精神を費さざるをえず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この回ではまだ法住寺殿ほうじゅうじでん焼打のところまで進んでいないが、開闢かいびゃく以来の宮中合戦が行われたあとでも、兼実は日記のうちに、こう書いている。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実際こうした趣味は天地開闢かいびゃく以来ある趣味なのでしょうか。それとも飛行機と一所いっしょに生まれた趣味なのでしょうか。
ナンセンス (新字新仮名) / 夢野久作(著)
近世の星雲宇宙開闢かいびゃく論によって確かめられた、ということを君に話したから、君がきっとオリオン星座の大星雲を見上げるだろうと思って、予期していたんだ。
この峨眉山という山は、天地開闢かいびゃくの昔から、おれが住居すまいをしている所だぞ。それもはばからずたった一人、ここへ足を踏み入れるとは、よもや唯の人間ではあるまい。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
常に人類の危機と社会の開闢かいびゃくとに交じっていて、一定の時機におよんで断乎だんことして決定的な一言を発し、電光のひらめきのうちに一瞬間民衆と神とを代表した後
将軍自身にももはやてないことを知りながら、押して老中を呼んで、今回の大事は開闢かいびゃく以来の珍事である、自分も深く心を痛めているが、不幸にして大病に冒され
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)