采配さいはい)” の例文
お千勢の矢場といふは、お千勢の母親のお組が采配さいはいを揮ひ、娘のお千勢の愛嬌を看板に、この二三年めき/\と仕上げた店でした。
で、真言を唱えつつ珠数じゅず采配さいはいのごとくに振り廻して、そうして向うから出て来る山雲を退散せしむる状をなして大いにその雲と戦う。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これまでの佐久間、柴田などとちがい、こんどの采配さいはいぶりには魂がはいっている。織田でもよほどな人物が、指揮に当っておるに相違ない
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田辺の姉さんと言えば年中壁に寄せて敷いてあった床を、枕を、そこに身を横にしながら夫を助けて采配さいはいを振って来た人を直ぐ聯想れんそうさせる。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……ここでも経済的な意味ばかりでなく、性来の世話やき好きでお文が采配さいはいを振り、総ざらいが終るなり師匠をらっして来て
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
関ヶ原で采配さいはいを振ってみようという段取りにまでなりましたが、本来、お角さんは、自分が興行師であって役者でないことをよく知っている。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、あんたに、大きな宿屋の采配さいはいをふるわせてみても、面白いであろうと思う。たとえば、掛川の具足屋のような」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「一刻も離れやしません。うちの客なんかどうとも勝手にしやがれだ! あっちの方は伯父おじ采配さいはいを振ってくれるから」
……私はそこへ手水鉢なんぞじゃない、摺鉢あたりばち采配さいはいを両手に持って、肌脱ぎになって駆込んで驚かしてやったものを。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いくら冷淡と薄情とを信条として多勢の抱妓かかえ采配さいはいっているこの家の女主人にしても物の入りわけはまた人一倍わかるはずだと思ったのであった。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
この男、旗本の次男でまだ二十三になったばかりだが、諸事みな采配さいはいふるって、なかなかおちついているのです。
しかし、地丸左陣方でも、大将自身出馬して物慣れた采配さいはいふるい出してからは、士気にわかに奮い立ち、反対に敵を圧迫し取られた木戸を取り返そうとした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
祖母はこの家では近所の人達から「御隠居さん御隠居さん」とよばれていたが、実際は御隠居さんどころではなく、叔母の家の一切のことに采配さいはいを振っていた。
彼は実際には次官であったけれども、長官の席が空のままにして置かれたため、開拓使の問題——、従って北方の経営に関しては一切が彼の采配さいはいの下にあった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
遊びのままごとは七つ八つ、もう少し大きなは冷淡になるに反して、この日は年かさの親玉ともいうべき者が采配さいはいふるって臨時に女の子ども組が組織せられる。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それから親しい同僚が亡くなった時、葬式に采配さいはいを振ったのが切っかけになって、社員の家庭に不幸があると、僕が相談を受けます。訊きに来るから仕方がありません。
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それは留守の台所を預った娘の計らいなのか、それとも野村の采配さいはいだったのか、それは分らぬ。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
なにしろ会場における不満連ふまんれんの総大将けん黒幕くろまくとしてはルーズヴェルト氏みずか采配さいはいを取っているという始末しまつであるから、我々の考えでは珍事ちんじなしには終らぬと気遣きづかったのも
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大勢の踊手が密集した方陣形に整列して白刃を舞わし、音楽に合せて白刃と紙の采配さいはいとを打合わせる。そのたびごとに采配が切断されてその白い紙片が吹雪のように散乱する。
雑記帳より(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「隠居さんが采配さいはいふるっている間はいいが、今にいなくなったら博士も困ることだろう。」
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
奸物かんぶつにも取りえはある。おぬしに表門の采配さいはいを振らせるとは、林殿にしてはよく出来た」
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とうの中將殿(重衡)も管絃くわんげんしらべこそたくみなれ、千軍萬馬の間に立ちて采配さいはいとらんうつはに非ず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その男も今は旦那だんなが死んで、堅いのを見込まれて、婿むこ養子としてあとわって、采配さいはいを振るっているという訳で、ちょっと悪くないから私もその気で、再びりが戻ったんですの。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのうちには、倍にはなる——と考えていたところへ、おぬしの今度の采配さいはい——関東の凶作に引きかえて、九州、中国にだぶついている米が、どうッと潮のように流れ込んで来たならば
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その中に、伯爵の放蕩ほうとう息子だという若者が一人混っていて、おどけた表情でバンド一座の采配さいはいを振っており、その様子がいかにも粋人のなれの果てと云いたい枯れた手腕を発揮していた。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は日に一度位ずつその具足を身に着けて、金紙きんがみで拵えた采配さいはいを振り舞わした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんの理由もない、ただ、きみには連盟の首領たるべき権利がないと思うのだ。ぼくらはみんな白色人種である。連盟は白色人種が多数だ。それなのに、有色人種が大統領になって采配さいはい
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それでもあなたは一家の御主人さまに成りて采配さいはいをおとりなさらずは叶ふまじ、今までのやうなお楽の御身分ではいらつしやらぬはづと押へられて、されば誠に大難にひたる身とおぼしめせ。
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
事ごとにみぞを深くし、とうていまどかな結果はあるまいと、誰しも予想したとおり、主水は家老の職をがれ、先代が依託した采配さいはいまで召しあげられたのを機会に、この日一門残らず三百余人
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
うちの地所の隣に、官有林がありましてね。……そこの森番が年寄りで、おまけに病気ばかりしているものですから、実際のところ、この私が、何から何まで采配さいはいをふっているようなものです。
ところが氏家をたすけに出た伊達軍の総大将の小山田筑前は三千余騎を率いて、金の采配さいはいを許されて勇み進んだに関らず、岩出山の氏家弾正を援けようとして一本槍に前進して中新田城を攻めたため
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鉄騎十万ラインを圧して南下したるの日、理想と光栄の路に国民を導きたる者は、普帝が朱綬しゆじゆ采配さいはいに非ずして、実にその身は一兵卒たるに過ぎざりし不滅の花の、無限の力と生命なりしに候はずや。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ただそのさいなにより好都合こうつごうであったのは、ひめ父君ちちぎみめずらしく国元くにもとかえってられたことで、御自身ごじしん采配さいはいって家人がじん指図さしずし、心限こころかぎりの歓待もてなしをされために、すこしの手落ておちもなかったそうでございます。
おれの代りに采配さいはいを振って、若けえ奴らを追い廻してくれめえか
半七捕物帳:29 熊の死骸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、民部みんぶ采配さいはいは、それに息をつくもあたえず、たちまち八しゃの急陣と変え、はやきこと奔流ほんりゅうのように、えや追えやと追撃ついげきしてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耕雲斎は砥沢口とざわぐちまで進出した本陣にいた。それとばかり采配さいはいを振り、自ら陣太鼓を打ち鳴らして、最後の突撃に移った。あたりはもう暗い。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
半年の間、番頭の有八が采配さいはいをふるって、文字通り床をがし、壁まで落して捜しましたが、小粒一つ出てこない有様です。
三度めにいって来た大六は、普請の注文が三つあり、助二郎が采配さいはいを振って、すでに職人や木の割当てをつけたと語った。
ちいさこべ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
疫病神やくびょうがみが出て采配さいはいを一つ振れば、五万十万のらない命が直ぐにそこへ集まるではないか、これからの拙者が一日に一人ずつ斬ってみたからとて知れたものじゃ
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
権高に店員をしかっているあんばい、むろんこの家の娘にちがいないが、どうやら店のこと、金の出入りの采配さいはいも、その娘が切りまわしているらしい様子でした。
それはそういう尊いラマが俗人の頭に手を着けるということが出来ないから、そこで采配さいはいのような仏器をこしらえてそのうつわで頭をさすってやるのが按法器礼であります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
臺所だいどころ豪傑儕がうけつばら座敷方ざしきがた僭上せんじやう榮耀榮華えいえうえいぐわいきどほりはつし、しやて、緋縮緬小褄ひぢりめんこづままへ奪取ばひとれとて、竈將軍かまどしやうぐん押取おつとつた柄杓ひしやく采配さいはい火吹竹ひふきだけかひいて、鍋釜なべかま鎧武者よろひむしや
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
従ってサッポロは判官岩村の采配さいはいの下にあった。土州出身であるその男の専断を防ぐため、はるか東京の長官は、自分の直系であるつもりでこの堀盛をその下に据えた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
広い台所に立って、一々応対をしている六十余りの禿茶瓶はげちゃびんが、その筆屋幸兵衛だ。首の廻りに茶色の絹を巻いて、今日だけは奥と台所をいったり来たり、一人で采配さいはいふるってる。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
扶佐子は先に立って采配さいはいをふるった。昨夜は新婚のしとねだった貸ぶとんを引きずりだし
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
壮太郎が荷物運搬の采配さいはいに、雨のなかを再び停車場へ出かけていってから、お島は晩の食事の支度に台所へ出たが、女がおりおり来ると見えて、しばらく女中のいない男世帯としては
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
松浦家では家つきの貞子夫人が采配さいはいを振っている。御主人清次郎氏は生来の温厚人おんこうじんだ。婿養子に来てから三十年間、一度でも自説を主張したことがない。万事奥さんの御意ぎょいに委せる。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
よくもお祭りの夜は正太さんに仇をするとて私たちが遊びの邪魔をさせ、罪も無い三ちやんをたゝかせて、お前は高見で采配さいはいを振つてお出なされたの、さあ謝罪あやまりなさんすか、何とで御座んす
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし……しかし伊那丸いなまるさまは大せつな甲斐源氏かいげんじ一粒種ひとつぶだね、あわれ八まん、あわれいくさの神々、力わかき民部の采配さいはいに、無辺むへんのお力をかしたまえ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
半年の間、番頭の有八が采配さいはいをふるつて、文字通り床を剥がし、壁まで落して搜しましたが、小粒一つ出てこない有樣です。