酒肴さけさかな)” の例文
佐幕、勤王、因循いんじゅん三派のどれにでも共鳴しながら同じ宿に泊る。馳走をするような調子で酒肴さけさかなを取寄せる上に油断すると女まで呼ぶ。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
腰掛場こしかけばへあつまって下げられた酒肴さけさかなをいただいていい機嫌になっているあいだに、神田川からくぐって来てゆるんだ土台を突きくずし
親父おやじが聴きに参りましたあとで、奥の離れた八畳の座敷へ酒肴さけさかなを取り寄せ、親父の留守を幸い、鬼の居ないうちに洗濯で、長助が
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まんじ頭巾の男はもう、卓に酒肴さけさかなを並べさせて待っていた。そして、銀子ぎんす二十両ずつ、二た山にして、彼らの卓の鼻先においてある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがておかめが、注文の酒肴さけさかなをはこんで来、二人の膳へ分けて置くと、では用があったら手を鳴らしてくれと云って去った。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平次は氣輕に挨拶して、いつぞやの月見の宴を開いた母屋おもやの一室に通ると、その晩ほどではなくとも、兎も角一と通りの酒肴さけさかなが待つてゐるのでした。
そして次の間をあけると酒肴さけさかなの用意がしてある。それを運びこんで女と徳二郎はさし向かいにすわった。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
昼飯のぜんがやがて八畳に並んだ。これがお別れだと云うので、細君はことに注意して酒肴さけさかなそろえた。時雄も別れのしるしに、三人相並んで会食しようとしたのである。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
客はあつらえた酒肴さけさかなのあまりに遅い事を憤り、亭主はそれをばひたあやまりに謝罪あやまっていると覚しい。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
秋の日はたちま黄昏たそがれて、やや早けれどともしを入るるとともに、用意の酒肴さけさかなは順をひて運びいだされぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
藍色あいいろの、嫌に光るくすりの掛かった陶器の円火鉢である。跡から十四五のたすきを掛けた女の子が、誂えた酒肴さけさかなを持って来た。徳利一本、猪口ちょく一つに、なまぐさそうな青肴あおざかなの切身が一皿添えてある。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
東京などの大工たちも、まえ棟上むねあげの日に酒肴さけさかなが出て、それをケンズイということはよくおぼえている。ただもうそれをまちがえて、ケズリという者が多くなっているだけである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
割子わりご弁当に重詰め、客振舞ぶるまい酒肴さけさかなは旅に来ている寛斎のぜんにまでついた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうと寸法が初めから極っていたら、酒肴さけさかなは船の中で開くんでしたね。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
まことに氣の毒だが、なにか酒肴さけさかな見繕みつくろつて來てはくれまいか。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
灯火ともしびが無数にともし出され、酒肴さけさかなが目茶目茶に運び出された。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と前の次第を細やかに話しますると、政七は大きに驚き、また親切を喜びましてしきりに感心致しました。其のうち酒肴さけさかなが出てまいります。
十二三から四五くらいまでの小僧たちが六人、いせいのいい声で注文をとおしたり、すばしこく酒肴さけさかなを運んだりしている。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
盆茣蓙ぼんござを取巻いて円陣を作った人々の背後うしろに並んだ酒肴さけさかな芳香においが、雨戸の隙間からプンプンと洩れて来て、銀之丞の空腹すきばらを、たまらなくえぐるのであった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
酒肴さけさかなの註文も馴々なれなれしい。そして独りでチビチビ飲み初めた。李逵は汗拭きの布を出して、鼻と口をおさえていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
拔き合せたところへ、筋書通り留め女が入つて、用意の酒肴さけさかなを開かうと言ふ手順だつたといふが、敵の虚無僧になつた男が、巡禮の方を眞刀で斬り殺してしまつたのだよ
栄子たちが志留粉しるこだの雑煮ぞうにだの饂飩うどんなんどを幾杯となくお代りをしている間に、たしか暖簾のれんの下げてあった入口から這入はいって来て、腰をかけて酒肴さけさかなをいいつけた一人の客があった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と其の夜は根岸のうちへ泊込み、酒肴さけさかなで御馳走になり大酩酊おおめいていをいたしてとこに就くが早いかグウクウと高鼾たかいびきで寝込んでしまいました。
「なんのなんの。事、さように分ったらこれも一つの奇縁。翠蓮、こよいはお前の恩人を交じえて大いに楽しく飲もう。酒肴さけさかなもすっかり新たにかえるがいい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「馬鹿息子はすつかり意地になつて、殘りの千兩を投り出すと、女はその情愛にほだされ、今度は酒肴さけさかなを持つて來てうんと御馳走をした上、二世のちぎりをしたといふ話——」
弟子たちの家からも祝いのお重や広蓋ひろぶたがたくさん届いている。そのうえ近所の仕出し屋から酒肴さけさかなを取って、去年の病気みまいどころではない、華やかで大掛りな宴会が始まった。
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
震災の時まで、市川猿之助いちかわえんのすけ君が多年住んでいた家はこの通の西側にあった。とりいちの晩には夜通し家を開け放ちにして通りがかりの来客に酒肴さけさかなを出すのを吉例としていたそうである。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すぐに小増につかわし、これから酒肴さけさかなを取って機嫌好く飲んで居たが、その晩も又小増が来ないから顔色がんしょくを変えておこりました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「馬鹿息子はすっかり意地になって、残りの千両を投り出すと、女はその情愛にほだされ、こんどは酒肴さけさかなを持って来てうんと御馳走をした上、二世のちぎりをしたという話——」
典獄は、田豊の先見に驚きもし、また深く悲しんで、別れの酒肴さけさかなを、彼に供えた。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつも佃煮を売りにゆく顧客とくいさきで、握り飯を五つ盗んだからだ、鉄砲洲の質屋が近火に遭って、手伝いに来た出入りの者たちに炊出たきだしをした、酒肴さけさかな、握り飯や煮〆にしめがずらっと並んでた
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
酉の市の晩には夜通し家を開け放ちにして通りがゝりの来客に酒肴さけさかなを出すのを吉例としてゐたさうである。明治三十年頃には庭の裏手は一面の田圃であつたといふ話を聞いたことがあつた。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
新「いつもたびむこうで散財して、酒肴さけさかなを取って貰って、あんまり気が利かねえ、ちっとはうめえ物でも買ってこうと思うが、金がねえから仕方がねえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
竹光を抜き合せたところへ、筋書どおり留め女が入って、用意の酒肴さけさかなを開こうという手順だったというが、敵の虚無僧になった男が、巡礼の方を真刀しんとうで斬り殺してしまったのだよ
と云われ、森松はニコ/\しながらとん/\/\と二階へあがると、種々いろ/\酒肴さけさかなを取っておあさが待って居りまして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
若い男が二人、それは元柳橋あたりの料亭から、屋形船へ酒肴さけさかなを運ぶ舟だつたのです。
圖書は出ておりませんで、長治と申す下男ばかりで、どうして此の山の中で、酒肴さけさかなを拵えますにも大抵の事ではございませんのに、長治一人で早く出来ます訳もなし
と気の毒そうに承知して、五郎三郎は母の云付けなれば酒肴さけさかなあつらえ、四畳半の小間へ入れ、店の奉公人も早く寝かしてしまい、母は四畳半の小座敷に来たりて内にはいれば
十分酒肴さけさかなに腹をふとらし勘定は本妙寺中屋敷へ取りに来いと、横柄おうへい喰倒くいたお飲倒のみたおして歩く黒川孝藏くろかわこうぞうという悪侍わるざむらいですから、年の若い方の人は見込まれて結局つまり酒でも買わせられるのでしょうよ
酒肴さけさかなを下げさせ、奥方を始め女中達を遠ざけられて、俄に腹心の吟味与力吉田駒二郎よしだこまじろうと申す者をお召になりまして、の更けるまで御密談をなされたのは、全く長二郎の一件に就いて
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
文「逢いたいが、お母様っかさんの前であんな荒々しい奴が話をしては、お驚きなさるといけないから、かど立花屋たちばなやつれって往って、酒肴さけさかなを出して待遇もてなしてくれ、己があとからお暇を戴いてくから」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
即ち何不足なく驚愕安然あんぜんとしてられるのを有難く存じ奉る義と心得あるべからんに、密夫みっぷを引入れてからに、何うも酒肴さけさかなをとり引証いんしょうをするのみならず、安眠たる事は有るまからんと存奉候ぞんじたてまつりてそろ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これから祝いに酒肴さけさかなで親類固めに仏の通夜と酒宴さかもりをして、翌日三日の朝、村の倉田平四郎くらたへいしろうという名主へとゞけをして、百姓角右衞門が多助を十文字に背負いまして、夫婦は須賀川まで送って来まして
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
翌日あしたの大滝村へ怪しい黒の羽織を引掛ひっかけて、葮簀張よしずっぱりの茶屋へ来て酒肴さけさかなを並べ、衝立ついたての蔭で傳次が様子をうかゞって居ると、おやまが参ってしきりにお百度を踏み、取急いで帰ろうとすると飛出して
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
酒肴さけさかなあつらえ、一杯って居りながら考えましたが、これから先人力じんりきを雇ってきたいが、此の宿屋から雇って貰っては、足が附いてはならんからと一人で飛出し、途中から知れん車夫くるまやを連れてまいり
といい付け、そうこうするうちに支度も整いましたから、酒肴さけさかなを座敷に取並べ、媒妁なこうどなり親なり兼帯けんたいにて、相川が四海浪静かにとうたい、三々九度の盃事さかずきごと、祝言の礼も果て、ずお開きと云う事になる。
それではどうも折角の心入こゝろいれも無になります、御意には入りますまいが、元より尊君の様なる正道潔白なるお方に差上げまするには、盗取ぬすみとりました穢れた金銀をもって求めました酒肴さけさかなではございません
それより他に致し方がないので、酒肴さけさかなを出しまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)