進退しんたい)” の例文
塔上に進退しんたいきわまった巨大な妖虫は、ジリジリと、あとずさりをして、一方のすみの鉄のてすりに、からだをくっつけてしまいました。
鉄塔の怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
進退しんたいこれきわまるとはただに自転車の上のみにてはあらざりけり、とひとりで感心をしている、感心したばかりではらちがあかないから
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五十年輩の立派な男で、擧措きよそ進退しんたい日頃のたしなみも思はれますが、獨り娘の急死に打ちひしがれて、さすがに取亂してをります。
それ以来、二人は居所きょしょ進退しんたいに気を配っておりましたが、例の不思議な人影を見ることは、その後も一度や二度ではありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ラツールといえば、彼はスコールの中に降りこめられ、斜面のまん中あたりで、進退しんたいきわまっていたのだったが、今はどこにいるのだろうか。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかれども白晝はくちう横行わうぎやう惡魔あくまは、四時しじつねものにはあらず。あるひしうへだててかへり、あるひつきをおきてきたる。そのとききたとき進退しんたいつねすこぶなり。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
十五匁程の鉛錘おもり進退しんたいかんによりて、菅絲すがいとに懸る。綸は太さ三匁其の黒き事漆の如く、手さわりは好くして柔かなるは、春風になびく青柳の糸の如し。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
落付思ひ定めて歸らるべしヤヨ氣のどくなる病氣ぞと長庵更に取合とりあはねば千太郎は其儘にもどるにも戻られず進退しんたい爰ぞと覺悟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
伊集院の姦計に引っかけられ、包囲を受けた山影宗三郎、いわゆる進退しんたいきわまって、縮むようにしばらく佇んだが
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あれでしいつまでゞもはふつてかれたにや、ぼくたるものじつ進退しんたいきはまるところだつたんだが。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
すでに和するの敵に向うは男子のはずるところ、執念しゅうねん深きに過ぎて進退しんたいきゅうするのたるをさとり、きょうに乗じて深入りの無益たるを知り、双方共にさらりと前世界の古証文ふるしょうもんすみを引き
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ニールスは、進退しんたいここにきわまってしまいました。カラスたちからげることもできませんし、身をかくす場所ばしょ一つありません。と、そのとき、土のかめのことを思いだしました。
全然ぜんぜん進退しんたい自由じゆううしなつたらそれこそ大變たいへんみづかすゝんで奇禍きくわまねくやうなものです。
くわふるに寒肌あはを生じ沼気沸々ふつ/\鼻をく、さいはひに前日来身躰しんたい鍛錬たんれんせしが為め瘧疫ぎやくえきかかるものなかりき、沼岸の屈曲くつきよく出入はじつに犬牙の如く、之に沿うてわたることなれば進退しんたい容易やうゐ捗取はかどらず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
先生の本旨ほんしは、右二氏の進退しんたいに関し多年来たねんらい心に釈然しゃくぜんたらざるものを記して輿論よろんただすため、時節じせつ見計みはからい世におおやけにするの考なりしも、爾来じらい今日に至るまで深く筐底きょうていして人に示さざりしに
瘠我慢の説:01 序 (新字新仮名) / 石河幹明(著)
「そうだ。自分の進退しんたいは自分できめると言われるんだ。」
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一、申すに及ばず候といへども、輝元、元春、隆景、深重如在しんちようじよさいを存ぜず、われら進退しんたいにかけて見放し申すまじき事。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう思うと流石さすがに私も進退しんたいきわまって、いつの間にか往来に立ち停ったのでした。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寒風に吹晒ふきさらされかみまで氷りて針金はりがねの如くなれば進退しんたいこゝに極まりて兎にも角にも此處で相果あひはつる事かと思ふばかりなり時に吉兵衞倩々つら/\思にわれ江戸表えどおもてへ名のり出て事露顯ろけんに及時は三尺たかき木のそらいのち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我事わがことすでにおわれりとし主家の結末と共に進退しんたいを決し、たとい身に墨染すみぞめころもまとわざるも心は全く浮世うきよ栄辱えいじょくほかにして片山里かたやまざと引籠ひきこもり静に余生よせいを送るの決断けつだんに出でたらば、世間においても真実
幕臣また諸藩士中の佐幕党さばくとうは氏を総督そうとくとしてこれに随従ずいじゅうし、すべてその命令に従て進退しんたいを共にし、北海の水戦、箱館の籠城ろうじょう、その決死苦戦の忠勇ちゅうゆう天晴あっぱれ振舞ふるまいにして、日本魂やまとだましいの風教上より論じて
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)