足蹴あしげ)” の例文
しかし、重苦しく足蹴あしげりに出来ないものは、かえってしがない職人である彼自身の内にあった。これもやっぱり一聯いちれんの支配者なのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
覚悟したれば身をかわして、案のごとくかかとをあげたる、彼が足蹴あしげをばそらしてやりたり。蒲団持ちながら座を立ちたれば、こぶしたて差翳さしかざして。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
束帯そくたいすそが、同時に、長いをえがいた。すかさず、べつな武者へも宮は足蹴あしげをくれるやいな、だっと、元の階段のほうへ、一躍しかけた。
ぐたりと伸びるところを、半纏男は足をもってずるずると堀ばたに引張ってゆき、足蹴あしげにしてどーんと堀の中になげこんだ。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
源は腹愈はらいせのつもりで、路傍みちばたの石を足蹴あしげにしてやった。尊大な源の生命いのちは名誉です。その名誉が身を離れたとすれば、残る源は——何でしょう。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
足蹴あしげにして追い出すわけにもゆかず、まあ、赤の他人の罹災者をおあずかり申すつもりで、お前たちを黙ってこの家に置いてやる事にしたのだ。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
陸軍主計りくぐんしゅけいの軍服を着た牧野は、邪慳じゃけんに犬を足蹴あしげにした。犬は彼が座敷へ通ると、白い背中の毛を逆立さかだてながら、無性むしょうえ立て始めたのだった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
イリヤー・ペトローヴィッチがここに来ていて、おかみをぶっているのだ! 足蹴あしげにしたり、頭を段々へぶっつけたりしている——それは明瞭めいりょうだ。
私は足蹴あしげにされ、台所の揚け板のなかに押しこめられた時は、このひとは本当に私を殺すのではないかと思った。私は子供のように声をあげて泣いた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
マンハイムはしいて笑い出した。クリストフはそれを後ろから足蹴あしげにしようとした。マンハイムは腹をかかえて笑いながら、テーブルの後ろに逃げ込んだ。
さう言つちや済まないけれど、育てた恩も聞飽きてゐるわ。それを追繰返おつくりかへし、引繰返ひつくりかへし、悪体交あくたいまじりには、散々聴せて、了局しまひは口返答したと云つて足蹴あしげにする。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さればこそ、われら、夢の覇絆きづなを破りて、もろ/\の偶像を足蹴あしげにし、十字架クルスをもちて、十字架クルスを抱かむかな。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
お庄は剛情に坐り込んで、薪片まきぎれで打たれたり、足蹴あしげにされたりしている母親の様子を幾度も見せられた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そしてこの箱は、幾度も幾度も足蹴あしげにされたのでした(でも、あとで分る通り、この箱は悪い箱でしたから、そうして足蹴にされたりするのが当り前だったのです)
「推参な、下郎の分際で武士たるものの魂を足蹴あしげにした不埒ふらちな奴、刀の手前、許すわけには相成らん」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
転んだ小虎は古杭で、横腹を打って、顛倒てんとうした。それをお鉄は執念深くも、足蹴あしげにして、痰唾たんつばまで吹掛けた。竜次郎はつくづく此お鉄の無智な圧迫に耐えられなく成った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
彼らは足蹴あしげに強い。彼らはあらゆる方面に成長をなし得る。彼らはどぶの中で遊んでいる、けれど騒動があるとすっくと立ち上がる。霰弾さんだんの前にもたじろがないほど豪胆である。
いくらがない芸人でも、女から手切てぎれを貰って引込むような男だと、高をくくられたのが口惜くやしいから、金は突返つっかえして、高慢ちきな横面よこつら足蹴あしげにして飛出そうと立ちかかる途端
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
みんの天子の墓を悪僧が掘って種〻の貴い物を奪い、おまけに骸骨を足蹴あしげにしたのでばちが当って脚疾きゃくしつになり、その事遂に発覚するに至った読むさえ忌わしいはなしは雑書に見えている。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なんでもないことに腹を立てて、この年上の娘をなぐったり、足蹴あしげにしたりしたが、娘の方では一度も自分にはむかって来ようとはしない。ただ、少年にされるがままになっている。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
其の握飯を御老母に投付け、彦六爺に悪口あっこうを云い、遂に御老母に皿を投付け、おつむりに疵が出来ました、だそれにても飽き足らず御老母を足蹴あしげに致すのを文治郎見ました故に
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
実にもって客観なるものを、かくまでに足蹴あしげにかける彼の主観は、正しくもまた極端なる内容本位をもって、巍然ぎぜんとして、しかも悠揚洒々その名画を生み続けたのである。(昭和六年)
牧渓の書の妙諦 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
磯部の玄関にて生酔なまよい本性違はぬ処を示し、吾太夫を足蹴あしげにするも面白し。酒醒めし件にてひどく恐入おそれいらせ、ここへ詫に出る主計之助がやはり酒乱にて誤をなせりといふも照応して好し。
近くの月輪のひとりをダッ! 足蹴あしげにしたかと思うと、その、はずみをくらって取りおとす大刀を拾い取るが早いか、やはり、のっそりの仁王立ちの、流祖自源坊案不破水月ふわすいげつのかまえ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ふしだらな真似をして、後で後悔しないがいいよ」とソフィヤが言った、「聞いたろう、マーシェンカの話を。足蹴あしげにされる、手綱たづなでひゅうひゅう打たれる。お前さんも用心おしよ。」
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おさんをなぐり、叩き倒し、足蹴あしげにかけた、——可哀そうに、おさんはあやまるばかりだった、自分ではなにも知らない、そんな男の名は知らない、夢中でわけがわからなくなっただけだ
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
足蹴あしげにしたりしないという、フェア・プレイの精神のあらわれであろう。
彼れはいきなり女に飛びかかって、所きらわず殴ったり足蹴あしげにしたりした。女は痛いといいつづけながらも彼れにからまりついた。そしてみついた。彼れはとうとう女を抱きすくめて道路に出た。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は彼女の鏡台を足蹴あしげにして踏折つた、針箱を庭に叩きつけた、一度他家に持つて行つたものを知らん顔して携へて来るなど失敬だと怒つて。さうして性懲しやうこりのない痴情喧嘩に数多あまたの歳月をおくつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
乗円 (憂はしげに、長順に向ひ)御宗門を足蹴あしげに致いたな。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
譲次は傷つける恋人を足蹴あしげにして、血の池地獄へ蹴り落した。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その度毎に彼女は庄吉を打ったりまたは足蹴あしげにしたりした。
少年の死 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「えらそうに、野太刀なぞ横たえやがって、なんで、いい気持でわがはいが寝ているところを、この大事な禅杖ぜんじょう足蹴あしげにしながら澄ましていくか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「火の玉」少尉は重傷に屈せず、奮然ふんぜんと立ち上った。そしてキンチャコフがピストルを握り直そうとしたところを、すかさずとびこんで足蹴あしげにした。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、さし身の角が寝たと言っては、料理番をけなしつけ、玉子焼の形が崩れたと言っては、客の食べあまりを無礼だと、お姑に、重箱を足蹴あしげにされた事もあります。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
土百姓どびゃくしょうめが、大胆だいたんにも□□□□□□□□□□□(虫食いのために読み難し)とて伝三を足蹴あしげにかけければ、不敵の伝三腹をえ兼ね、あり合うくわをとるより早く
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
身長がもう二、三寸も伸びて身体つきがよくなることなら、後ろから足蹴あしげにされてもいとわなかったろう。その他の事においては、彼は自分自身にしごく満足していた。
剛情なお島は、到頭麺棒めんぼうなぐられたり足蹴あしげにされたりするまでに、養父の怒を募らせてしまった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私から脱いで差上げなければならなかったのを、たとえ一枚でも欲しいと申した私の心が恥かしうございます……とこう申しますと、その人が、いきなり私を足蹴あしげに致しました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ほかの人だったら、足蹴あしげにして追い散らしてしまったにちがいない。
彼は相手がなに者だか知らなかったが、唾を吐きかけられた目明しは怒り、十手じってでさんざんに打ちすえたのち、子分の者に栄二を縛らせ、足蹴あしげにしたり、手桶ておけの水をぶっかけたりして突き転がした。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そう思って、意外な蹉跌さてつに、無念な唇をかみしめた。そして、そこの薄のろ武士を、足蹴あしげにしても飽き足らなく思った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭を足蹴あしげにされた。腹にもった。胸元むなもとを踏みつけては、駆けだしてゆく。あッ、口中こうちゅうへ泥靴を……。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そら拳固だ、どッこい足蹴あしげだ、おっとその手を食うものか、その内に一人つんのめるね、ざまあ見やがれと、一々合点がってんが出来ますだろう。どうです、強くなった証拠ですぜ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あなた私を足蹴あしげにしましたね。」お銀は険しいような目色をした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いや、かへつてだん/\可愛がり始めて、しまひには若殿様でさへ、時々柿や栗を投げて御やりになつたばかりか、侍の誰やらがこの猿を足蹴あしげにした時なぞは、大層御立腹にもなつたさうでございます。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「武士たるものの魂を足蹴あしげにするとは何事だ」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ひどい乱打と足蹴あしげもとに、捕われた男は大きなうめきを発したが、それが逃げるだけ逃げ廻っていたこの人間の猛然と立ち直った挑戦であったとみえ
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自転車を下りて見ていたんだが、爺の背中へ、足蹴あしげに砂をっかけてげて来たんだ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、お袖をとらえて叩き伏せた。泣き狂い、泣きさけぶのを、わけもたださず、二つ三つ、足蹴あしげをくれて、悶絶もんぜつさせた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)