あき)” の例文
咎立とがめだてをしようといっても及ぶ話でないとあきらめて居ながら、心の底には丸で歯牙しがに掛けずに、わば人を馬鹿にして居たようなものです。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
私はあきらめて——私の身さへ退けば八方圓く納まるだらう、大川へ身を投げて死んでやるから——と口惜しまぎれに駈け出しました
「うん、あいつも可哀相かわいそうだけれども仕方がない。つまりこんなやくざな兄貴あにきをもったのが不仕合せだと思って、あきらめて貰うんだ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女の頭蓋骨ずがいこつの中に隠し場所が登録されているに違いないこと、さればわれらはあきらめた風態を装ってここをひきあげ、ひそかにかの女を監視すること
しかし生憎あいにく彼の心は少しも喜びに躍っていない。むしろ何か義務に対するあきらめに似たものに充たされている。
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けてもいのさ、れは仕方しかたいとあきめるから、おまへなにないでいからたゞ横町よこてうくみだといふで、威張ゐばつてさへれると豪氣がうぎ人氣じんきがつくからね
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いくら考えても、又あきらめても既に忘れかかっていながらむすこの暮れ沈んでゆく姿が見えてならなかった。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
鎌倉時代、室町むろまちのころにかけては、さびと渋味を加味し、前代末の、無情を観じた風情ふぜいをも残し、武家跋扈ばっこより来る、女性の、深き執着と、あきらめをふくんでいる。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
当に想念を起し、正坐し西に向ひて、日をあきらかに観じ、心を堅く住せしめ、想を専らにして移らざれ。日の歿ぼつせむとするや、形、鼓を懸けたる如きを見るべし。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
子もなく夫にも死に別れたその女にはどことなくあきらめた静けさがあって、そんな関係が生じたあとでも別に前と変わらない冷淡さもしくは親切さで彼を遇していた。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
ともかく決して面白くもないが、万事をあきらめて、私はやむをえず心斎橋筋をそれでも歩いて見る。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
あきらめを肯定し、溜息を肯定し、何言ってやんでいを肯定し、と言ったようなもんだよを肯定し——つまり全的に人間存在を肯定しようとすることは、結局、途方もない混沌を
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
呼んで頂戴……。ね、私、あきらめちやつたの。時々、かうして逢つて貰へばいゝ事よ。ね、その方がいゝわ。——さつきの唄みたいなのが、私達の間柄だつたンだつて判つたわよ……
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
母は三十四で最早もはや子は出来ないものとあきらめて居ると、馬場が病で没し、其妻も間もなく夫の後をおそうこの世を去り、残ったのは二歳ふたつになる男の子、これさいわいと父が引取って自分のとし養ったので
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「じゃ、あきらめてじゃねえ、この石神に預けたとして、引揚げようか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼のことは殆んど思いあきらめ、折々思い出しても、ただ身の上を案じているに過ぎなかったのだが、最近になって、ああして手紙を寄越されて見ると、梅三爺は市平を呼び寄せたいような気がした。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
その木像まで刻むというは恋に親切で世間にうと唐土もろこしの天子様が反魂香はんごんこうたかれたよう白痴たわけと悪口をたたくはおまえの為を思うから、実はお辰めにわぬ昔とあきらめて奈良へ修業にいって、天晴あっぱれ名人となられ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あきらめよ、わが心。なれが禽獣きんじゅうねむりを眠れ。
まわり合せだとあきらめるだよ。さあ帰るべ。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
すでにお延の方をあきらめなければならないとすると、津田は自分に必要な知識の出所でどころを、小林に向って求めるよりほかに仕方がなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちにお孃樣の縁談がきまつて、隣村の大地主の嫁になるとわかり、私は何も彼もあきらめるより外は無いとわかりました。
近ごろではあきらめたようすで、そんなことがあっても、相変らず紀平らしいな、こう云って苦笑する程度だが、以前はよく怒って意見をしたものであった。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
情熱的パッショネートななかに、悲しいあきらめさえみせているので、感じやすいわたしは自分から、すっかりつくりあげた人品ひとがらを「嫦娥じょうが」というふうにきめてしまっていたのだった。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
まわり合せだとあきらめるだよ。さあ帰るべ。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
僕はしぶしぶあきらめた。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
要するにその男はお時の用事を津田に取次いでくれなかったらしいので、彼女はとうとうあきらめて、電話箱を出てしまった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし仕事をする気力はもうなく、漫然とカード箱をいじったり椅子にかけてもの思いにふけったりした、そして十二時を過ぎたとき、とうとうあきらめて寝に帰った。
四年間 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あきらめといふことを知らないから、御近所に氣兼をしい/\、四半刻も外の戸を叩いて居りました。
念佛まをせば極樂へ——處生苦しよせいくあきらめて、念願は一日も早く彌陀みだ淨土じやうどへ引き取つてもらひたいといふのが念佛衆ねんぶつしゆであるなら、穢土厭離ゑどおんり寂滅爲樂じやくめつゐらくの思想は現世否定である。
さうわけでね、まことにそうさんにも、御氣おきどくだけれども、なにしろつてかへしのかないことだから仕方しかたがない。うんだとおもつてあきらめてください。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたしはもうあきらめかけていたのですよ、もうこれでゆくさきを看とって呉れる嫁はあるまい、そう思っていました、そこへあなたのはなしを聞きましたの、あきつさん
日本婦道記:萱笠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いえ、それはあきらめました。——それよりは、清作さん、あなたは公儀の隠密」
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あきらめよく言切ったそうである。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
けれども其甲斐もなく先達て御いでとき、とう/\御父おとうさんに断然御ことわりなすつた御様子、甚だ残念ながら、今では仕方がないとあきらめてゐます。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だがまだあきらめきれないとみえ、納戸なんどのほうへいってなにかきまわしていた。そのうちに天床から大きな石でも落ちたように、がらがらずしんめりめりとすさまじい物音がした。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
平次は好い加減にあきらめて、水下駄を突つかけて外へ出て見ました。
運だと思ってあきらめて下さい。もっとも叔父さんさえ生きていれば、またどうともなるんでしょうさ。小六一人ぐらいそりゃ訳はありますまいよ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いしは飲んだ、あきらめたのか、それとも力が尽きたのか、保馬の飲ませるだけ飲んだ。
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あきらめて居たんでせうよ。下總から出て來て、江戸の眞ん中で草鞋わらぢ
けれどもその甲斐かいもなく先達て御出の時、とうとう御父さんに断然御断りなすった御様子、甚だ残念ながら、今では仕方がないとあきらめています。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まあこれも遊びとしてはいきなものだと、あきらめをつけることはできた。
七日七夜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
嫁入りも婿取りもあきらめて居ると、江戸で五番とは下らぬ大町人室町の清水屋總兵衞の伜總太郎が見染めて、人橋架ひとはしかけて嫁にくれるか、それがいやなら、持參金一萬兩で聟に來ても宜いといふ話だ。
一間ひとま置いて隣りの人は自分で死期を自覚して、あきらめてしまえば死ぬと云う事は何でもないものだと云って、気の毒なほどおとなしい往生を遂げた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これなら、戻って呉れないほうがいいと、あきらめていた。
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お松は名題の浮氣者だ。清次と夫婦約束までしたのに、近頃お村と張合つて、原庭はらにはの才三といふ色師に熱くなつて居るからよ。同じやうにお松に氣があつても、清次は百松のやうにあきらめられなかつたんだ」
そうして何時の間にか離れ離れになった人間の心と心は、今更取り返しの付かないものだから、あきらめるより外に仕方がないという風にふるまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次はあきらめた樣子で家の中へ入つて行きました。
よし信じておらんでも、融通の利かぬ性質として、到底実業家、金満家の恩顧をこうむる事は覚束おぼつかないとあきらめている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次までがあきらめたことを言ふのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
そうして堕落は酒の影響だからどこへどう避けても人間としてとてものがれる事はできないのだと沈痛にあきらめをつけたと同じような変な心持であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)