なまり)” の例文
ラムネは一般にレモネードのなまりだと言はれてゐるが、さうぢやない。ラムネはラムネー氏なる人物が発明に及んだからラムネと言ふ。
ラムネ氏のこと (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
この人のなまりことに著しく、この地方特有の、「たい」を「てゃあ」、「はい」を「ひゃあ」と云う風に発音するのが可笑おかしくてたまらず
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
京都なまりの言葉、色の白い顔、やさしいところはいくらかはあるが、多い青年の中からこうした男を特に選んだ芳子の気が知れなかった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
秋田県では「しょっつる」という料理があって、それにはいつもこの岩七厘を用います。「しょっつる」とは塩汁のなまりであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
長州なまりの侍、薩摩弁の侍、柳河藩のなにがし、荘内藩の誰——と、木挽町の西洋学者の門を出入する志士風の者はかなり頻繁ひんぱんであった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『御願ひでごはすが、彼の地親ぢやうやさん(ぢおやのなまり、地主の意)になあ、早く来て下さいツて、左様言つて来て御呉おくんなんしよや。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
専門技倆ぎりょう的に巧でないが、真率しんそつに歌っているので人の心をくものである。この歌には言語のなまりが目立たず、声調も順当である。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
とても強い東北なまりが在りましたので何をおっしゃっているのか、よくわからず、いよいよ親しみが減殺されてしまうのでした。
誰も知らぬ (新字新仮名) / 太宰治(著)
若い時分から陸奥むつなどという京からはるかな国に行っていたから、声などもそうした地方の人と同じようななまり声の濁りを帯びたものになり
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ところが、しきゐにあらはれた陶は僕を見ると、曾老人に向つていきなり満洲なまりのはげしいやつを使つたのだ。曾老人も同じ言葉で答へてゐた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「人々」という意味で「面々」という言葉が用いられることもあれば、各自を意味して「めいめい」(面々のなまりであろう)ということもある。
面とペルソナ (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
あるいはいわゆるなまり言葉かも知れないとすこしく心細くなって、他人の言うに従ってしまうということもあり得るのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
貫通車の三等室、東京以北の總有あらゆる國々のなまりを語る人々を、ぎつしりと詰めた中に、二人は相並んで、布袋の樣な腹をした忠太と向合つてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
外に考へやうは無い、阿星源之丞といふのは、西國なまりのある大男で、髯の濃い、眼の大きい、足が少し惡く、心持びつこを
各地の交換手の癖やなまりなぞは勿論、その局の交換手に対する訓練方針の欠点まで呑み込むと同時に、電線に感ずる各地の天候、アースの出工合
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大体、ロシア人は新しい作家のは、やさしいっていうけれど、わたしたちには反対だ、なまりや慣用語、俗語が多くて——バーベリなんかどうだい。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
自選オックスフォウドなまりの青年紳士やが、それぞれ「大きな把握」を狙って、このSETにまじって活躍していることは説明の必要もあるまい。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
キタカミの文字がヒタカミのなまりであるという考証を仙台で聞いた。してみると、人文のいま剖判ほうはんせざる上古、武内宿禰たけのうちのすくねや、日本武尊やまとたけるのみことの足跡がある。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なまりの言葉でそんな意味の暗示を与えた。ここから東といえば、それが当然素封家の詩人秋本でなければならなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ムツ五郎ですか。」主事は空つぽの頭を仔細らしくかしげた。「それは三津五郎のなまりでせう、三津五郎なら居ますよ。舞踊をどりの達者な俳優やくしやでしてね。」
たゞ、私の言葉にはなまりがあり、農家でおぼえたのですから、宮廷の上品な言い方ではなかったわけです。
「馬鹿め!」となまりある上州弁、旅人は初めて一喝したが、まず菅笠を背後うしろへ刎ね、道中差どうちゅうざしを引き抜いた。構えは真っ向大上段、足を左右へ踏ん張ったものである。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「押しつけがましいが、ごめんなさいよ」と客はなまりのある言葉で云って、栄二の前へ腰を掛けた、「おらはさぬき屋伊平っていうもんです、よろしく頼みますよ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その日もまた頭痛だという姑の枕元へ挨拶あいさつに上ると、お定は不機嫌な唇で登勢の江州なまりをただわらった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
事実その時私が摸した津軽なまりは、対者をして始めから我が家にあるが如くうちくつろがせたのである。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
お千世が襦袢じゅばんの袖口で口をおさえて、一昨年おととしの冬なくなったその亭主の、いささかなまりのある仮声こわいろを使う。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
からかうにもさ、リヨンなまりじゃり切れないよ、このひと、いいかげんにパリジェンヌにおなりよ。
巴里の秋 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
普通選挙だの労働問題だの、いわゆる時事に関する論議は、田舎なまりがないとどうも釣合がわるい。垢抜あかぬけのした東京の言葉じゃ内閣弾劾だんがいの演説も出来まいじゃないか。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
漸く趣味をも知り、言葉のなまりをも正し、いくほどもなく余に寄するふみにも誤字あやまりじ少なくなりぬ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
御存知の方がおありでしょうし、また穂積重遠博士の御本に書いてありますからお読みになった方がおありのことと思いますが、スコットランドのなまりは非常に難しいのです。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
中にかぶとの鉢を伏せたらんがごとき山見え隠れするを向いの商人ていの男に問う。何とか云いしも車の音に消されて判らず。再三問いかえせしもなまりの耳なれぬ故かついにわからず。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
関西なまりの特長のある呼び方で、彼はちよつと頭を下げた。それはお辞儀といふよりも、何か強談を持ちかけるといつた工合の、一種の身構への感じられるつい調子だつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
畑尾は昨日きのふ彼方此方あちらこちらで聞いた鏡子の噂などを語るのであつたが、鏡子は此人が今に大阪なまりを忘れ得ないで居るのが、一層この人をなつかしのある人にするのであるやうに
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
勝平は、誰に対しても、使ったことのないような、丁寧ななまりのある言葉で、哀願するような口調でしみ/″\と話し出した。が、瑠璃子は、黙々として言葉を出さなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
声は少しさびのある高調子で、なまりのない東京弁だった。かなり、辛辣しんらつな取調べに対して、色は蒼白あおざめながらも、割合に冷静に、平気らしく答弁するのが、また、署長を苛立いらだたせた。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
目のクリッとした剽軽ひょうきんな顔を、無理にしかめながら、飯島の漁師なまりでサト子を叱りつけた。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
四国なまりのある日本語や、若々しい鶏の胸肉のように軟らかい、ふるいつきたくなる娘の肉体を、視覚で享楽しながら、一家の不安に同感し、心配げな顔をしたり、また、特別
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
私が夜会服に替えてサルーンに設けられた席に着くと、金モールの事務長の植民地通いの海員らしい頑丈な腕がさしのべられて関西なまりのある社交的なバスが、ようこそ、Yさん。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
「さうかなア、東京かなア……。江戸ツ子にしちやアなまりがあるよ。幸田君はいくつ?」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
海禪は又小さい声で「挨拶するから此方こっち這入へえれよ」んな声で云ってもなまりが違いますから露顕しそうなものだが、そこは夢中で小兼が問掛けると、半治は一間ひとまから飛出しまして
斯くをどり狂ひ笑みたはむれて、一歩一歩地獄に進み近づくなり。く奈落の底に往きて狂ひ戲れよといふ。僧の聲は漸く大に、我耳はこの拿破里なまりを聞くこと、一篇の詩を聞く如くなりき。
「もう御診断は御伺いになったんですか?」と、強い東北なまりの声をかけた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どこかのなまりの取れない言葉で、あれこれと話して、さういふひよわいお子さんが、お母さまなしに、不自由ばかりして来られたのだから、この人がだれよりもお可哀さうでならないと言ひながら
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
学校を出てから、伊予いよの松山の中学の教師にしばらく行った。あの『坊っちゃん』にあるぞなもしのなまりを使う中学の生徒は、ここの連中だ。僕は『坊っちゃん』みたようなことはやりはしなかったよ。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それがもろこであると説明しておいて、老主人はひどく土地のなまりのある言葉でなおもいい足した。自分は海の魚をあまり好かない。このもろこは近所の川で今朝ってきたものであるというのである。
ふるさとのなまりなつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく
かき・みかん・かに (新字新仮名) / 中島哀浪(著)
氏名のなまりは白石も亦同じやうに聞き違へて、結局彼は日本の記録にヨワン・バッティスタ・シローテといふ氏名を伝へることゝなつた。
「あ、とみ、とみだね。」田舎のなまりが少し出たほど、それほど男爵は、あわてていた。十年まえ、とみは、田舎の男爵の家で女中をしていた。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
湯殿口の三人とは、他人のように湯気にうだりながら、土佐侍のよくうた盛節さかんぶしの数えうたを、お国なまりでうたっていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一首の意は、あの晩に別れたきり、いまだに恋しい夫にわずに居ります、という女の歌であるが、結句のなまりと、「よ」なども特殊なものにしている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)