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ぼうばく
ふりがな文庫
“
茫漠
(
ぼうばく
)” の例文
老耄
(
ろうもう
)
していた。日が当ると
茫漠
(
ぼうばく
)
とした影が
平
(
たいら
)
な
地面
(
じべた
)
に落ちるけれど曇っているので鼠色の幕を垂れたような空に、濃く浮き出ていた。
扉
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
どこからどこまでも区切のない
茫漠
(
ぼうばく
)
たる一面の焼け武蔵野ヶ原であったけれど——この原庭と思われる辺に来て、杜は
不図
(
ふと
)
足を停めた。
棺桶の花嫁
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
膠着
(
こうちゃく
)
した微笑が消え、なにか、うつけたような
茫漠
(
ぼうばく
)
とした表情になって、目を遠くの空へ放した。……
激昂
(
げっこう
)
が、ぼくをおそった。
煙突
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
ロシア映画のスクリーンのかなたにはいつでも
茫漠
(
ぼうばく
)
たるシベリアの野の幻がつきまとっている。さて日本の映画はどうであろう。
映画芸術
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
無論現実的の憂愁ではなく、青空に漂う雲のような、または何かの旅愁のような、遠い眺望への視野を持った、心の
茫漠
(
ぼうばく
)
とした
愁
(
うれい
)
である。
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
▼ もっと見る
資料を古く
弘
(
ひろ
)
く求めてみればみるほど
輪廓
(
りんかく
)
は次第に
茫漠
(
ぼうばく
)
となるのは、最初から名称以外にたくさんの一致がなかった結果である。
山の人生
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
太鼓の音、大砲のとどろき、ラッパの響き、歩兵隊の歩調を取った足音、騎兵の
茫漠
(
ぼうばく
)
たる遠い疾駆の音、などが聞こえてくるかと思われた。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
それはいまだ
茫漠
(
ぼうばく
)
として明らかな形を成してはいないけれど、たしかに存在している。私はこの力の存在の肯定から出発する。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
人生の全局面を
蔽
(
おお
)
う大輪廓を描いて、未来をその中に追い込もうとするよりも、
茫漠
(
ぼうばく
)
たる輪廓中の一小片を堅固に
把持
(
はじ
)
して
イズムの功過
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
涯
(
はて
)
しもない
茫漠
(
ぼうばく
)
たる雪原がただ一面に栄光色に輝いて、そのすえは同じような色の空のなかへ溶けこんでいる。雪の大海原。
キャラコさん:02 雪の山小屋
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
後醍醐の愛は、すこぶる
茫漠
(
ぼうばく
)
たるもので、お心の内がわは分らないが、表面は三人の妃のたれへも平等にふるまわれていた。
私本太平記:06 八荒帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
或
(
あるい
)
は
聖
(
しょう
)
観音ともいわれる。すべての飛鳥仏のごとく下ぶくれのゆったりした
風貌
(
ふうぼう
)
、
茫漠
(
ぼうばく
)
とした表情のまま左手に
壺
(
つぼ
)
をさげて
悠然
(
ゆうぜん
)
直立している。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
そして、恋もなく滅んでしまった青春を考えると、たまらない寂しさにとらえられた。薄暗い
茫漠
(
ぼうばく
)
たる悲しみだった……。
ジャン・クリストフ:08 第六巻 アントアネット
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
しかし無論蟹江のこの感じは、その頃はまだ
茫漠
(
ぼうばく
)
としていて、自分でもはっきりととらえがたい程度だったわけです。
Sの背中
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
茫漠
(
ぼうばく
)
たる大河の岸に、ロシアの行政中心の一つとなっている市街がある。街には
要塞
(
ようさい
)
があり、要塞の中に監獄がある。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
もの音の
杜絶
(
とぜつ
)
した夜半、泥海と
茫漠
(
ぼうばく
)
たる野づらの
涯
(
はて
)
しなくつづくそこの土地の
妖
(
あや
)
しい空気をすぐ外に感じながら、ひとりでそんなことを考えていると
冬日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
鮮麗な秋の空、目立たぬほどの積雲が、海上二マイルばかりのところに
茫漠
(
ぼうばく
)
としている。今日も終日、海上も無事だし、明日のこともまず心配はない。
大菩薩峠:28 Oceanの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
飛石のように
列
(
なら
)
んでいるのであるからもう島影を発見しなければならぬが、相変らず
茫漠
(
ぼうばく
)
たる水また水である。
怪奇人造島
(新字新仮名)
/
寺島柾史
(著)
多少俳句に心得ある人、
徒
(
いたず
)
らに大観の趣味を解したるまねしてこの種の句を為す者、往々陳腐に陥りまたは
茫漠
(
ぼうばく
)
解すべからざるに至る。
鑑
(
かんが
)
みる所あるべし。
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
その春、私が連れて行かれたその
狂院
(
きょういん
)
に咲き満ちて
居
(
い
)
た桜の花のおびただしさ、海か
密雲
(
みつうん
)
に対するように始め私は
茫漠
(
ぼうばく
)
として美感にうたれて居るだけでした。
病房にたわむ花
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
どうして己の頭の中には、いつもいつも
茫漠
(
ぼうばく
)
とした、取り止めのない空想ばかりが湧き上って来るのだろう。
小僧の夢
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「そんなこともありませんが、昨今漸く重荷を下しました。
顧
(
かえりみ
)
ると人生はまあ斯うしたものかと、その何ですな、
茫漠
(
ぼうばく
)
ながら、要領を得たような心持がします」
嫁取婿取
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
茫漠
(
ぼうばく
)
として広い
青茅
(
あおち
)
の原に突っ立った
栂
(
つが
)
の老木から老木へ、白い霧が移り渡って、前白根の方へ消えいく。
雪代山女魚
(新字新仮名)
/
佐藤垢石
(著)
そしてその
尨大
(
ぼうだい
)
な容積やその藤紫色をした陰翳はなにかしら
茫漠
(
ぼうばく
)
とした悲哀をその雲に感じさせた。
蒼穹
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
変に
茫漠
(
ぼうばく
)
とした、取りとめのない、そしてそれが何んとなく苦しいような感じさえして来た。
風立ちぬ
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
且
(
か
)
つ
茫漠
(
ぼうばく
)
たる
原野
(
げんや
)
のことなれば、如何に歩調を
進
(
すす
)
むるも
容易
(
やうい
)
に之を
横
(
よこ
)
ぎるを
得
(
え
)
ず、日亦暮れしを以て
遂
(
つゐ
)
に側の
森林中
(
しんりんちう
)
に
入
(
い
)
りて露泊す、此夜
途中
(
とちう
)
探集
(
さいしふ
)
せし「まひ
茸
(
たけ
)
」汁を
作
(
つく
)
る
利根水源探検紀行
(新字旧仮名)
/
渡辺千吉郎
(著)
時刻はもう二十分くらい経っていたろうか、春の日もそれほど永からぬこの日の夕ぐもりが、しだいに
茫漠
(
ぼうばく
)
たる生田川のほとりを幾すじかの筋目を見せながら包んで行った。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
四辺
茫漠
(
ぼうばく
)
たる霧の中で、鳴り響く太鼓の洞然たる音はまことに神秘的のものであったが、それに答えて赤帆の船から、
法螺貝
(
ほらがい
)
の音の鳴り渡ったのはさらに一層神秘的であった。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
といったばかりではいかにも
唐突
(
だしぬけ
)
だが、井戸の下に広がっている
茫漠
(
ぼうばく
)
たる大広間だ。
つづれ烏羽玉
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
相変らず白っぽい
霞
(
かすみ
)
のかかったような、それでいて、その顔の見えない方の側には、
悪狡
(
わるがしこ
)
い片眼でも動いていそうな……という、いつも見る
茫漠
(
ぼうばく
)
とした薄気味悪さで、またそれには
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
阿賀妻は
茫漠
(
ぼうばく
)
とした顔でその話を聞いていた。高机にのせた自分の腕を斜め前のところに置き、両手の指をからませてぴくりぴくりと動かしている。
拇指
(
おやゆび
)
が蛇の
鎌首
(
かまくび
)
のように突っ立つ。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
それが遠い灰色の雲なぞを
背景
(
バック
)
にして立つさまは、何んとなく
茫漠
(
ぼうばく
)
とした感じを与える。原にある一筋の細い道の傍には、紫色に咲いた花もあった。T君に聞くと、それは松虫草とか言った。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
雪の場合のように目標が
茫漠
(
ぼうばく
)
としていて、手探りの
盲目
(
もうもく
)
飛行の中で、一点の雲の切れ目を
捕
(
とら
)
えて、機を逸せずその方へ
突入
(
とつにゅう
)
して行くようなことをくり返して行く仕事では、小出しに満を持しては
実験室の記憶
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
昔の草原の
茫漠
(
ぼうばく
)
たる光景をよく知っている者は少ないかも知れない。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
茫漠
(
ぼうばく
)
とした孤独感のみがひたひたと胸をひたした。
糞尿譚
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
八五郎は
茫漠
(
ぼうばく
)
とした顔を挙げました。
銭形平次捕物控:245 春宵
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
あの
茫漠
(
ぼうばく
)
たるアジア大陸の荒野の上を次第に南に向かって進んでいるという感じがかなりまで強く打ちだされていることは充分に認められる。
映画雑感(Ⅰ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
しかし、心の迷いがあるから、
茫漠
(
ぼうばく
)
としたものへあせる気がうごいているから。という自省はその時お千絵にはなかった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼の結論の
茫漠
(
ぼうばく
)
として、彼の鼻孔から
迸出
(
ほうしゅつ
)
する朝日の煙のごとく、
捕捉
(
ほそく
)
しがたきは、彼の議論における唯一の特色として記憶すべき事実である。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
波が動きをとめたので、
湖水
(
みずうみ
)
のように
茫漠
(
ぼうばく
)
とひろがる月夜の海を、サト子は、のびたり縮んだりしながら、水音もたてずに洞のほうへ泳いで行った。
あなたも私も
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
そればかりか、不用意のうちに現われる彼の希望の
茫漠
(
ぼうばく
)
として支離滅裂なことにむしろ驚かされるくらいであった。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
その奥にやさしく
茫漠
(
ぼうばく
)
としたひろがりを感じさせて、すべての人びとをその底に引きずりこまずにはおかぬような、奇妙な深いものをたたえた目なのである。
博士の目
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
泡立
(
あわだ
)
つ激流の音は聞こえていたが、川の面は見えなかった。おりおり、目が
眩
(
くら
)
むばかりのその深みの中に、一条の明るみが現われて
茫漠
(
ぼうばく
)
たるうねりをなした。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
これらを綜合していた
本
(
もと
)
の姿というものは、よほど
茫漠
(
ぼうばく
)
として把捉しがたいものになってしまうのである。
垣内の話
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
居着いた借家——それは今も彼の
棲
(
す
)
んでいる家だったが——は海の見える
茫漠
(
ぼうばく
)
とした高台の一隅にあった。彼はその家のなかで傷ついた獣のように
呻吟
(
しんぎん
)
していた。
苦しく美しき夏
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
また
茫漠
(
ぼうばく
)
として、
耕
(
たがや
)
されていない
野原
(
のはら
)
があるかもしれない。それなのに、
衣食住
(
いしょくじゅう
)
に
窮
(
きゅう
)
して、
死
(
し
)
ななければならぬ
人間
(
にんげん
)
がたくさんいる。それはどうしたことだろうか。
太陽と星の下
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
彼が独身生活を続けるのも、そこから来るのであったが、情慾は強いかして彼の描く
茫漠
(
ぼうばく
)
とした油絵にも、雑多に
蒐
(
あつ
)
められる
蒐集品
(
しゅうしゅうひん
)
にも何かエロチックの
匂
(
にお
)
いがあった。
食魔
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
どうしても
茫漠
(
ぼうばく
)
として当りがつきませんでしたが、とにかく、これだけのことをお知らせ申しておいて、また出直しを致そうかとこう考えて、大急ぎで飛んで参ったんでございます
大菩薩峠:22 白骨の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
有らゆる用を足す上に、宿題を手伝ったり、試験の山をかけたりしてくれる。要するに内弟子として申分ない。しかし何よりも
大切
(
だいじ
)
な芸の方は未だ
初心
(
しょしん
)
だから、
前途
(
ぜんと
)
茫漠
(
ぼうばく
)
としている。
心のアンテナ
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
揺り覚まされた虻が
茫漠
(
ぼうばく
)
とした堯の過去へ飛び去った。その
麗
(
うらら
)
かな
臘月
(
ろうげつ
)
の午前へ。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
茫
漢検1級
部首:⾋
9画
漠
常用漢字
中学
部首:⽔
13画
“茫漠”で始まる語句
茫漠性