なえ)” の例文
つい昨日までいた開墾小屋では、強い西陽はなえの育ちを思い、あしたの晴朗な気がぼくされて、この上もない光明であり希望であった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかし金持かねもちのんでいた屋敷やしきも、れはててそのままになっていたが、いつしか、そこにもなしのなえは、えられたのです。
そして明けッ放してある二階のそとに夜がだんだんふけて行くにしたがって、子供の事とともに自分の畑のなえの事がまた一番心配になってきた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
その証拠しょうことして今日こんにちあるミカンのなえにははじめ三出葉がで、いで一枚の常葉じょうよう(単葉)が出ていることがたまに見られ
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
翁は斗満に帰ってから、実桜チェリーなえ二本送って呉れた。其夏久しく気にかけて居た余作君の結婚がんだ事を報じてよこした。其秋の九月二十六日は雨だった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
学校へ行ったってだめだ。……先生はああ倒れたのか、なえが弱くはなかったかな、あんまり力をおとしてはいけないよ、ぐらいのことを云ってわらうだけのもんだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「そう云えば、僕もあの娘が連れて来てくれたんだが、俺ンとこと同じようなもンらしい、うり、トマト、茄子なすなえ売りますなんて、木のふだが出てるあそこなんだろう」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
銭形平次は丹精甲斐もない朝顔のなえを鉢に上げて、八五郎の話には身が入りそうもありません。
老耄おいぼれ儒者めが、うち引込ひっこんで、溝端どぶばたへ、きりなえでも植ゑ、孫娘の嫁入道具の算段なりとしてれば済むものを——いや、何時いつの世にも当代におもねるものは、当代の学者だな。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なえの時に曲げられた木の幹を、誰が完全に真直にすることが出来るのだ。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ひとつ田に、兵と百姓とはすねうずめてなえを植えた。働く蜀兵の背中に負われているあかン坊を見ると、それは魏の百姓の子であった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
賢吉けんきちは、そのそばへいってみると、かきのなえが、みょうがばたけはしほうに一ぽんて、おおきなをつやつやさしています。
僕のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
またザボンのなえ葉柄ようへいみきから芽出めだつ葉にもまた三出葉が見られることがあって、つまり遠い遠い前世界の時の葉を出しているのであることは
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ある年やっぱりなえが二いろあったから、植えたあとでも二いろあった。だんだんそれが大きくなって、葉からはトマトの青いにおいがし、くきからはこまかな黄金きんつぶのようなものもき出した。
黄いろのトマト (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何よりも先ず宮益みやますの興農園からの長い作切鍬、手斧鍬ちょうなぐわ、ホー、ハァト形のワーレンホー、レーキ、シャヴル、草苅鎌、柴苅鎌しばかりがまなど百姓の武器と、園芸書類えんげいしょるい六韜三略りくとうさんりゃくと、種子となえとを仕入れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
賢吉けんきちは、往来おうらいあるいて、らされながらいえかえると、このきずのついたかきのなえをどこへえたらいいかとかんがえました。
僕のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「では易いことじゃ、わしらも、なえを植えながら申しまする」人々は、笠をそろえて、親鸞のいわゆる一念一植を行念ぎょうねんした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それもそのはず、地中に細長い白色地下茎はくしょくちかけい縦横じゅうおうに通っていて、なえを抜く時にそれが切れ、依然いぜんとして地中に残り、その残りからまたなええるからである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
うしろでだれかこごんで石ころをひろっているものもある。小松ばやしだ。んでいる。このみちはずうっと上流じょうりゅうまで通っているんだ。造林ぞうりんのときはなえや何かを一杯つけた馬がぞろぞろここを行くんだぞ。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
西にしくにからも、みなみくにからも、また、うみのあちらの熱帯ねったいしまからもきた。種子たねや、なえふねせて、ひとってきたのだ。」と、みつばちはこたえました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
神領の民の中にだけでもこころのなえを植えておけば、いつかは生々とこの森のように、精神の文化が茂る日もあろうか——という、これは彼の悲壮な孤業なのであった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勇二ゆうじは、なんとなく、その山吹やまぶきなえをかわいそうにおもいました。もし、このままにしておいたら、ついにはびもせずに、れてしまうだろうとおもいました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
……ところが自分がつねに領内の山を見ておると、もうよわいも六十、七十になった百姓の老爺ろうやなどが、手元も暗くなる頃まで、杉のなえなど、山に植えているのを見かけます。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不幸ふこう山吹やまぶきなえが、存在そんざいしているということは、みつばちをはじめ、毎日まいにち、そこらへきて、くちやかましくおしゃべりをするすずめたちにも、がつかなければ
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なえをくだされ」親鸞は、深々と、泥田の中へすねを入れていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある早春そうしゅんのこと、あたりのいい、てら門前もんぜんで、みせをひらいて、草花くさばなや、なえっているおとこがありました。これを勇吉ゆうきちは、やまゆりのを二つってかえりました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、めずらしいはながあったら、その種子たねや、またなえってきてまいたり、えたりしてください。ここはなんでもそだたないということはありません。それは、えています。
花咲く島の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ある勇二ゆうじは、こうちゃんのいえあそびにきて、にわ山吹やまぶきはなをながめながら、垣根かきねそとへまわると、ふとそこに、不幸ふこうなえが、みんなからはなれて、えていることにがついたのです。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)