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纔
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わづ
ふりがな文庫
“
纔
(
わづ
)” の例文
路は絶えずすさまじく鳴り轟く水量の多い谷に添つて、
纔
(
わづ
)
かに崖を削り取つてこしらへたといふやうなところを掠めて通つて行つた。
山間の旅舎
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
この混沌たる暗黒時代に一縷の光明を与ふるものは僕等の先達並びに民間の学者の
纔
(
わづ
)
かに燈心を加へ来れる二千年来の常夜燈あるのみ。
文部省の仮名遣改定案について
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
此から後は、古今選者たちの立てたものを絶対に信頼して行つた後進者の、
纔
(
わづ
)
かづゝの時代的の
踠
(
アガ
)
きを見るに過ぎないのである。
短歌本質成立の時代:万葉集以後の歌風の見わたし
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
夏になれば氷屋の店も張られた。——それもこれも今は
纔
(
わづ
)
かに、
老人達
(
としよりたち
)
の
追憶談
(
むかしばなし
)
に残つて、村は年毎に、
宛然
(
さながら
)
藁火の消えてゆく様に衰へた。
赤痢
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
〔譯〕心は
現在
(
げんざい
)
せんことを
要
(
えう
)
す。事未だ來らずば、
邀
(
むか
)
ふ可らず。事已に
往
(
ゆ
)
かば、
追
(
お
)
ふ可らず。
纔
(
わづ
)
かに追ひ纔かに邀へば、
便
(
すなは
)
ち是れ
放心
(
はうしん
)
なり。
南洲手抄言志録:03 南洲手抄言志録
(旧字旧仮名)
/
秋月種樹
、
佐藤一斎
(著)
▼ もっと見る
また、手を伸ばさうとする、が、一歩踏みはづせば其まゝ深谿へ落ちて了ふ。
纔
(
わづ
)
かに花を摘んだ。女の兒は悦んで其花を手にして登つて行く。
夢
(旧字旧仮名)
/
吉江喬松
、
吉江孤雁
(著)
手
(
て
)
が、
砂地
(
すなぢ
)
に
引上
(
ひきあ
)
げてある
難破船
(
なんぱせん
)
の、
纔
(
わづ
)
かに
其形
(
そのかたち
)
を
留
(
とゞ
)
めて
居
(
ゐ
)
る、三十
石
(
こく
)
積
(
づみ
)
と
見覺
(
みおぼ
)
えのある、
其
(
そ
)
の
舷
(
ふなばた
)
にかゝつて、
五寸釘
(
ごすんくぎ
)
をヒヤ/\と
掴
(
つか
)
んで、また
身震
(
みぶるひ
)
をした。
星あかり
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
聞けば僧正の歿後悪僧によつて
纔
(
わづ
)
か二百金で一俗人の手に売渡されたのだと云ふ。釈迦堂
其他
(
そのた
)
を開
扉
(
ひ
)
して
呉
(
く
)
れたが美術的の価値の無い
俗悪
(
ぞくあく
)
を極めた物
許
(
ばか
)
りであつた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
纔
(
わづ
)
かに五六
年
(
ねん
)
で
地上
(
ちじやう
)
は
此變化
(
このへんくわ
)
である。
地中
(
ちちう
)
の
秘密
(
ひみつ
)
はそれでも、三千
餘年
(
よねん
)
の
間
(
あひだ
)
保
(
たも
)
たれたと
思
(
おも
)
ふと、これを
攪亂
(
くわんらん
)
した
余等
(
よら
)
は、
確
(
たし
)
かに
罪惡
(
ざいあく
)
であると
考
(
かんが
)
へずには
居
(
ゐ
)
られぬのである。
探検実記 地中の秘密:02 権現台の懐古
(旧字旧仮名)
/
江見水蔭
(著)
人間は此
福
(
さいはひ
)
を犠牲にして、
纔
(
わづ
)
かに世界の進化を
翼成
(
よくせい
)
してゐる。第二期では福を死後に求める。それには個人としての不滅を前提にしなくてはならない。ところが個人の意識は死と共に滅する。
妄想
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
以て百
許
(
ばか
)
り
續
(
つゞ
)
け打に打せければ
憐
(
あは
)
れむべし傳吉は身の
皮
(
かは
)
破
(
やぶ
)
れ
肉
(
にく
)
裂
(
さけ
)
て血は流れて
身心
(
しんしん
)
惱亂
(
なうらん
)
し終に
悶絶
(
もんぜつ
)
したるゆゑ今日の
責
(
せめ
)
は是迄にて
入牢
(
じゆらう
)
となり之より日々に
責
(
せめ
)
られけるが數度の
拷問
(
がうもん
)
に肉落て最早
腰
(
こし
)
も立ず
纔
(
わづ
)
かに息の
通
(
かよ
)
ふのみにて今は命の
終
(
をは
)
らんとなす有樣なり爰に於て傳吉思ふやう
斯
(
かゝ
)
る
無體
(
むたい
)
の拷問は
偏
(
ひとへ
)
に上臺憑司が役人と
腹
(
はら
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
大抵は
跣足
(
はだし
)
でした。靴なぞ
穿
(
は
)
いてゐるものは稀にしかありませんでした。アンペラで囲つて
纔
(
わづ
)
かに雨風を凌いでゐるといふやうな家もありました。
一少女
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
宣命の外、長歌などでも、人麻呂以後、皆模倣の中から、
纔
(
わづ
)
かに新発想を出さうと努めたに過ぎない。
日本文学の発生
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
和蘭陀
(
ヲランダ
)
はアムステルダムと
海牙
(
ハアグ
)
との両都を
纔
(
わづ
)
か
二日
(
ふつか
)
で観て通つたに過ぎない。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
名所圖繪を
繙
(
ひもと
)
きても、其頃は
路
(
みち
)
嶮に、
溪
(
けい
)
危
(
あやう
)
く、少しく意を用ゐざれば、千
尋
(
じん
)
の
深谷
(
しんこく
)
に
墮
(
お
)
つるの憂ありしものゝ如くなるを、
纔
(
わづ
)
かに百餘年を隔てたる
今日
(
こんにち
)
、
棧橋
(
かけはし
)
の
跟
(
あと
)
なく
秋の岐蘇路
(旧字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
即極めて淡い享楽態度を持ち続ける中に、
纔
(
わづ
)
かに人事・自然の変化を見ようとするのだつた。
叙景詩の発生
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
こんな事を歌つて気を紛らさうとするのであるが
何時
(
いつ
)
の間にか
鬢
(
びん
)
までが涙に濡れて居た。
良人
(
をつと
)
が
甲板
(
かふばん
)
から降りて来てドオバアへ着いたと知らせて
呉
(
く
)
れた。
纔
(
わづ
)
か一時間で海峡を渡つたのである。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
乃
(
すなは
)
ち溪聲を樹間に求め、樹に
縋
(
すが
)
り、石に
凭
(
よ
)
りて
纔
(
わづ
)
かにこれを窺ふ。水は國道の絶崖に
偏
(
かたよ
)
りて、其處に劒の如く
聳立
(
しやうりつ
)
せる
大岩
(
たいがん
)
に
衝
(
あた
)
り、その飛沫の飛散する霧のごとく
烟
(
けぶり
)
の如し。
秋の岐蘇路
(旧字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
纔
(
わづ
)
かに百年、其短い時間も文字に疎い生活には、さながら太古を考へると同じことである。
死者の書:――初稿版――
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
深く自己を掘れば掘るほどさうでない。劇のやうでない。ことに社会劇のやうでない。社会劇に起つて来るやうな問題は、
纔
(
わづ
)
かに社会から一歩乃至数歩進んだやうな処である。
社会劇と印象派
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
歌の一部を急転させて違つた意義を導いたり、前句との連続に意義の上に軽い渋滞を感じさせて置いた上、読者の習性を利用して、
纔
(
わづ
)
かに、かけ語や、語感を契機に飛躍させる。
女房文学から隠者文学へ:後期王朝文学史
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
即興以外には
纔
(
わづ
)
かに宴遊の余興に於て、だが、はつ/\好事の漢風移植者たる大伴
ノ
旅人・家持一味の人々の文芸意識を持つての遊戯が見える位に過ぎない時代に、悲しみを叙して
相聞の発達
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
天は不幸なるこの重右衛門にこの
纔
(
わづ
)
かなる
恩恵
(
めぐみ
)
をすら惜んで与へなかつたので、尋常よりも
尚
(
なほ
)
数等愚劣なるかれの妻は、この危機に際して、あらう事か、
不貞腐
(
ふてくされ
)
にも、夫の留守を幸ひに
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
自分が始めてこの根本家を尋ねた時、妻君が
頻
(
しき
)
りに、
鋤
(
すき
)
、
鍬
(
くは
)
等を洗つて居た
田池
(
たねけ
)
——其周囲には
河骨
(
かうほね
)
、
撫子
(
なでしこ
)
などが美しくその
婉
(
しを
)
らしい影を
涵
(
ひた
)
して居た
纔
(
わづ
)
か三尺四方に過ぎぬ田池の有つた事を。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
其本つ国については、先史考古学者や、比較言語学者や、古代史研究家が、若干の旁証を提供することがあるのに過ぎぬ。其子・其孫は、
祖
(
オヤ
)
の渡らぬ先の国を、
纔
(
わづ
)
かに聞き知つて居たであらう。
妣が国へ・常世へ
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
庇
(
ひさし
)
傾
(
かたぶ
)
きたる
大
(
だい
)
なる家屋の
幾箇
(
いくつ
)
となく其道を挾みて立てる、旅亭の古看板の幾年月の
塵埃
(
ちりほこり
)
に黒みて
纔
(
わづ
)
かに軒に認めらるゝ、
傍
(
かたはら
)
に
際立
(
きはだ
)
ちて白く
夏繭
(
なつまゆ
)
の籠の日に光れる、驛のところどころ家屋
途絶
(
とだ
)
えて
秋の岐蘇路
(旧字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
けれど自分がこの三人と交際したのは
纔
(
わづ
)
か二年に過ぎなかつた。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
纔
漢検1級
部首:⽷
23画
“纔”を含む語句
方纔
方纔篋
纔者
纔訴