くび)” の例文
こんな筈はなかったのにと、白シャツ一枚でしきりに我と我が喉のくびり方を研究している中に悪寒さむけを覚えて、用心の為め又三四日休んだ。
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三味線堀の中山半七郎が、風呂の帰りを路地の中で襲われ、自分の手拭でくびり殺された上、家の中は滅茶滅茶に荒されていたのです。
栖子が立ち上って逃げ出した時の丸い白い踵や、細い胴にくびれ込まして締た、まだ娘々した帯つきが妙に千代重を焦立たしくした。
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
悲惨な事には、水ばかり飲むものだから、身籠みごもったようにかえってふくれて、下腹のゆいめなぞは、乳の下をくびったようでしたよ。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
或朝、万太夫座の道具方が、楽屋の片隅かたすみはりに、くびれて死んだ中年の女を見出みいだした。それは、紛れもなく宗清むねせいの女房お梶であった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
吉助は茶店のなかにくびられていた。お定は番屋へ引っ立てられると、もう尋常に覚悟を決めてしまったらしく、何もかも素直に白状した。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
▲然るにその後久弥はその金をつかい果したものか、昨夜突然高林家に忍び入って恩師をくびり殺してその臍繰りと名器の鼓を奪って逃げた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
最初の油断をのぞいても、まだ幾分か見くびった考えを残していた金右衛門は、ここに初めて本気にならざるを得なくなりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女房が自然と正気にかえった時には、おっとも死ねなかったものとみえて、れた衣服で岸に上って、傍の老樹の枝に首をって自らくびれており
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
春の朝、二三輪の花の咲きほころびた梅の枝に朝日が当って、その枝にハイデルベルヒの若い学生が、ほっそりとくびれて死んでいたという。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
転倒てんどうしてくびれて死んだ事であると分ったので事果てましたから、死骸はまず佐十郎方へ引取らせて、野辺送りをいたしました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ゾラが「作品ウウブル」の主人公たる畫家クロオドは愛する妻を殘して、何故なにゆゑ夜半に獨り、そが未成の畫面に對してくびれて死んだか。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
その男は、自分の過失とは云え、余りもの無体に、主人を呪って、芝居がはねた、その夜、奈落の片隅に、くびれて死んだ。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
彼女は恩師であり情人であった島村抱月しまむらほうげつ氏に死別して後、はじめて生と愛の尊さを知り、カルメンに扮した四日目の夜にくびれ死んだのであった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あとでユダのごとく自らくびれ死ぬるほどの後悔をしたとて(マタイ二七の五)、犯した罪は犯したのです。その事実をいかんともなしえません。
花園の中の棲雲石の上には若い男が横たわっており、老樹の枝には秀英がくびれていた。夫人は狂人のように走って往って、秀英の体を抱きあげた。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
道に差出でし松がより怪しき物さがれり。きも太き若者はずかずかと寄りて眼定めて見たり。くびれるは源叔父なりき。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
わしも一旦はくびり殺されたのですがね、しばらくすると息を吹き返しましたよ。誰か知らん、首に捲きつけた細引をといてくれた人があったのでね。
「旦那様、大変でございますよ。あの綺麗な浪人の内儀が、しごきをはりへ引っかけて、くびれているじゃありませんか」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、房枝は一週間目に、鈴木女教員が学校へ出ていったあとで、その下宿の二階の鴨居かもいに自分の赤い帯をかけて、みずからくびれて死んだのだった。
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
支倉は六月十九日、即ち忌避却下の送達書の来る前一日監房内でくびれて死んだのであった。彼が何故忌避の結果の判明するのを待たずして自殺したか。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
彼は実に生をおしまざりしに非ず、欲せざりしに非ず、彼は惰夫だふが事に迫りて自らくびるるが如き者に非ず、狂漢が物に激して自ら腹をくが如きに非ず
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
くびり殺してしまった上、指輪は侯爵夫人へ送り返したと云う事実を、何故あなたはお考え下さらないのですか?
薔薇の女 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
一番都合のいいのは、帯を解いてはりに掛け、自分でくびれて死ねば彼等に殺人の罪名がないわけだ。そうすれば自然願いが通って皆大喜びで鼠泣きするだろう。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ほんの二三分のあいだに佐原屋をくびり殺し、土扉を開閉もせずに風のように出て行くなどという物理を超越したことが、人間の力で出来ようとは考えられない。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は今朝尋ねたりし阿園がくびれたる死骸しがいを見しなり、げに昨夜家を出て、六地蔵堂の松樹に縊れし阿園は、今その家の敷居にきょしてすすれる里方の両親の面前に
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
中では、安次が蒲団から紫色の斑紋を浮かばせたいかった肩をそり出したまま、左右に延ばした両手の指を、くびられた鶴の爪のように鋭く曲げて冷たくなっていた。
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
舞台の上は、いま薄暗い。船艙の一隅に蒼白く煙るような照明がつよく集注されている。足蹴にされた少年給仕の、くびれて死んだ死体がその隅に横たわっている。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
だが、その男も犬みてえにくびり殺されて、他の奴らと同じに天日てんぴに曝されたぜ、コーソー要塞(註四七)でよ。あれはロバーツ(註四八)の手下だった、あれはな。
強烈な色彩と音楽とスリルを享楽し、又、いつの間にか曲馬団が他へ流れて行っても、しばらくは、フト白い流れ雲の中に、少年や少女のくびれた肢体を思い出すのである。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
漸くくびられる様な思いで「何時御婚礼を成されます」と問い返した辛さは真に察して貰い度い。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「わしが大馬鹿だった。誰を恨みようもない。おのがったなわで、くびれ死ぬようなものなのだ。お高どの、掛川宿かけがわじゅくの具足屋という宿屋のことを話したことがあったかな?」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あるひは姑が邪慳じやけんで嫁をくびり殺さうとしても、婦にはいつも自ら去るの義なしとて、夫の家を動かなかつたとか申す様な事を、この上もなき婦人の美徳と心得ておりました。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
柔らげた竹の端をかしの樹の板に明けた円い孔へ挿込んでぐいぐいじる、そうしてだんだんに少しずつ小さい孔へ順々に挿込んで責めて行くと竹の端が少しくびれて細くなる。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
首縊くびくゝりが二人ばかりあつた、人目を避けるに、都合がいゝとは言ひながら、不思議なことに、死ぬ人は原始的に安息な自然を選ぶ、川や海に身を投げる人と森の中でくびる人と。
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
土蔵の中でくびれたが死に切れず、庭の井戸へ身を投げて命を果てたのだというのである。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
赤坊がくびり殺されそうに戸の外で泣き立てた。彼れはそれにも気を取られていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「これはきっと、頭の傷だけでは死に切らなかったので、指でくびり殺したのです」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
五兵衞吉兵衞の兩人へ引渡しに成たりける元より久八がくびころしたるおもむ自訴じそせしかば翌日甲州屋吉兵衞伊勢屋五兵衞久八の伯父をぢ六右衞門一同等御呼出よびだしにて調べとこそは成りにけれ。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
玄鶴はこの褌を便りに、——この褌にくびれ死ぬことを便りにやっと短い半日を暮した。しかし床の上に起き直ることさえ人手を借りなければならぬ彼には容易にその機会も得られなかった。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
みんなはその蛇の首のまはりをいぐさでもつてくびつてゐるのです。僕が通りかゝると、皆なが呼んだんです。蛇はその口から、黒くて、尖つた、軟かいやうな変なものを飛び出さしてゐました。
帝、我を奈何いかんせんとするぞや、と問いたもう。震こたえて、君は御心みこころのまゝにおわせ、臣はみずから処する有らんともうす。人生の悲しきに堪えずや有りけん、その駅亭にみずからくびれて死しぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一人は飲食店の借金で首がまはらずたぬきる毒薬で自害し、一人の女は継母と婿養子との不和から世をいとうて扱帯しごきくびれ、水夫であつた一人は失恋して朝鮮海峡に投身して死んだことを話した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
扱帯しごきくびれたあとがひどいし、声もすっかりしゃがれてしまった、顔もれたままだが、におちないのは、縊死いししようとしたのは気が狂ったからでなく、どうやら正気でやったことらしいんだ」
事実は菅公のたゝりを気に病む餘り病気に取りかれ、枕許まくらもとに験者を招いて薬師経を読み上げさせていたところ、経の中に宮毘羅くびら大将と云う文句があったのを、「汝をくびる」と聞き違えて悶絶もんぜつ
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
家の周囲まわりにある樹に細引を掛けて、それにくびれて二十七歳で死んだ。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かたへの墻より高粱の殻一本を抽きて、これを横たへて、帯を解きてその上に掛け、かうべを引いてくびるるまねしたり。少婦はこの状を見て、果して哂ふ。なかまのものも亦うちはやしぬ。婦去りて既に遠くなりぬ。
『聊斎志異』より (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ただ見た所ばかりを丁寧にして心の中では見くびぬいて居た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
杜は自らはりの下にくびれていた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
仕方がないから言いなり放題になる心算つもりで、あの晩も出向いて行くと、驚いたことに当の音次郎は長火鉢の前でくびり殺されているのだ。