)” の例文
旧字:
調子の区別も曲の詞も音の高低も節廻ふしまわしもべて彼は耳の記憶きおくを頼りにしなければならなかったそれ以外に頼るものは何もなかった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
外国人に関する条規はべてこれを削除すること、また皇室に対する罪はこれを設くることを上奏を経て決定したる旨を宣告した。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
○鳥のロースの残骨や肉屑等べて料理の屑を少しの野菜とともに長く煮てスープを取れば料理物の味付や濁りスープに用いらるべし。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
次に陀羅尼だらにということばですが、これもまた梵語で、翻訳すれば「惣持そうじ」、べてを持つということで、あの鶴見つるみ惣持寺そうじじの惣持です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
従前の不完全なる観想の大結局を恋愛の中にべたるなど、恋愛の不可抜なる大原素なることを認むるにあらずんば能はざるところとす。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
胡弓のはぽっきりと三つばかりに折れたかと思うと、物凄い夜嵐の音も、いかれる乞食の姿も美しいお祭の景色もべて消えてしまって
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大はべての人の意識を結合する宇宙的意識統一に達するのである(意識統一を個人的意識内に限るは純粋経験に加えたる独断にすぎない)
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
或は私憤をらす為めに書き上げたとか、べて目的の他にある所の作品は、私は作品として出来上ったとは言わない。
予の描かんと欲する作品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「慈忍を日月の明徳に型取り、天地を照らして諸臣をべ、民を安きに置くものと、かように道人解釈しましてござる」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だん/\その忘れるくせめ直して、心を落着け、恐れ多いことですが、べてただしき御心のまゝに治めていらつしやる御神みかみの見まへと思つて万事する様にしたら
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
あたりのべてが満足する——そういう無理のない状態でこの話は進んでいる。しかも、今となっては、彼自身の意志如何いかんにかかわらず手はずは進められているのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
銀明水に達したるは午後七時になんなんとす、浅間社前の大石室に泊す、客は余を併せて四組七人、乾魚ほしうを一枚、の味噌汁一杯、天保銭大の沢庵たくあん二切、晩餐ばんさんべてはかくの如きのみ
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
今さらに我が夫を恨らみんも果敢はかなし、都は花の見る目うるはしきに、深山木みやまぎの我れ立ち並らぶ方なく、草木の冬と一人しりて、袖の涙に昔しを問へば、何ごともべて誤なりき
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
羅刹らせつ等住み最下第七処パタラに多頭ヴァスキ竜王諸竜をべて住むというは地底竜宮で『施設論』六に〈山下竜宮あれば、樹草多きに及ぶ、山下竜宮なかれば、樹草少なきに及ぶ〉とあり
太平記をあんずるに、義貞よしさだのため一敗地にまみれ、この寺を枕に割腹焼亡した一族主従は、相模さがみ入道高時たかときを頭にべて八百七十余人、「血は流れて大地にあふれ、満々として洪河のごとく」
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
從ツてめしふ、寢る、起きる、べて生活が自堕落じだらくとなツて、朝寢通すやうなこともある、くして彼は立派ななまけ者となツて、其の居室きよしつまでもやりツぱなしに亂雜らんざつにして置くやうになツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
べてが賑かだ、「小京都」という名前にそむかないと思った。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
「くどき」と言ふ名にべられたと見られる。
べての人間を愛しましょう
白い魔の手 (新字新仮名) / 長沢佑(著)
そうだ、この拇趾おやゆびもあの時の通りだ。小趾こゆびの形も、かかとの円味も、ふくれた甲の肉の盛り上りも、べてあの時の通りじゃないか。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
また一方にあっては、明治十六年から大学法学部に別課なるものを設けて、べて邦語を用いて教授することを試みた。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
弾正太夫のべている部下は総数四千人とは云うけれど、これは直接の部下なのであって、この部下以外に間接の部下は若干いくらあるとも想像が付かぬ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで塩を加えておろして砂糖と牛乳で食べます。べてマッシ類は冬ならば一度こしらえておくと二、三日は少し水を加えて温めて幾度いくどにも食べられます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
要するにかくのごとき社会をべる形式というものはどうしても変えなければ社会が動いて行かない。乱れる、まとまらないということに帰着するだろうと思う。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翁は自分の居間で食事をしたり、寝たりするのは赤目のちぢれ毛のびっこも決して見たことがないという。食事の時、寝る時共に厚い扉を堅くしめて、べて秘密にしている。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
で、陀羅尼とは、つまりあらゆる経典おきょうのエッセンスで、一字に無量の義をべ、一切の功徳くどくをことごとく持っているという意味です。世間の売薬に「陀羅助だらすけ」というにがい薬があります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
べての物が、皆黄色となる、反射光線の強いのは、ちょうど雪のようだ、そして黄色の野原の末に、紫に烟って見える遠山の色、悪くはおもわぬコントラストだ、そしてその黄色い海の内を
菜の花 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
たとえば三角形のべての角の和は二直角であるということを証明するにも、或特殊なる三角形の心像に由らねばならぬのである、思惟は心像を離れた独立の意識ではない、これに伴う一現象である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
ほとんど毎日遊びに来、社員のべてと馴染なじみになってしまったのであるが、井谷の娘とは特に仲が好くて「光ちゃん光ちゃん」と呼んでいた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
べては彼が想像した通りだった。いや、サディが彼に知らせた通りだと云った方がいいかも知れない。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
べてお米を料理する時にはよくその用い方を考えて時に応じたものを拵えなければなりません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一般から標準を立てないで職業と職業とを比較するならば、べての職業は皆同じで、其間に決して優劣はない。職業と云うことは、それを手段として生活の目的を得ると云うことである。
その光被するところ、べてを化石となす、こゝろみに我が手をぐるに、あきらけきこと寒水石をり成したる如し、我が立てる劒ヶ峰より一歩の下、窈然えうぜんとして内院の大窖たいかうあり、むかし火をきたるところ
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
「ジェントルマン」を「ジェンルマン」、「リットル」を「リルル」、べてそう云う発音の仕方で話の中へ英語を挟みます。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
聞いて猟天狗りょうてんぐ先生不審がり「なかなか面倒ですな。鴨なぞの食べ頃が雉山鳥よりも早いのはどういう訳でしょう」中川「べて木の実や穀類を食物とする動物は肉の腐り方が遅い方です。 ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
世の中の事はべて自分の思い通りに行くものではない。自分はナオミを、精神と肉体と、両方面から美しくしようとした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
べて鳥の身体からだは五つに載り別けるのが法です。大きい鳥でも小さい鳥でも法則の通り五つに別けて行けば極く楽に肉や骨がなれますけれども一つ法にはずれると肉が骨へついて始末になりません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
要するに、外に少しぐらい不満足なところがあっても、初婚の一事はそれらのべてを補って余りあるものであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、幸子は雪子を促して二階へ上り、八畳の間のふすまを締め切って、昨日お春に聞いたことのべてを告げた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お客のべてに一順それを当てがってしまい、次には蝦、次には比目魚と云う風に一種類ずつ片附けて行く。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夙川しゅくがわアパートを借りてやったり、奥畑との交際を黙認したり、何事か起る度に本家との間に這入はいってかばってやっていたことが、べてあだとなって報いられた形で
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こうして光の中に這入はいって見ると、今通って来た松原も、これから行こうとする街道も、私の周囲五六間ばかりの圏の内を除いては、べて真黒な闇の世界である。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
べての物は依然として閑寂に、空も水も遠い野山も、漂渺たる月の光にとろけ込んで、その青白い静かさと云ったら、活動写真のフイルムが中途で止まったようである。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ややともすれば二人の妹からあべこべにたしなめられると云う風なのであるが、そんな調子であるから、病気の看護に限らず、べて子供をしつけることにははなはだ不向きで
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
常にうぐいすを飼っていてふんぬかぜて使いまた糸瓜へちまの水を珍重ちんちょうし顔や手足がつるつるすべるようでなければ気持を悪がり地肌のれるのを最もんだべて絃楽器を弾く者は絃を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
恐らくそれらのべてのことが妻の心頭にいたのかも知れないと、貞之助は察した。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
此方の希望する条件がべて備わっていて、地位、身分、生活程度等も、馬鹿げて好過ぎたり悪過ぎたりすることもなく、ちょうど恰好かっこうのところで、———これを逃がしたらもう今度こそ
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
べてのことを知らされていたらしいのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)