つい)” の例文
むしり破られることは言う迄もない。大抵の場合、衣類をことごとく毮り取られてついに立って歩けなくなった方が負と判定されるようである。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
此両国の訴訟未だ決定に至らざるを以て、ついに争端を起すに至る、平和に事を鎮する乎、両国の人民といえども之をぼくとする事能はず。
黒田清隆の方針 (新字新仮名) / 服部之総(著)
四辺が暗くなるまで河畔かわばたのブトに食われながら坐っていて、ついに鮎釣りの男に注意された時、自分の薄志弱行を頓に感じさせられた。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「このこころつい蕭条しょうじょう」というくだりを繰り返し半蔵に読み聞かせるうちに、熱い涙がその男らしいほおを伝って止め度もなく流れ落ちた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かく日々に切なる渇仰かつごうの念は、ついに彼を駆って伯をしょうする詩を作ることを思い立たしめた。一気呵成、起句は先ず口をいて出た。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
私共はそこで、小一時間も見張していたが、ついにルグナンシェは姿を見せなかったので、五階の彼の部屋へいって見る事にした。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
ついがしてしまった、もっとも羚羊は跛足を引いていたから、たしかに銃丸たまが、足へ当ったろうとは後で言っていたが。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
堂々たる大きな門構でなければ、正月らしく感ぜぬ人たちは、こういう句のめでたさとはついに没交渉であるかも知れぬ。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
いまだ断つに及ばずして、王ついに逸し去る。燕王ほとんど死してさいわいに逃る。天助あるものゝ如し。王おおいに怒り、巨礟きょほうを以て城を撃たしむ 城壁破れんとす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
道徳は人生を経理するに必要だろうけれど、人生の真味を味わうたすけにはならぬ。芸術と道徳とはついに没交渉である。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ノッケから読者を旋風に巻込むような奇想天来に有繋さすがの翁も磁石に吸寄せられる鉄のように喰入って巻をく事が出来ず、とうとう徹宵してついに読終ってしまった。
露伴の出世咄 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
何となれば、山のささやくは自然の声であって、言葉はついに人の心に過ぎないからである。私は明らかにその声を聴く、しかしそれを表わす言葉の無いのを如何いかにしよう。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
バルザックと同じやうに生ける情熱の印刷機械であるところの君はたとひ天性世に稀な慌て者であるとは云へ(失礼!)ついにバルザックを語りきるといふ君の前人未踏の念願を
清太は百年語るべし (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
すそ曳摺ひきずりて奥様おくさまといへど、女はついに女なり当世たうせい臍繰へそくり要訣えうけついわく出るに酒入さけいつてもさけ、つく/\良人やど酒浸さけびたして愛想あいそうきる事もございますれど、其代そのかはりの一とくには月々つき/\遣払つかひはらひに
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
ところが彼は三十になってついに若い尼になやまされて、ふらふらになった。このふらふらの精神は礼教れいきょう上から言うと決してよくないものである。——だから女は真ににくむべきものだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
悠々たる哉天壌てんじょう遼々りょうりょうたるかな古今。五尺の小躯を以て此大をはからむとす。ホレーショの哲学ついに何等のオーソリチーをあたいするものぞ。万有の真相は唯一言にしてつくす。曰く「不可解」。
巌頭の感 (新字新仮名) / 藤村操(著)
こうして懐しい万葉ぶりの歌風は過ぎ去って、ついにおさまるべき処におさまる事になるのであろう。そうして、万葉調に追随して来た人々は、又更に新しい調子の跡を追おうとして居る。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
少なくとも古の茶道はついに悟るところはなかったものといわねばならぬ。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
我名を記すも老人の右の手を以て記す可からず、唯左の手を以て記すの一方なり、余の疑いは実に粉々に打砕かれたるに同じ、余は殆ど返す可き言葉を知ず、あゝ余はついに此詮索を廃す可きか
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
千代 今日は最勝寺さまの御会式ぢやさかいに、死んだ娘と、この子の父御ててご供養くやうしておぢやつた。さと母様かかさまきつう止めるゆゑ、つい遅うなつて、只今帰るところぢや。してお前は何処からぢやえ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
敵の一将を追うことはなはだ急なりしがついに及ばずして還る、信長勝三にいう、いわく、今の逃将は必ず神子田長門である、およそ追兵のはなはだ急なる時にあたっては、怯懦きょうだの士必ず反撃して死す
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
徐羨之じょせんし云々かつて行きて山中を経るに、黒竜長さ丈余を見る、頭角あり、前両足皆具わり、後足なく尾をきてあるく、後に文帝立ち羨之ついに凶を以て終る〉などあれど、東洋の例至って少ない。
ついに日本の形勢不得止して、国会を開くに至らば、能く注意し、国法を定め、而して仮令如何様の事あるも、国費を微収するには、国会の許諾を不得えざれば、不出来様の、不策に出る勿れ、若し其権を
これはたして人かかいついに分らぬ。武士さむらいと云ふのは私の父である。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
新居の縁先には梅の樹があったと見えて枕山は「当門寧著五株柳。沿砌聊存一樹梅。把古人詩差自慰。茅檐猶勝竟無家。」〔門ニ当リテ寧ロ五株ノ柳ヲカン/砌ニ沿ヒテ聊カ一樹ノ梅ヲ存ス/古人ノ詩ヲリテすこシク自ラ慰ム/茅檐猶ついニ家無キニまさル〕と言っている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また島原の乱にも、小西の遺臣を始め九州の浪人が多くこれに加わったので、ついに幕府をして大兵を動かさしめるようになった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
妻があれ程淫奔で、娼婦がくも貞淑だという事実は、卑屈なギラ・コシサンにもついに妻の暴虐に対する叛逆を思い立たせた。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかして曲折の点からいえば、元禄の句はついに大正にかぬような気がする。けだし長所のここに存せぬためであろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
実際数日来の註文だったし殊に食べないと譲歩しているから、奥さんもついを折って、懐中じるこを利用した。
閣下 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
又成政がドジを踏めば成政を自滅させて終うに足りるというので、ついに成政は其の馬鹿暴ばかあらい性格の欠陥により一揆の蜂起ほうきを致して大ドジを演じたから、立花
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それを以て如何いかにして太陽の光輝を想い得よう、日に照せば彼は一片の石塊となる、回顧はついに茫乎として去った夢をうに過ぎない……私はつくづくと年の経ったのを感じた。
文三も暫らくは鼻をもつぶしていたれ、ついには余りのけぶさに堪え兼て噎返むせかえる胸を押鎮おししずめかねた事も有ッたが、イヤイヤこれも自分が不甲斐ふがいないからだと、思い返してジット辛抱。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
八方からの非難攻撃に包囲されてついにアタラ九仭の功を一簣に欠くの失敗に終った。
私と閏土とはついにこんなにかけ隔てられてしまったのだ、だが私たちの後輩にしてもやはり同じようで、現に宏児はいま水生のことを思っているのだが私は再び彼らが私に似ないように、また
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
全能の手が秘蔵のパレットを空しゅうして塗った山だ、ついにこれ我物ならずと、つぶやいたことであろう、宗教家が来る、博物学者が来る、山の黙示、水の閃めき、人の祈るところ、星の垂るところ
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
詮議もついそれなりけりに済んで了ったとは、なんぼう哀れなる物語。
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ついに「権田さん貴方の云う事は余り甚いでは有りませんか、秀子が自分の妻に成らねば救うて遣る事は出来ぬなどと」権田「左様さ、或いは甚いかも知れませんけれど、是は他人から評す可きで貴方から評せらる可き事柄では有りません」余「何んで」権田
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ついに、長老が腹を立てて下僕を呼びつけた。夢の中で己をしいたげる憎むべき男を思いきり罰してやろうと決心したのである。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
即ち「撃非如鷹」と言われたほどであったから、ためについに禍を買って、その終を全うすることの出来なかったのは痛惜すべきことである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
と呟いてついに立ち止まった時、片岡君は電信柱と睨みっこをしていた。片岡君が右へ避けると電信柱が右へ寄った。左から抜けようとすると又左へ動いた。
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
の人となり知るきなり。敬の密疏は、宗藩そうはん裁抑さいよくして、禍根を除かんとなり。されども、帝は敬の疏を受けたまいしのみにて、報じたまわず、事ついみぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この十七字をじゅして、駘蕩たいとうたる春風をおもに感ぜぬ者は、ついに詩を解するの人ではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
あわれむべし文三はついに世にもおそろしい悪棍わるものと成り切ッた所へ、お勢は手に一部の女学雑誌を把持ち、たちながら読み読み坐舗ざしきへ這入て来て、チョイト昇に一礼したのみで嫣然にっこりともせず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この矛盾のためについに一生を破壊に終った人であった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
又、我々は死者の霊と、昨夜一晩戦い続け、ついに死霊共は負けて、暗い夜(そこが彼等の住居である)へと逃げて行かねばならなかったのだと。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ついに用件を拵えて茶の間へ入った。それは火鉢の側に坐ってお茶を飲むことだった。見つかっても申訳が立つ。客間とは襖一重だから、斎藤さんの声が洩れて来る。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しずまりもしないが、にくまれ口もきかず、かえッて憎気なく母親にまでだれかかるので、母親も初のうちは苦い顔を作ッていたものの、ついには、どうかこうか釣込まれて、叱る声を崩して笑ッてしまう。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おのれも危ぶみ、朝廷と燕とついに両立するあたわざらんとするの勢あり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自惚うぬぼれではないつもりだ。ポリネシア人の仮面——全く之は白人にはついに解けない太平洋の謎だが——が斯くも完全に脱棄てられたのを、私は見たことがない。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ついに緒方と東金は何方が余計いけないだろうかということになった。二人で組んで暴れたのである。地主の子供は幅が利く。成績の悪いのが皆僕達の子分についてくれた。
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)