立止たちどま)” の例文
とほりかゝるホーカイぶしの男女が二人、「まア御覧ごらんよ。お月様。」とつてしばら立止たちどまつたのち山谷堀さんやぼり岸辺きしべまがるがいな当付あてつけがましく
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
町の尽頭はずれまで来た時に、お杉は初めて立止たちどまった。尾行して来た人々もう散ってしまった。お杉は柳屋のかどに寄って、皴枯しわがれた声で
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かたむけて見返みかへるともなく見返みかへ途端とたんうつるは何物なにもの蓬頭亂面ほうとうらんめん青年せいねん車夫しやふなりおたか夜風よかぜにしみてかぶる/\とふるへて立止たちどまりつゝ此雪このゆきにては
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何処どこなにして歩いたものか、それともじっとところ立止たちどまっていたものか、道にしたらわずかに三四ちょうのところだが、そこを徘徊はいかいしていたものらしい。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
「あ、お父さん」ボーイ・スカウトの服装に身を固めた素六は、緊張のおもてかがやかせて、立止たちどまった。「いよいよ警戒管制が出ましたから、僕働いてきます!」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なにやらあたりが騒がしくなったので、ギョッとして立止たちどまると、上から飛ぶように降りて来た若い男が
その時刻にまだ起きていた例の「涙寿なみだすし」のまえまで来て、やっと一息ついて、立止たちどまったが、後方うしろを見ると、もう何者も見えないので、やれ安心と思ってようやくに帰宅をした
青銅鬼 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
私と妹とは立止たちどまって仕方なく波の来るのを待っていました。高い波が屏風びょうぶを立てつらねたように押寄せて来ました。私たち三人は丁度具合よくくだけない中に波の脊を越すことが出来ました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おと?。』とわたくしおもはず立止たちどまつてみゝすますと、かぜ一種いつしゆひゞきまつた無人島むじんたうおもひきや、何處いづくともなく、トン、トン、カン、カン、とあだかたにそこそこで、てつてつとが戞合かちあつてるやうなひゞき
うらなもらへ給はれとお專がすゝむるにぞ傳吉も彼方に立出或山路へかゝる所に一人の侍士さむらひひ能々見れば先年新吉原の三浦やにつとめし頃同家の空蝉うつせみもと毎度まいど通ひし細川の家來井戸源次郎にてあり傳吉是はとばかり立止たちどまるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ぢやアぼくは帰るよ。もう………。」とふばかりで長吉ちやうきち矢張やは立止たちどまつてゐる。そのそでをおいとは軽くつかまへてたちまこびるやうに寄添よりそ
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼はにわか立止たちどまって声するかたすかたが、生憎あやにくに暗いので正体は判らぬ。更に耳をすまして窺うと、声は一人ひとりでない、すくなくも二人ふたり以上の人が倒れてくるしんでいるらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
後ろからぼんのくぼを撫でるような声を掛けられて、頼門はハッと立止たちどまりました。
そのそばに児守こもりや子供や人が大勢立止たちどまっているので、何かとちかづいて見ると、坊主頭の老人が木魚もくぎょたたいて阿呆陀羅経あほだらきょうをやっているのであった。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
這奴こいつ、幸いの獲物、此方こっちが三人に鳥が三羽、丁度お誂え向だと喜んで、忍び足で其のそばへ寄ると、鴨は人を見て飛ばず驚かず、しずかに二足ばかり歩いて又立止たちどまる、この畜生めと又追縋ると
長吉ちやうきち病後びやうご夕風ゆふかぜおそれてます/\あゆみを早めたが、しか山谷堀さんやぼりから今戸橋いまどばしむかうに開ける隅田川すみだがは景色けしきを見ると、どうしてもしばら立止たちどまらずにはゐられなくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
市郎は一旦立止たちどまったが、のまま半途で引返ひっかえしては何にもならぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ちょいと、わたし聞いて見るわ。」と突然立止たちどまった。中島は話の腰を折られ、夢から覚めたような眼付めつきをして、お玉がむかいの家の格子戸をあける後姿うしろすがたをぼんやり眺めていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私たち二人は三田通みたどおりに沿う外囲そとがこいどぶふち立止たちどまって何処か這入はいりいい処を見付けようと思ったが、板塀には少しも破目やぶれめがなく溝はまた広くてなかなか飛越せそうにも思われない。