かえり)” の例文
ここへ来て夜の更けたことを知ったお銀様は、はじめて自分の無謀であったことと、大胆に過ぎたことをかえりみる心持になりました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのような指導は誰がしたか。一言でいうならば麻の一千年間の便利なる経験を、まるまるかえりみなかった先覚とやらの誤謬ではないか。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
朱子しゅしちゅうって論語を講釈するのを聞いたより外、なんの智識もないのだが、頭の好い人なので、これを読んだ後に内々ないない自らかえりみて見た。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
(四) 曾子そうし曰く、われ日に三たび吾が身をかえりみる、人のためにはかりて忠ならざるか、朋友と交わりて信あらざるか、習わざるを伝うるかと。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
我々は、此処で、日本に稀なる四人の文芸批評家の出現をかえりみなければならない。即ち、高山樗牛、森鴎外、坪内逍遥、島村抱月が之である。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
次郎は、そうした気分に接するごとに、二人がうらやましくも尊くも思え、同時に自分のいたらなさがかえりみられるのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
悄然しょうぜんと、木賃きちんへ帰ってから、ひとり薄いふとんの中で、これまでの修行と、現在の自分の力とを、反省し、また反復して、痛切にかえりみてみた。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それです。塩瀬の店のものもそう言います——何処か不安なところが有ると見える——こりゃ大にかえりみなけりゃ不可いかんぞ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よくかえりみますと沖縄の絣には、どうあっても美しくなるようなおきてが働いていることが気附かれます。それはことごとく「手結てゆい」と呼ぶ方法で織られます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すでに他人の忠勇ちゅうゆうみするときは、同時にみずからかえりみていささ不愉快ふゆかいを感ずるもまた人生の至情しじょうまぬかるべからざるところなれば、その心事を推察すいさつするに
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
親しき友にも八重との婚儀は改めて披露ひろうせず。祝儀しゅうぎの心配なぞかけまじとてなり。物堅き親戚一同へはわれら両人ふたりが身分をかえりみて無論披露は遠慮致しけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なお進んでトラスト組織そしきの下に製作せらるる物品ぶっぴんは買い手の相談などはごうかえりみらるるものではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
宗助はわざわざ呼び起されても起き得なかった自分の怠慢をかえりみて、全くきまりの悪い思をした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だからぼくの折角せっかくのこの幸運も、自らかえりみて、いささか暗い蔭のさしていることがいなめない。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
昔かの漢学者流は、西洋を観てと云い、ばんと云い、国字訳本ありといえどもすてかえりみず、すでにしかして漢訳諸本の航来するに至りてはじめて、その蛮夷にあらざるを知る。
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
もし君の住宅へ我々が突然に踏み込んだら、君もおそらく捨てては置くまい。左様な不法を働いて、君はたとい我をおそれずと誇るとも、かえりみて君のこころに恥じないであろうか。
ああ余は死の学理をしれり、また心霊上その価値をさとれり、しかれどもその深さ、痛さ、かなしさ、くるしさはその寒冷なる手が余の愛するものの身にきたり、余の連夜熱血をそそぎて捧げし祈祷をもかえりみず
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
涇川の次男にかたづいておりましたが、夫が道楽者で、いやしい女に惑わされて、私をかえりみてくれませんから、お父さんとお母さんに訴えますと、お父さんも、お母さんも、自分の小児こどもの肩を持って
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
だが、少しは自分たちのしたことをかえりみるがいいと私は言いたい。
そしてクリストフは、自分自身をかえりみながら考えた。
……園は自分自身が苦々しくかえりみられた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こちらで言わぬかぎりはかえりみられぬのが普通である故に、まずさがしものをする側から、これを知らずには居られぬ理由を説明しなければならぬ。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けれど、落度もかえりみて、胸を撫でていた。そしてその落度を償うて余りある重大な機密を、北ノ庄殿に会って、直接告げたいという希望をのべた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今何を為しつつあるのかを、もっとかえりみる人たちが出たら、救いは近き日にあることを想わざるを得ません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
だが、その難問に体当りをして行くには、科学が足りないことはかえりみずにはいられない。問うことを好まないこの女性が、ここで僅かにくちばしをきったのは
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かれは、事務室にはいっていって自分の机のまえにこしをおろすと、急に、立聞きをしたり、あわててげだしたりした自分のみじめさがかえりみられて、さびしかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかるに残念なことには書物にあることは前述のごとく抽象的ちゅうしょうてきであるから、未熟の頭脳あたまには入りにくい。たまたま入れば自分をかえりみるより他人を責むる道具となる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
氏のめにはかれば、たとい今日の文明流に従って維新後いしんごさいわいに身をまっとうすることを得たるも、みずからかえりみてわが立国りっこくめに至大至重しだいしちょうなる上流士人の気風きふうがいしたるの罪を引き
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分にかえりみても、はなはだ結構でないことだったけれど、今日こそは、その監獄に保存してある調書の中から、知りたいと思っていた彼の素姓を押しだすことが出来るのかと思えば
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかも彼は根のしまらない人間として、かく漂浪ひょうろう雛形ひながたを演じつつある自分の心をかえりみて、もしこの状態が長く続いたらどうしたらよかろうと、ひそかに自分の未来を案じわずらった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自らその蛮勇なしとかえりみたならばいたずらいた電車を待つよりも、泥亀どろがめの歩み遅々ちちたれども、自動車の通らない横町よこちょうあるいは市区改正の破壊をまぬかれた旧道をてくてくと歩くにくはない。
もうこうなっては前後をかえりみる暇もないので、長三郎は素直に答えた。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのたびに、ふたりは、自分たちの足の弱さや、日蔭と同じような後宮生活の不自然さを、自身の皮膚や心臓にかえりみて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
是は見掛みかけによらぬ重要な問題であって、記録にまったくかえりみられなかった常民の精神史が、この方面からも少しずつ、わかってくるような気がする。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
神尾は、いよいよ珍しくも、外へ向って発する鬱憤を、内に向ってかえりみる心持にさせられている。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
僕が新年を迎えるごとにもっとも強く心にかえりみることは、幼少時代の思想と今日と、どれほどへだったかというかどである。これをもっと具体的にいえば左のごとき問題が起こる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし、幼年時代からの闘争心とうそうしんが、今でも折にふれていたちのように顔をのぞかせる自分をかえりみると、今度の場合、それが全く起こり得ないことでもないような気がして胸苦しかった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そうした世に生きる人間どもは、必然、功利に溺れ、猜疑さいぎ深く、骨肉相食あいはみ、自己をかえりみず、利をれば身をほろぼし、貧に落つれば、人のみをのろう。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これをかえりみようとした人がなかっただけに、我々にとっては限りもなくなつかしいのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうしてかえりみることを知らぬ水々しい雌蝶と、老いたりというにはあらねど、生きたりというにはあまりにせた雄蝶とは、年甲斐もなく、浮かれ浮かれて、花尻の森、源太夫の屋敷あと
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
武家の扶持ふちを食う身が、戦乱の一語ぐらいで、寝耳に水の驚きをうけたのは、いささか不覚とかえりみたりしたことも、よけい彼を戸惑わせたものかもしれない。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから貞門ていもんの俳諧などはあれだけ多く残っているが、おかしいながらにやはり退屈で、今はかえりみる人も少ないのである。芭蕉はこれに対して、決して急激なる革新論者ではなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
思うに、彼らの学問は、机というものを知らず、ただ、生死の道の生命を手鑑てかがみとし、人間世態の現実をおしえかえりみ、天地自然を師となして体得されたものである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
食物の変遷などにも、かえりみられなかった大切な見落しがある。この方面では殊に色々の新しい材料が入ってくるとともに、多くの昔からの食物が全然我々の食卓の外に消えてしまった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
門跡という地位もあり、坊官や寺侍たちにもかしずかれる身となって、少僧都範宴しょうそうずはんえんの体は、おのずから以前のように自由なわけにはゆかなくなった。時にはかえりみて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じっと、そこに、思索をあつめているうちに、彼は、忽然こつねんと、それを自己の剣にかえりみて悟った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも他家へとついでしまっているし、かえりみれば、自分の身のまわりには、位階や財宝は老の身に重すぎるほどあったが、肉親の愛情とか、家庭的なあたたか味というものは
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時代に結ばれたる身のいのちを、今さらのごとく驚歎の眼でかえりみていたにちがいない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのために、青年は続々離郷する——また家を離れ骨肉もかえりみない。その多くが武者修行の道をとるのだ。武者修行をして歩けば今の社会では到るところで衣食に事を欠くことはない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名乗りかけたが、今の自分をかえりみて、人前に身を置いているに耐えなくなったか
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)