しゃく)” の例文
そして、私の肥ること考えると些かしゃくね、生活条件が深く作用しているのだから。それはもとより瘠っぽちのたちではないけれども。
「其の損得という奴が何時も人間を引廻すのがしゃくに障る。損得に引廻されぬ者のみであったなら世間はすらりと治まるであろうに。」
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私はこの、熊谷の言葉が又しゃくに触りました。「踊ってやんな」とは何と云う云い草だ。己を何だと思っているのだ? この青二才が!
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
斬る達者アリマス、勇武の国アリマス、ただ、芸事できない、芸事できない国野蛮アリマス——こうぬかしやがるのがしゃくなんでげして
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それだけでもしゃくさわってたまらないのに、彼奴め、自分の非をわすれて、先頃、お金蔵の金子が台帳と少々合わないのをたてに取って
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも、当時を風靡ふうびした官員さんの細君になったので、また縁がつながったものと見える。思うに私の母はちとしゃくだったに違いない。
私は何でもなしに言ったのだけれど、みさをは、私の言葉がしゃくにさわったのか、執拗しつようにだまりこくってたばこばかりふかしていました。
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
その時分までは何でもカンでも舶来はくれえ舶来はくれえってんで紅茶でも何でもメード・イン・毛唐けとうでねえと幅が利かねえのがしゃくだってんで……。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私もしゃくにさわりましたから、「君がそういう料簡りょうけんなら僕にも考えがある。僕は人道上、花嫁に事情を告げるだけだ」と申しました。
暴風雨の夜 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
たしかにひどくしゃくにさわる親切ぶかい態度をまじえるのを、私は不審と屈辱と、立腹との気持をもって認めざるをえないことがあった。
だがしゃくに障るのは相手の態度である、新泉小太郎はこっちを無視していた。乙にすましかえってまるっきりこっちを見ようともしない。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
う/\う次第で僕は長崎にられぬ、余りしゃくさわるからこのまゝ江戸に飛出とびだつもりだが、実は江戸に知る人はなし、方角が分らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そして、三上の一言に、まだその顔をほてらせながら、ギクギクしていた。そして今日の潮の長さを、しきりにしゃくにさわっていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
しかし私はその紫色がしゃくにもさわったので、見えもしない物の影を紫になど頼まれても描いてやるものかという気になってしまった。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
つねから、お前の悧巧りこうぶった馬面うまづらしゃくにさわっていたのだが、これほど、ふざけたやつとは知らなかった。程度があるぞ、馬鹿野郎。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もう小説は面白くなく、読む内にきて来て、就中なかんずく作中の人物が栄華をしたり、色々に活動するのを見ると、しゃくに障って来るのである。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
その当の相手が、何だかじぶんを疑って二の足を踏んでるようすだからしゃくにさわってたまらない。持前の気性でポンポンやり出す。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
トレープレフ おっ母さんはね、この小っぽけな舞台で喝采かっさいを浴びるのが、あのニーナさんで、自分じゃないのが、しゃくのたねなんですよ。
おお、私の太陽。私はだらしのない愛情のように太陽がしゃくに触った。けごろものようなものは、反対に、緊迫衣ストレート・ジャケットのように私を圧迫した。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「人が悪いな、この人は。それまで心得ていて、はぐらかすんだから。(大阪城でございます、)はちとしゃくだろうじゃないか。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「君は一体なんだね?」刑事はしゃくに触ったらしく、「大そう知ったか振りをするが、何か加害者の逃亡する所でもみたのかね?」
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
真田幸村の弔い合戦、それが主でもあったけれど、第一には徳川の天下が余りに横暴に過ぎるので、それがしゃくに触ってならぬのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
好きでもないのに好いてると思われるのはしゃくで、豹一は返答に困った。しかし、嫌いだというのはこわしだ。そう思ったので
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
財産といったところで、元々死んだ山本の親爺さんのもの、貴様が我が物顔に振舞っているのが、無体むていしゃくに触ってかなわねえのだ
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
程なく夫人のおしゃくからもみやわらげて、殿さまの御肝癖も療治し、果は自分の胸のつかえも押さげたという、なかなか小腕のきく男で。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
フォーゲル夫人はクリストフの行状にたいする自分の考えを、彼女に言わないではおかなかった。ルイザの平気なのがしゃくにさわっていた。
私は中学生のとき漢文の試験に「日本に多きは人なり。日本に少きもまた人なり」という文章の解釈をだされてしゃくにさわったことがあったが
しゃくにさわるから、御用ッと首筋へ武者振り付くと身をかわしてデンと来やがった。それで顔も見せねえんだから凄い腕前だ」
次郎がみんなのどぎもをぬくような血書を書いたということが第一しゃくだったうえに、自分もついそれに署名しなければならないはめになり
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しゃくに触って堪らぬ。ホイホイ背後うしろから追い追い立て、約二里ばかり進めば、八溝川の上流、過般の出水の為に橋が落ちている。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
だから皆さんが勝手なあて推量ずいりょうなぞをしているのが少しはしゃくにさわったけれども、滑稽こっけいに見えてしかたがなかったんですのよ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私もしゃくに障りましたから、お話をしかけて下さると危いですからって、もう相手になりません。すると、マッチを貸せと言うんです。葉巻を
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
中川がかくまで人に重んぜらるるを見て最前の若紳士たちましゃくに触りけん「オイ中川君」と何か挑むような口気こうきにて呼かけたり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
同時に小林の意味もよく突きとめておきたかった。それを見抜いて、わざと高をくくったように落ちついている小林の態度がまたしゃくさわった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この期待を裏切る坊さんがいると、それだけしゃくにさわるわけであるが、それは余り多くを坊さんに望むからのことであろう。
僧堂教育論 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
西光の人格や陰謀の動機をよく理解している俊寛には、彼らのそうした愚痴が、しゃくに触って仕方がない。彼の神経は、日に増しいらいらする。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二人は、何か早口でしゃべりながら、こっちへやってきた。わたくしはそれを見て、少々しゃくにさわった。そういう気持は、誰にでも判るであろう。
第四次元の男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
馬琴も相手の言いぐさがしゃくにさわりながら、妙にその相手が憎めなかった。その代りに彼自身の軽蔑を、表白してやりたいという欲望がある。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると池上は、人の事でもそういう無邪気で長閑のどかな話を聞くと何だかしゃくに触ると言って、その理由を苦渋そうに話しました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それを聴くと私はグッとしゃくさわった。そして長火鉢にしてあった鉄火箸てつひばしをぎゅうと握りしめて座り直りながら大きな声で
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「そんなことどうでもよござんすよ。それより、妾しゃくにさわるのは、りに選って妾の顔へ、あんな大きな穴をあけて……」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しゃくに触ったもんで一週間ほどってもの、食事をとらないで頑張ってやりましたよ。尤もそれは家だけで、外ではやっていましたけれど。(笑う)
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
この場で、一通りの説明だけをして貰いたかった私は、この言葉を聞いてしゃくにさわった。老人の住所を、聞いておこうかと思ったが、止めにした。
想い出 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「そんなことよりも、僕が一番しゃくに障ったのは」と来たので、また天神さまのお喋舌しゃべりかと言ってやりたかったが、さきは例の熱心な調子であった
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
杉田はむっとしたが、くだらんやつを相手にしてもと思って、他方わきを向いてしまった。実にしゃくにさわる、三十七のおれを冷やかす気が知れぬと思った。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
騎馬の兵士が大久保柏木かしわぎ小路こみちを隊をなしてせ廻るのは、はなは五月蠅うるさいものである。いな五月蠅いではないしゃくにさわる。
お杉はさもしゃくにさわると云うようにしてって往った。そこは土室どまに臨んで三畳の畳を敷き、音蔵が手内職の袋張ふくろはりの台を一方の隅へ置いてあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この句を聞かされた時私は馬鹿にされたような気持がして、その友人のお母さんの不真面目なのがしゃくにさわりました。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それを見ると若い連中は、尚さら、おだてたり、からかったり、脅迫したりした。私はしゃくにさわって仕様がなかった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
窓ぎわの娘はこの光景を見るとしゃくにさわって、背を向けた。高慢らしく、物問いたげにしていた妻の顔は、急になみなみならぬ愛想のよさを示した。