疱瘡ほうそう)” の例文
もしそれが真実だとすれば、牛の疱瘡ほうそうを人間にうつせば、もはやあのおそろしい疱瘡にかからないようにすることができるではないか。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
田舎いなかの祭だから、蒟蒻こんにゃくの色が珍しく黒いと附けたところが俳諧である。その祭を見に出てくる子どもが、どれもこれも疱瘡ほうそうの痕がある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
危ねえと言ったって、こうなれば、疱瘡ほうそう麻疹はしかも済んだようなものでございますから、生命いのちにかかわるような真似は致しません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
病気、ことに疱瘡ほうそうを家に近づけぬには、馬の字を三つ紙に書き、それを戸口にはりつけると、非常にききめがあるとされる。
……鳶尾根末かびねまつ亜鉛華あえんか麝香草じゃこうそう羊脂ようし魚膠ぎょこう雷丸油らいがんゆ疱瘡ほうそうで死んだ嬰児みずこ脳漿のうしょう、それを練り合わせた塗抹剤……お着けすることに致しましょう
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一八五二年すなわち十歳のとき学校へ入るために Eton に行ったが、疱瘡ほうそうに罹りまた百日咳に煩わされたりした。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
女は十六、七で、顔に薄い疱瘡ほうそうの痕をぱらぱらと残しているのをきずにして、色の小白い、容貌きりょうの悪くない娘であった。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あなた様があわれみて五十銭を恵み給いし小供は、悪性の疱瘡ほうそうにかかり、一週間前に世を去りぬ、今日こんにちはその一七日ひとなのかなれば線香なりと手向たむけやらんと
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
幼ないころから、顔もからだもまるまるとしていたが、疱瘡ほうそう麻疹はしかも軽く済んだそうだし、風邪で寝たこともないという。
彼は幼時、いのちにかかはるほどの疱瘡ほうそうをして、右の手の中指は小指ほどに短かつた。左の手の人差指も短かつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
さあ? 私にはよくわかりませんけど、実朝という人はなんでも少年時代に疱瘡ほうそうを患って、あばた将軍と云われたそうですが、先生の『右大臣実朝』を
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
お高は、赤児と乳のことを思って、それを専念にお願い申してから、疱瘡ほうそうの守護神となっている鷲大明神おおとりだいみょうじんを拝んだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
親の富五郎も鼻高々で楽しんでおりましたが、ふと、或る年悪性の疱瘡ほうそうかかってくなってしまいました。
承元じょうげん二年戊辰つちのえたつ。二月小。三日、癸卯みずのとう、晴、鶴岳宮つるがおかぐう御神楽みかぐら例の如し、将軍家御疱瘡ほうそうりて御出ぎょしゅつ無し、前大膳大夫さきのだいぜんのだいぶ広元朝臣ひろもとあそん御使として神拝す、又御台所みだいどころ御参宮。
鉄面皮 (新字新仮名) / 太宰治(著)
悪疫あくえき版図はんとは五十村に渡った。疱瘡ほうそうのように細かな腫物はれものが全身に吹き出ると、焼けるように身体が燃えて、始めは赤くなった。ついには黒くなって死ぬといった。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、長崎渡りの珍菓としてでられた軽焼があまねく世間に広がったは疱瘡ほうそう痲疹はしかの流行が原因していた。
玉子をいたようなあやめさんと、疱瘡ほうそう菊石あばたになったお百合さんとは同じ姉妹でも大変な違いようで、仰向きになっていれば、間違えるようなことはありません
兄弟同時にした疱瘡ほうそうが、兄は軽く、弟は重く、弟は大痘痕おおあばたになって、あまつさえ右の目がつぶれた。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
坂東者ばんどうものに多い特有な骨柄こつがらなのだ。それに、幼いときの疱瘡ほうそうのあとが、浅黒い地肌に妙な白ッぽさを沈めており、これも女子には好かれそうもない損の一つになっている。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父の顔にはかなり多く疱瘡ほうそうの跡があった。いわゆるジャモクエであった。しかしその顔立ちは尋常で、むしろ品のよい方であった。体格は小柄で、しかも痩せぎすであった。
私の父 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
在職中たまたま疱瘡ほうそうが流行して、死者続出の有様であったが、モーゼスは敢然として病者の介抱救護に当り、一身にして、牧師と、医者と、埋葬夫とを兼ぬる有様であった。
また、大和やまとの吉野の桜木明神社に、林中の樹木の幹枝ともに、疱瘡ほうそうを発せしがごとき小瘤しょうりゅうが見えている。ゆえに、古来、この木に信願すれば、疱瘡を免るるといい伝えている。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
疱瘡ほうそうわずらっているとき、あんまり許嫁いいなずけの息子とその母親が、顔を気にして見舞いに来るので、ある日、赤木綿の着物に、赤木綿の手拭で鉢まきをし熱にうかされたふりをして
その又左衛門は平生ふだん眼が悪くて勤めに不自由をするところからむすめのおいわに婿養子をして隠居したいと思っていると、そのお岩は疱瘡ほうそうかかって顔は皮がけて渋紙を張ったようになり
四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
驢馬ろばが頭を下げてると荷物があんまり重過ぎないかと驢馬追いにたずねましたし家の中であかぼうがあんまり泣いていると疱瘡ほうそうまじないを早くしないといけないとお母さんに教えました。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
涼しくば木の芽峠、音に聞こえた中の河内かわちか、(ひさしはずれに山見る眉)峰の茶店ちゃや茶汲女ちゃくみおんな赤前垂あかまえだれというのが事実なら、疱瘡ほうそうの神の建場たてばでも差支えん。湯の尾峠を越そうとも思います。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は其所そこ疱瘡ほうそうをした。大きくなって聞くと、種痘が元で、本疱瘡ほんほうそうを誘い出したのだとかいう話であった。彼は暗い櫺子のうちでころげ廻った。惣身そうしんの肉を所嫌わずむしって泣き叫んだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何うした、毎度来てえ/\と思っても忙しくてられねえで、われが顔を見てえと思って来たが、なにかお繼は達者か、なにか店へも出ねえが疱瘡ほうそうしたか、うだってえ話い聞いた、それわれがに柿を
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
疱瘡ほうそうが重くなられたままおなくなりになってしまわれました。
ちちをしぼる女が牛の疱瘡ほうそうにかかって、手にできものをつくることは、よく知っていましたけれど、牛の疱瘡にかかったものが
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
その十日ほどまえから鳥越とりごえのほうに、疱瘡ほうそうがはやると聞いたので、御蔵前おくらまえにある佐野正さのしょうの店へ仕事のために往き来するおせんはそのほうを心配していたし
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
可哀そうに、よっぽど重い疱瘡ほうそうに祟られたらしい。それでもまあ年頃だから、万次郎と出来合った……。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
紀州岩出いわで疱瘡ほうそう神社というのは、以前は大西という旧家の支配で、守り札などもそこから出しておりました。その大西家で板にした縁起には、こういう話が書いてありました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
強力ごうりきだったし、赤毛だし、疱瘡ほうそうのあとがおもてを埋めていたためでもあろうが、越後国上郷は
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌年又五歳になる平内が流行の疱瘡ほうそうで死んだ。これは安永四年三月二十八日の事である。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これ等不幸な人達は疱瘡ほうそうで盲目になったのであるが、国民のコンモンセンスが種痘の功徳を知り、そして即座にそれを採用したので、このいやな病気は永久に日本から消え去った。
なおこの女の語るところによれば、お嬢様のあんなお面になったのは、ただに疱瘡ほうそうのためばかりではない、それより前に大きな火傷やけどをしたのがああなったのだということでありました。
神職 町にも、村にも、この八里四方、目下もっか疱瘡ほうそうも、はしかもない、何のやまいだ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
養母は秋成が四つの歳に疱瘡ほうそうを病み、その時死ぬべきはずの命を歌島稲荷に祈つて、彼が六十八歳まで生き延びる時を期して自分の命を召します代りに、幼い命を救はれよと祈つたのであつた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
無残な姿になっているのは、少し足が悪い上、ひどい疱瘡ほうそうで見る影もないきりょうになった姉娘のお百合、二十四になるまで両親のそばにいて、芸事に精を出している、日蔭の花のような娘でした。
これは胎毒たいどくのためだとも云うし、あるいは疱瘡ほうそうの余波だとも解釈されて、小さい時分はだいぶ柳の虫や赤蛙の厄介になった事もあるそうだが、せっかく母親の丹精も、あるにその甲斐かいあらばこそ
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おまえさんは熱がある。多分風邪かぜだと思うが、いま世間では疱瘡ほうそうがはやっているから、気をつけねばいけないですよ」
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
かれはあから顔の小ぶとりにふとった男で、左の眉のはずれに疱瘡ほうそうの痕が二つばかり大きく残っているのが眼についた。彼は下谷したや稲荷町いなりちょうに住んでいる富蔵と名乗った。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
父に抱かれて寝たり、子守唄をうたってもらった覚えがあるし、麻疹はしかのときや疱瘡ほうそうのときはもちろん、風邪をひいたぐらいのときでも、父は側をはなれずに看病してくれた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
色の黒いところに疱瘡ほうそうあとがあって、かなつぼまなこ鼻大はなでかという不縹緻者ぶきりょうものであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みんなそりゃ熱のせいだ、熱だよ。姉さんも知ってるだろうが、熱じゃ色々な事を見るものさ。えやみの神だの疱瘡ほうそうの神だのと、よく言うじゃないか、みんなこれは病人がその熱の形を見るんだっさ。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
原来がんらい疱瘡ほうそうを治療する法は、久しく我国には行われずにいた。病が少しく重くなると、尋常の医家は手をつかねて傍看ぼうかんした。そこへ承応じょうおう二年に戴曼公たいまんこうが支那から渡って来て、不治の病をし始めた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は左の手の中で一本湯鑵の胴に触らないで痺れたままの感覚で取残されてゐる例の疱瘡ほうそうで短くなつてゐた人差指をも、公平にこの快味に浴させようと、他の四本の指を握り除け、片輪な指だけ
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
当座はなげきも悲しみもしましたが、私もまだ老い朽ちた年でもなく、二番目娘のお七の成長を見ているうちに、お染のことを忘れるともなく年が経ちましたが、七年前、お七が疱瘡ほうそうで死んでからは
もっとも主人はこの功徳を施こすために顔一面に疱瘡ほうそうえ付けたのではない。これでも実は種え疱瘡をしたのである。不幸にして腕に種えたと思ったのが、いつのにか顔へ伝染していたのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)