現世このよ)” の例文
もうしまして、わたくしいまいきなりんでからの物語ものがたりはじめたのでは、なにやらあまり唐突とうとつ……現世このよ来世あのよとの連絡つながりすこしもわからないので
心の清き者はさいわいなり、何故なればと云えば其人は神を見ることを得べければなりとある、何処でかと云うに、勿論現世このよではない
銀の伸板のべをびいどろの棒で叩くような、それは現世このよのものとも思えない女の咽喉のど。拳の連中は気がつかないが、藤吉はぐいと一つ顎をしゃくって
夜が明けかけても、二人の男女は少しも悪い容体にならずに、現世このよながらえている。Aは到頭我慢が出来なくなって、もう一度薬を飲むことにした。
夫人ふじん屹度きつと無事ぶじであらうとはれたにかゝはらず、日出雄少年ひでをせうねんも、わたくしも、最早もはや貴女あなたとは、現世このよでおかゝこと出來できまいとばかり斷念だんねんしてりましたに。
現世このよの人とも思はれぬが、薄き蒲団に包まれて、壁に向ひ臥したる後姿のみは、ありありとして少女おとめの胸を打ちぬ。
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
現世このよではしやうがないなア。……強いといふことは、尊いといふこと、正しいといふことより、一枚上手ぢや。」
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
こんなに沢山言語を知つてゐては、現世このよでは滅多に使ふ機会をりもなからう、いつそ地獄へでもちたら定めし晴々するに相違なからうと思はれる程だつた。
わし戀人こひびとよりもうつくしい! なにもかも見通みとほしの太陽たいやうでも、現世このよはじまって以來このかたまたとは彼女程あれほどをなごをばなんだのぢゃ。
両親に別れたんですから現世このよ味気あじきなくぞんじ、また両親やあにあねの冥福をとむらわんために因果塚を建立こんりゅうしたいから、仏門に入れてくれと晋齋にせまります。
現世このよにて默想のうちにかの平安を味へる者の生くる愛を見しとき、我またかゝる人に似たりき 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この我がおしえおぼえて決してそむくことなかれとねんごろにいましめ諭して現世このよりければ、兄弟共に父の遺訓にしたがひて互ひに助けあひつつ安楽に日をくらしけり。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それは併し磔刑はりつけにして、現世このよに有るべき理が無いのに、その時の若衆そっくりのが、他の土民等と道端に土下座しながら、面を上げてこちらを見詰めていた。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「そうだ、倉に満ちた金銀財宝に心が無くなれば、現世このよに用はなかろう、望み通りの世へやってやろうが、来世には何になりたい、望みがあれば叶えてやる」
長者 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もう一度丑松は自分が穢多であるといふことを忘れて見たいと思つた。もう一度丑松は彼の少年の昔と同じやうに、自由に、現世このよ歓楽たのしみの香を嗅いで見たいと思つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
左様さよう、全く罪なことでござるよ、あんなのはいっそ助けない方がようござるな、添うに添われず、生きるに生きられず、現世このよかなわぬ恋を未来で遂げようというのじゃ
と云うのは何んでも夜になると、その鳰鳥は一瞬間ほんのひととき現世このよから黄泉あのよへ行くそうじゃ。言い換えるとつまり死ぬのじゃな。そうして一旦いったん死んで置いて、それから間もなく生き返るそうじゃ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
然れども、時に之等に伍して、紅絹裏もみうらなどのついたる晴やかの女着の衣裳の懸けらるゝ事なきにあらず。あたか現世このよの人の路を踏み誤つて陰府に迷ひ入れるが如し。かゝる時の亡霊共の迷惑思ひやらる。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ああ、これが現世このよ見納みおさめかなあ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竜神りゅうじんというのはくちえばもと活神いきがみ、つまり人間にんげん現世このよあらわれるまえから、こちらの世界せかいはたらいている神々かみがみじゃ。
饑渇うえかわく如く義を慕う者はさいわいなり、其故如何? 其人の饑渇は充分に癒さるべければ也とのことである、而して是れ現世このよに於て在るべきことでない事は明である
うして現世このよに生きながらへるといふことすら、既にもう不思議な運命の力としか思はれなかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
現世このよ存在得ありうべからざる海魔かいまとか船幽靈ふなゆうれいとかよりは百倍ひやくばい千倍せんばい恐怖おそるべきあるもの仕業しわざで、なに企圖くわだつるところがあつて、弦月丸げんげつまる彼處かしこ海上かいじやう誘引おびせやうとしたのではあるまいか
其時そのときの八にんうちで、活東くわつとう天仙てんせん古閑こかんの三は、いま現世このよひとであらぬ。
未だ生きていたい現世このよに心をのこして去ったのだった。
現世このよに何の希望も無かつた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
而して「すべての人」と云えば過去の人をも含むのであって、彼等も亦何時か神の救を見ることを得べしと云う、而して是れ現世このよに於て在るべき事でないことは明瞭あきらかである
もう二度と現世このよで見ることは出来ないかのやうな、悲壮な心地に成つて、橋の上から遠くながめると、西の空すこし南寄りに一帯の冬雲が浮んで、丁度可懐なつかしい故郷の丘を望むやうに思はせる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さながら現世このよにて地獄の声を聴くに異らず。
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)