玉蜀黍とうもろこし)” の例文
いそいそとした気分で働いていると、玉蜀黍とうもろこし畑の蔭の近路を突ッきって、茶色と緑の縞の日傘がこっちに向って来るのが目に入った。
鏡の中の月 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
玉蜀黍とうもろこしの毛をつかねて結ったようなる島田を大童おおわらわに振り乱し、ごろりと横にしたる十七八の娘、色白の下豊しもぶくれといえばかあいげなれど
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
かた肥りの、猪肉ししむらで、野葡萄のような瞳をもち、頬はてかてか赤く、髪はいつも、玉蜀黍とうもろこしの毛みたいに、結び放しときまっていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畑にはもう刈残された玉蜀黍とうもろこしきびに、ざわざわした秋風が渡って、さえずりかわしてゆく渡鳥の群が、晴きった空を遠く飛んで行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
水平的な畑にある玉蜀黍とうもろこしや、小麦や、稲の農作物が、あらゆる方角に見える。それ等すべての新奇さと美しさとは、言語に絶している。
どこの家でも績殻おがらで杉の葉をんで、仏壇を飾って、代々の位牌いはいを掃除して、萩の餅やら団子やら新里芋やら玉蜀黍とうもろこしやら梨やらを供えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
斗満で食った土のものゝ内、甘藍、枝豆えだまめ玉蜀黍とうもろこし、馬鈴薯、南瓜とうなす蕎麦そば大根だいこきびもち、何れも中々味が好い。唯真桑瓜まくわうりは甘味が足らぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
祖母の云うのはみんな北海道開拓当時かいたくとうじのことらしくてくまだのアイヌだの南瓜かぼちゃめし玉蜀黍とうもろこし団子だんごやいまとはよほどちがうだろうと思われた。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「人間が紙のようにうすっぺらになっちゃ、玉蜀黍とうもろこし林檎りんご胡桃くるみなんかのように、平面でなくて立体のものは、たべられなくなっちゃうよ」
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
第十七 ハムネーのマッシ これは玉蜀黍とうもろこしを砕いたものです。少しブツブツする気味はありますけれども味は良うございます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
淋しく枯れ渡った一叢ひとむらの黄金色の玉蜀黍とうもろこし、細いつる——その蔓はもう霜枯れていた——から奇蹟のように育ち上がった大きな真赤なパムプキン。
フランセスの顔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
八幡やわたの町の梨畠に梨は取り尽され、葡萄棚ぶどうだなからは明るく日がさすようになった。玉蜀黍とうもろこしの茎は倒れて見通す稲田の眺望は軟かに黄ばんで来た。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さらに先へ進むと、玉蜀黍とうもろこしの大きなはたけには、黄金色の実が葉のような包みからそとをのぞいていて、菓子やプディングがたくさんできそうだ。
あぜ玉蜀黍とうもろこしの一列で小さく仕切られている畑地畑地からは甘い糖性のにおいがして、前菜の卓のように蔬菜そさいを盛りあつめている。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これは玉蜀黍とうもろこしを乾す小屋で、どうやらお伽噺に出てくる鶏足の百姓小舎に似ている。戸口には小さな梯子がかかっている。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こいつは簡単な方法で煙草でも玉蜀黍とうもろこしでも大成功、金盞花きんせんかという花では、この薬を使って直径が普通の倍もある見事な花を咲かせたそうです——
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
かつてはインデディデマ及び多くの村は、井戸から水を得、その所有地の近くに玉蜀黍とうもろこしを播いて多くの収穫を得ていた。
武蔵野むさしのではまだ百舌鳥もずがなき、ひよどりがなき、畑の玉蜀黍とうもろこしの穂が出て、薄紫の豆の花が葉のかげにほのめいているが、ここはもうさながらの冬のけしきで
日光小品 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
近寄って見ると、まるで玉蜀黍とうもろこしくきのようにやせた百五六十歳の老人が、日射病にやられて苦しんでいるのですヨ。
窓を区切ってゆく、玉蜀黍とうもろこしの葉は、骨のようにすがれてしまっていた。人生はすべて秋風万里、信じられないものばかりが濁流のように氾濫はんらんしている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「家畜に食わす玉蜀黍とうもろこしの粉をくれたのだ」と言う人もあるが、終戦の年は世界的に食糧不作の年であって、「全旧敵国」の飢饉を救うには、米英両国で
科学は役に立つか (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
小便するのに裏口あけて一足でると、頭の上で玉蜀黍とうもろこしがガサ/\と鳴り、畑は一面虫の声で、どこまで続いてゐるやら分らず、遠方に黒い森影が見える。
盗まれた手紙の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
傘が触って入口ののきに竿を横たえて懸けつるしてあった玉蜀黍とうもろこし一把いちわをバタリと落した途端に、土間の隅のうすのあたりにかがんでいたらしい白い庭鳥にわとりが二
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
非道ひどい奴になると玉蜀黍とうもろこしの喰い殻に油をしたした奴を、柳行李一パイ百円ぐらいで掴まされた事があるそうです。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
次に玉蜀黍とうもろこし、馬鈴薯、南瓜かぼちゃを作り、小豆あずき、白黒二種の大豆、大麦、小麦と土地の成長にれて作物の種類を増して行った。併し、そうなるまでが大変だった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
玉蜀黍とうもろこしの類を常食とし、とちの実を貯えるという風で、熊、猿、零羊かもしかを獲って里へ売りに出て、米を買って帰るくらいが里との交通のおもなものであったという。
「ケット」と「マット」 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
喰べながらヴェランダの下を見るともなく見ていると、直ぐ下の畑の玉蜀黍とうもろこしが二三本、いやに揺れている。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
真夜中をすぎた頃おいらしく、静謐しずけさのさなかで生きもののような月の息づかいが手にとるように聞え、大豆や玉蜀黍とうもろこしの葉っぱが、ひときわ青く透かされた。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
玉蜀黍とうもろこしの毛のような赤毛のしょぼしょぼと生えた頭の、まったく見ばえのしない子だったが、「繁ちゃんのあんちゃん」と云って、一日じゅう彼に付きまとった。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
立ち尽すと私は初めて荒漠こうばくなあたりの光景に驚かされた、かすかな深夜の風が玉蜀黍とうもろこしの枯葉にそよいで、轡虫くつわむしの声が絶え絶えに、行く秋のあわれをこめて聞えて来る。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
中には玉蜀黍とうもろこしを焼いて出すもあり、握飯の菜には昆布こぶふなの煮付を突出つきだしに載せて売りました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だから、私も彼には燕麦えんばくでも玉蜀黍とうもろこしでもちっとも惜しまず、たらふく食わせてやる。からだにはうんとブラシをかけ、毛の色に桜んぼのような光沢つやが出るくらいにしてやる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
いくらあればかりの小家でも、よくまあ建っていたなと思うほどの小さな地面で、片隅には二、三本の玉蜀黍とうもろこしが秋風にそよぎ、残りも畠となって一面の南瓜かぼちゃの花盛りである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
商売はラサ府では非常に盛んにやって居りますので大抵その品物は羅紗らしゃ、木綿類、絹類、珊瑚珠さんごじゅ、宝石類、西洋小間物、米、豆、玉蜀黍とうもろこしといったような物を多くあきなって居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
城跡には昔を語る何物もなく、土塁の外は大方耕されて、大豆や玉蜀黍とうもろこしが実っていた。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
玉蜀黍とうもろこしや西瓜や枝豆のからが散らかっているなかを野良犬がうろうろさまよっていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蕎麥そば玉蜀黍とうもろこしを人間が常用食にして呉れると、一國の經濟が非常に助かるといふ説も出で、これには贊成もあり、反對もあつたが、蕎麥は知らぬが、玉蜀黍の方は今は亞米利加あめりかの常食だ。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
あれは玉蜀黍とうもろこしが干してあるんだよと、橋本が説明してくれたので、ようやくそうかと想像し得たくらい、玉蜀黍を離れて余の頭に映った。朝鮮では同じく屋根の上に唐辛子とうがらしを干していた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窓の下には薪が積んであったり、玉蜀黍とうもろこしが植えられてあったりしていて、その少し向うに二三本の赭松あかまつが見え、それから何処へ往くのだか一本の道が傾きながら裏山へ消えているきりだった。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
唐臼からうすを踏むような大跛足で、渋紙色の顔には、左の頬からびんへかけて、大火傷やけどあとがある上、髪は玉蜀黍とうもろこしの毛のような女——、年こそ三十前後ですが、これはまたあまりに痛々しい容貌です。
五人の男女炉を囲みて余念なく玉蜀黍とうもろこしの実をもぎいしが夫婦と思しき二人互にささやきあいたる後こなたに向いて旅の人はいり給え一夜のお宿はかし申すべけれども参らすべきものとてはなしという。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
玉蜀黍とうもろこしの粉でつくったように黄色がかって来ました。
玉蜀黍とうもろこし 三斗
甲州玉蜀黍とうもろこしをもぎ、たり焼いたりして食う。世の中に斯様こんなうまいものがあるかと思う。田園生活も此では中々やめられぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
コルンスタッチ即ち玉蜀黍とうもろこしの粉を小匙二杯水で溶いてそれへ加えて鍋をお湯の中へ入れてドロドロになるまで湯煎ゆせんにします。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
伸一の空襲休暇中の学習予定の下手なプリントや、健吉が忘れて行ってしまった玉蜀黍とうもろこしの噛りかけなどがころがっている。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
馬はここちよい場所で深く眠りこんで、玉蜀黍とうもろこし燕麦えんばくのみのっている山々や、おおかわがえりやクローバの生えた谷間を夢に見ていたのである。
晴れ間には日がかっと照って、ねずみ色の雲の絶え間からみどりの空が見える。畑には里芋の葉が大きくなり、玉蜀黍とうもろこしの広葉がガサガサと風になびいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
みんなは本部ほんぶへ行ったり、停車場ていしゃばまでさけみに行ったりして、室にはただ四人だけでした。(一月十日、玉蜀黍とうもろこし脱穀だっこく
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
傍にお庄兄弟が、消し炭の火を吹きながら玉蜀黍とうもろこしあぶっていた。六つになる弟と四つになる妹とが、附け焼きにした玉蜀黍をうまそうにかじっている。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)