燐寸マツチ)” の例文
てた燐寸マツチえさしが道端みちばた枯草かれくさけて愚弄ぐろうするやうながべろ/\とひろがつても、見向みむかうともせぬほどかれものうげである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
で、たもとから卷莨まきたばこつて、燐寸マツチつた。くちさき𤏋ぱつえた勢付いきほひづいて、わざけむりふかつて、石炭せきたんくさいのをさらつて吹出ふきだす。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは生来うまれつきの低脳者で、七歳ななつになる時に燐寸マツチもてあそんで、自分のうちに火をつけて、ドン/\燃え出すのを手を打つて喜んでゐたといふ児ですが
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
金花の話が終つた時、彼は思ひ出したやうに燐寸マツチを擦つて、匂の高い葉巻をふかし出した。さうしてわざと熱心さうに、こんな窮した質問をした。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さうして、椴松とどまつ蝦夷松えぞまつの樣なものは用材として、また燐寸マツチ原料として伐切ばつさいされる上に、また製紙原料になつてをる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
つてたね」と云つて烟管パイプくちから取つて、さい丸卓まるテーブルうへに置いた。燐寸マツチと灰皿がつてゐる。椅子もある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして幾度か燐寸マツチを擦り消しながら、やつと煙草に火をけると、歩調をとるやうにして狹い甲板を往き來した。私はそのまま詞を途切つて海を眺めてゐた。
修道院の秋 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
巴里パリイに着いて以来煙草たばこを吸はなく成つた僕は燐寸マツチを擦る役をしてムネ・シユリイや女達にけて遣つて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
かう云つて男は敷島を一本たもとから出して口にくはへた。そして手を両方のたもとへ入れて燐寸マツチを捜して居る。
御門主 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
がらくたの載つてゐる三畳の棚を、手探りでガタゴトさせながら、お文は声高に独り言のやうなことを言つてゐたが、やがてパツと燐寸マツチを擦つて、手燭に灯を点けた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
と言つて、すばしこく香盤の側へ飛んで行つたかと思ふと、にこにこもので燐寸マツチを弄くりながら歸つて來た。默つて一本を磨ると、黄いろい光明がぱあつとあたりに射した。
西大寺の伎芸天女 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
だから、こんな莫迦げた妄想まうさうを起す奴を相手に興奮してはつまらぬと、煙草を吸ひかけたが、手がふるへた。寿枝はおろおろして燐寸マツチをつけた。その瞬間、二人ははつと顔をそむけた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
ちやうど彼がつけた燐寸マツチの火に、頭をかがめて、吸いつけるのであつた。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
七五 離森はなれもりの長者屋敷にはこの数年前まで燐寸マツチの軸木の工場ありたり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
ただ一本の燐寸マツチのやうに瘠せほそつて
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
かれ自分じぶん燐寸マツチさがしにせま戸口とぐち與吉よきちをやらうとした。與吉よきちあまえていなんだ。かれはどうしてもだる身體からだはこばねばならなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
窓の下に方一尺五寸に切りたるあり、一日に一度位は豆大とうだいの火種もなくなりて、煙草を吸ひつけるに燐寸マツチを擦る事はあれど、大方は昼も夜も
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
面疱にきびだらけの女中ねえさんが燐寸マツチつてけて、さしぼやをさすと、フツとしたばかり、まだのついたまゝのもえさしを、ポンとはすつかひにげた——
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
みちを問はうにも燐寸マツチ自来火スレフオオと呼ぶことを知つた以外に支那語を心得た者は無かつた。やつと英語のわかる巡査に出会つた頃は二十ちやうばかりも違つた方何へき過ぎて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
うです」と云ひながら、燐寸マツチつて、先刻さつき烟草パイプに火をけて、再びくちに啣へた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
燐寸マツチの棒のやうな手足やを
愛の詩集:03 愛の詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
はるかくら土手どてすかしててぶつ/\いひながらかれさら豚小屋ぶたごやちかづいて燐寸マツチをさつとつてて「油斷ゆだんなんねえ」とつぶやいてまたぢた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
と言ふ許可ゆるしが出て、奧樣から燐寸マツチを渡された時、お定は甚麽どんなに嬉しかつたか知れぬ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
とあるひくい石垣の上に腰を掛けた九は大きな煙管パイプくはへてこゝろよさう燐寸マツチを擦つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
彼はけて時々とき/″\蚊帳かやそといてある洋燈ランプを眺めた。夜中よなか燐寸マツチつて烟草たばこかした。寐返りを何遍も打つた。固より苦しい程暑い晩ではなかつた。雨が又ざあ/\とつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
罐詰くわんづめどころか、蝋燭らふそくも、燐寸マツチもない。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
胡坐の男は、砂の上に投げ出してある紙莨を一本とつて、チョと燐寸マツチを擦つたが、見えざる風の舌がペロリと舐めて、直ぐえた。復擦つたが復滅えた。三度目には十本許り一緒にして擦る。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
胡坐の男は、砂の上に投げ出してある紙莨タバコを一本とツて、チヨと燐寸マツチを擦つたが、見えざる風の舌がペロリと舐めて、直ぐえた。復擦つたが復滅えた。三度目には十本許り一緒にして擦る。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お定が默つてゐたので、丑之助は自分で手探りに燐寸マツチを擦つて手ランプに移すと、其處に脱捨てゝある襯衣かくしの衣嚢から財布を出して、一圓紙幣を一枚女の枕の下に入れた。女は手ランプを消して
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お定が黙つてゐたので、丑之助は自分で手探りに燐寸マツチを擦つて手ランプに移すと、其処に脱捨てゝある襯衣シヤツ衣嚢かくしから財布を出して、一円紙幣を一枚女の枕の下に入れた。女は手ランプを消して
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)