みだり)” の例文
武士たるもの二〇みだりにあつかふべからず。かならずたくはをさむべきなり。なんぢいやしき身の分限ぶげんに過ぎたるたからを得たるは二一嗚呼をこわざなり。
人の己れをそしる可きを弁えず、我家人の禍となる可き事を知らず、みだり無辜むこの人を恨み怒り云々して其結果却て自身の不利たるを知らず
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
此の意を持して国民性を説く、(此の点につきてはみだりに作家のみ責むべき理由なしとするも)意やし、言の不妥なるを如何いかん
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
この覩易みやすき理由はあるにも関らず無教育の青年男女が一時の劣情に駆られて、みだり合卺ごうきんの式を挙ぐるは悖徳没倫はいとくぼつりんのはなはだしき所為である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
外国の事情じじょうに通ぜざる日本人はこれを見て、本国政府の意向いこう云々うんぬんならんとみだり推測すいそくして恐怖きょうふいだきたるものありしかども
先生歿後において吾々がみだりに取捨をなすごときはもってのほかであると信じ、またこれが万々先生に背くのでないと固く信じているのである。
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
みだりに自己の心を以て他人を忖度し揣摩臆測を以て無用の文字を重ね、恰かも群盲の鼎を評するが如き観あるは、実に今の批評家の通弊に非ずや。
美的生活論とニイチエ (新字旧仮名) / 登張竹風(著)
されどるにも位列ゐれつをなしてみだりならず。求食あさる時はみなあさり、あそぶ時はみなあそぶ。雁中がんちゆうに一雁ありて所為なすところみなこれにしたがふ、大将たいしやう士卒しそつとのごとし。
彼れ人に対して真率しんそつみだりに辺幅を飾らず、しかれども広人稠坐ちゅうざうちおのずから一種の正気、人を圧するものありしという。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
みだりに「文学は文学なり、宗教は宗教なり」とふことなかれ、宗教文学豈に劃して二となすべきものならんや、文学の中に宗教あり、宗教の中に文学あり。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
人の親の、其児そのこに教ふるに愛を以てせずしてみだりに恭謙、貞淑、温柔をのみこれこととするは何ぞや。既にいふ、愛は「無我」なりと。我なきものたれか人倫を乱らむや。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
枕山は年いまだ四十に至らざるにはやくも時人と相容あいいれざるに至ったことを悲しみ、それと共に後進の青年らがみだりに時事を論ずるを聞いてその軽佻けいちょう浮薄なるをののしったのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
芦峅寺あしくらじにては、劍山の道案内を知れる者有之候えども秘伝として、みだりに人に伝えず、極めて高価の案内料をむさぼりて、まれに道案内をなせしことあるのみなりしが、今回の事にて
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
従ってこの新訳は、みだりに古語を近代化して、一般の読者に近づきやすくする通俗の書といわんよりも、むしろ現代の詩人が、古の調ちょうを今の節奏リトムに移し合せて、歌い出た新曲である。
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
これは五百いおが抽斎に聞き、保さんが五百に聞いた所を、頃日このごろ保さんがわたくしのために筆にのぼせたのである。わたくしは今みだりに潤削を施すことなしに、これをここに収めようと思う。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ここにおいて議するものあり曰く国家の俸禄をむ史家は誤謬の索捜を勉めて国史の美観を損ずと。曰く国庫の資を以て蒐集したる断簡零墨を憑拠としてみだりに賢相名臣の跡を抹殺すと。
史論の流行 (新字旧仮名) / 津田左右吉(著)
そんな物があるやうに言つたのは、軽卒な旅人りよじんみだりに空想をもてあそんで、無中に有を生じたのだらう。丁度ゴムで拵へた枕をふくらますやうに、僕は今この鱷をふくらます事が出来るのだ。
彼等はみだりげんを為して曰く、「福音の説かるゝところ必らず救あり」と、而して彼等は福音を説かずして、其字句を説く、自ら基督を負ふと称して、基督の背後に隠るゝ悪魔を負ふ、とつ
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
決して他日みだり反噬はんぜいするような事もなく、庄司署長は有終の美をなしたのであろうが、こゝに少しく用意を欠いた為に、後日非常な面倒を惹起じゃっきし、極一部からではあるが、署長が立身の踏台として
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「嚢中すでに自ら有り、みだりうをうれうるなかれかね」
酒友 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しこうして其家を興すは即ち婦人の智徳にして争う可らざるの事実なるに、みだりに之を評して無智と言う、漫評果して漫にして取るに足らざるなり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
みだりに此の境域を明らめずして国民性全分の影を描けと要求するの果して当を得たりといふを得べきか。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
幕府が令を発して世人のみだりに海防の論議をなし人心を騒すことを禁じたのはあたかもこの年の五月である。毅堂は『聖武記採要』を刊行したために町奉行所の詮議せんぎするところとなった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
海賊なりとて、みだりわらうなかれ。およそ波濤はとうの健児たるもの、何者か海賊たらざりしものある。およそ万里の大海を開拓するもの、通商植民の先駆たるもの、何者か海賊たらざりしものある。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
校長は町と会社との関係を説いて、みだりに平地に風波を起すのは得策でないと説諭した。道也の最後に望をしょくしていた生徒すらも、父兄の意見を聞いて、身のほどを知らぬ馬鹿教師と云い出した。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人々の所見しょけんおのずからことにしてみだりに他より断定だんていするを得ず。
みだりに訪問するなどは警戒すべきであろう。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
小生の本心はみだりに他を攻撃して楽しむものにあらず、ただ多年来たねんらいこころ釈然しゃくぜんたらざるものをしるして輿論よろんただし、天下後世のめにせんとするまでの事なれば
みだりに方今の国民的特質を描けと言ふ、其の結果は小細工を以て糊塗せる過去の理想若しくは浅薄なる現時の俗人的理想を描写せしむるにとゞまるの悔なきを得るか。
国民性と文学 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
その功は讃ずべし、その開国家たるの眼識は、みだりに彼に許すあたわず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
今春流行感冒に罹り臥床に在る事六十余日読書暁に及ぶ事しばしばなり。やがて病癒え再び坐して机に向うに燈火にわかに暗きを覚ゆ。医に問うに病中みだりに書に親しむ時は往々此の事ありすみやかに老眼鏡を用うべし。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そもそも論者の憂うるところを概言すれば、今の子弟はかみを敬せずして不遜なり、みだりに政治を談じて軽躁なりというにすぎず。論者の言、はなはだなり。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
みだりに嫉妬なる文字を濫用して巧に之を説き、又しても例の婦人の嫉妬など唱えて以て世間を瞞着まんちゃくせんとするも、人生の権利は到底無視す可らざるものなり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今の少年は不遜ふそんなり軽躁けいそうなり、みだりに政治を談じて身の程を知らざる者なりとて、これをとがむる者あれども、かりにその所言にしたがいてこれを酔狂人とするも
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
固より罪ある者をみだりに赦すは社會の不幸にして、我帝室に於ても漫に行はせらる可き事に非ず。
帝室論 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
青年の学生にしてみだりに政治を談じ、または政談の新聞紙等を読みて世間に喋々ちょうちょうするは、我が輩も好まざるところにして、これをとどむるはすなわち静者をして静ならしめ
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今試みに社会の表面に立つ長者にして子弟をいましめ、汝は不遜なり、なにゆえに長者につかえざるや、なにゆえに尊きを尊ばざるや、近時の新説を説きてみだりに政治を談ずるが如きは
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
学者が政権によりて学問を人にいんとし、事務家が学問の味を知らずしてみだりにこれを支配せんとするは、軍人が海陸軍の庶務をかねて、庶務の吏人が戦陣の事を差図せんとするに異ならず。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
門閥のゆえもっみだりに威張るは男子のずべき事である、見苦しきことであると云う観念を生じ、例えば上士下士相対あいたいして上士が横風おうふうである、私はこれを見てその上士の傲慢無礼ごうまんぶれいいきどおると同時に
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
学育もとより軽々けいけい看過すべからずといえども、古今の教育家がみだりを予期して、あるいは人の子を学校に入れてこれを育すれば、自由自在に期するところの人物を陶冶とうやし出だすべしと思うが如きは
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)