滔々とうとう)” の例文
滔々とうとうたる青年はいが処世の門出に多く身を誤まり、借金の淵に沈み、安身立命の地を得ないのも過半は外見張り主義に原因しています。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
滔々とうとうと弁じ立てるのだが、その日は法水が草稿を手に扉を開くと、内部なかは三十人ほどの記者達で、身動きも出来ぬほどの雑沓ざっとうだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ために、滔々とうとうと、軟弱な弊風へいふうがあったことも否めません。自力聖道門しょうどうもんが、絶対力をきずいたのは、そういう時代の反動でございました。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老人が得意の劇評は滔々とうとうとして容易に尽くるところを知らざる勢いであったが、それがひとしきり済むと、老人は更に話し出した。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それから三木は壇上に立って滔々とうとう二時間、その間交替々々と付け紙が五分おきに壇上へ持ち込まれるが、三木は振り向きもしない。
春宵因縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
彼は滔々とうとうと、たしかに物知りらしく、まくしたてた。私は、夜がだんだん更けて眠くなってくることをときどきほのめかしてみた。
滔々とうとうたる世間並みのおきてになっているが、跛足びっこの子が跛足であり得ること、兄が跛足なるが故に、弟も跛足という常識はありません。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
流るるごとき長州弁に英国仕込みの論理法もて滔々とうとうと言いまくられ、おのれのみかはき母の上までもおぼろげならずあてこすられて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
音楽はひとりでに滔々とうとうと流れ出してきて、いかなる感情を表現してるのか彼自身でも知らなかった。彼はただ幸福であるばかりだった。
この頃伯林ベルリン灌仏会かんぶつえ滔々とうとうとして独逸ドイツ語で演説した文学士なんかにくらべると倫敦の日本人はよほど不景気と見える。(五月二十三日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
滔々とうとうたる天下その師弟の間、厳として天地の如く、その弟子は鞠躬きくきゅうとして危座し、先生はしとねに座し、見台けんだいに向い、昂然として講ず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
浴槽は入口の近くにあって、五、六坪もあろう、中を二つに仕切ってあって、湯は中央のあたりに、竹樋から滔々とうとうと落ちている。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
之にいきおいづいた山田は感激に満ちて滔々とうとうと述べた、如何に無道徳で、如何に残酷で、如何に悲惨であるかを、実例を引き引き巨細こさいに訴えた。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
譚は僕の問を片づけると、老酒を一杯あおってから、急に滔々とうとうと弁じ出した。それは僕には這箇チイコ這箇チイコの外には一こともわからない話だった。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この頃私は「生きんがため」という声を聞けば一生懸命になるんだ。耳を澄ませば滔々とうとうとして寄せ来る唯物論の大潮の遠鳴りが聞こえる。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
という調子で滔々とうとうと述べ立てると、前国会議員の某は、しきりに頭を左右にって不同意の態度を示した。すると直ちにその頭を指さして
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「心得ておる。世を挙げて滔々とうとう遊惰ゆうだにふける折柄、喧嘩を致すとは天晴れな心掛けと申すのじゃ。もそッと致せ。見物致してつかわすぞ」
万引にも三分の理、変質の左翼少女滔々とうとうと美辞麗句、という見出しでございました。恥辱は、それだけでございませんでした。
灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
然れども、今日の子弟にして政治・法律の二学におもむき、滔々とうとうとして所在なこれなるは、決して偶然に出るにあらざるなり(喝采、拍手)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
阿部が一流の弁舌で滔々とうとうと説明を始めると、面倒くさそうに口をつぐみ、家内が印を持っているからと、うるさそうに出て行ってしまった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
脳髄に関する演説を滔々とうとうと、身振ゼスチュアまじりに初めるのであるが、そのうちに自分の演説に感激して、興奮の絶頂クライマクスに達して来ると
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかもそれは記者の問いに対する筆者の答えとしてではなく筆者自身が自発的に滔々とうとうと弁じたような形式で掲載されていた。
ジャーナリズム雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
奴、んなことをぬかすだろうかと、私は好奇心があった。滔々とうとうと弁じている。諄々じゅんじゅんと説いている。口は学生時代から達者で
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
滔々とうとうたる濁水どろみず社会にチト変人のように窮屈なようにあるが、ればとて実際浮気うわき花柳談かりゅうだんうことは大抵たいてい事細ことこまかしって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
お手本や師伝のままを無神経にくり返してただ手際よく毛孔もうくの無いような字を書いているのが世上に滔々とうとうたる書匠である。
書について (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
やがて滔々とうとうと読みはじめた。大好きな「川中島合戦」の一節だった。元よりうろおぼえの口から出任せではあったけれど。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
その後十吋の『ワルツ=変ニ長調(作品六四の一)』のレコード(DA七六一)では、とうとう演奏を始める前に滔々とうとうと口上を述べてしまった。
と、彼は滔々とうとう万言、聴衆に大なる慰安を与えようとした、けれどもこの提案は、何人も歓迎しなかった、即ち彼らの多くは、皆口々にいって曰く。
太陽系統の滅亡 (新字新仮名) / 木村小舟(著)
しかも天下の大勢は益々滔々とうとうたる大流となつて秀吉の統一をのぞむ形勢にあるのだから、この大流に逆ふことや最も愚。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
主人はここにおいて落雲館事件を始めとして、今戸焼いまどやきたぬきから、ぴん助、きしゃごそのほかあらゆる不平を挙げて滔々とうとうと哲学者の前に述べ立てた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
連歌俳諧もうたい浄瑠璃じょうるりも、さては町方の小唄こうたの類にいたるまで、滔々とうとうとしてことごとく同じようなことをいっている。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いつもごみばかりのかわには、滔々とうとうとして急流きゅうりゅうがうなり、なみなみとみずがあふれて、そのうえ、いろんなものが、あとからあとからながれてくるからでした。
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼が祖国に対する反逆の嫌疑を拒否したときの高潔ないきどおり、みずからの名誉を擁護したときの滔々とうとうたる弁説。
傷心 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
と、水は直ぐこの家の一つ東の辻まで来ていて、山手から海の方へ、———北から南へ、滔々とうとうたる勢で流れている。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ヤレ月の光が美だとか花のゆうべが何だとか、星の夜は何だとか、要するに滔々とうとうたる詩人の文字もんじは、あれは道楽です。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
滔々とうとう数千言すせんげんつぶさに其の人となりを尽す。うちに記す、晩年ますます畏慎いしんを加え、昼のす所の事、夜はすなわち天にもうすと。愚庵はたゞに循吏じゅんりたるのみならざるなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
沖縄島に尚巴志しょうはしという一英傑が起って三山を一統した時に、久しく断絶していた本国との連絡は回復せられ、日本及び支那の思潮は滔々とうとうとして沖縄に入り
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
「街の斧博士」「時の敗者」等を発表した十一谷義三郎じゅういちやぎさぶろうもまた、その質実な、根気のよい、手堅い作風において、滔々とうとうたる即興的小説の型を破った作家である。
昭和四年の文壇の概観 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
が、何人なんぴと滔々とうとうと限りなく続くドイツの大軍を見ては、不安と恐怖とにとらわれぬわけにはいかなかった。
ゼラール中尉 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「さあ、暴れ出したぞ、滔々とうとうとして尽くることなしだ! こいつ手でも抑えてやらなくちゃいかんわい」
椰子や芭蕉やなつめの木などにこんもりと囲まれた広庭は彼ら土人達の会議所であったが、今や酋長のオンコッコは、一段高い岩の上に立って滔々とうとうと雄弁をふるっている。
そうして滔々とうとうとなにか饒舌しゃべりだした。悠二郎はこいつはいいと思った、云ってることはやっぱりちんぷんかんだが、同じちんぷんかんなら聞いてるだけのほうが楽だ。
桑の木物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すべての歴史の流れと共に俳句の歴史も滔々とうとうとして四百年の昔より今日まで続いておる。われらもまたその中にある。子規が恐れ、われらがまた恐れる所の新人でよ。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
荒涼とした港々のあらい人気をこののみ一丁でこじあけて来たという猛々しい言葉であった。意識したり、あるいは無意識のうちに滔々とうとうとすべりだして来る悪口である。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
そこには南方に当って半天にそそり立った高山があった。その山の麓には谷川が滔々とうとうと流れていた。
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いまだかつて念頭にけざるは、滔々とうとうたる日本婦女皆これにして、あたかも度外物どがいぶつの如く自ら卑屈し、政事に関する事は女子の知らざる事となしいつも顧慮するの意なし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
まず四人同道で伊勢いせ参宮さんぐうのために京都を出る時に、道すがら三人の者がそれぞれ詩や歌をむと、道無斎がそれを聞いて、滔々とうとうとして次のごとき説法を始めるのである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
滔々とうとうとして天地と共に流れている卓犖不覊たくらくふきの大河の流れと知られ、歪めば歪んだなりに直く、切ない痛苦は痛苦のままにして、息詰まるほどの快楽でもございましょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
夜中に何心なく便所はばかりへ下りて見ると、いつの間にか他の一人のお客が女将とよろしく収っていたという話をば弁舌滔々とうとうさながら自分が目撃して来たもののように饒舌しゃべり立てた。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すると初めの声が、それはシルヴァーの声だということが私にはその時わかったが、また話し始めて、永い間滔々とうとうとしゃべり続け、ただ時々別の声が口を出すだけだった。