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溶
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とか
ふりがな文庫
“
溶
(
とか
)” の例文
彼は、その光りのなかを、割るやうに、彼女は、その光りのなかに
溶
(
とか
)
されるやうに、二人は、赤いクッシヨンに並んで、腰をおろした。
幸福への道
(旧字旧仮名)
/
素木しづ
(著)
夏は
氷盤
(
ひょうばん
)
に
莓
(
いちご
)
を盛って、
旨
(
あま
)
き血を、クリームの白きなかに
溶
(
とか
)
し込むところにある。あるときは熱帯の
奇蘭
(
きらん
)
を見よがしに匂わする温室にある。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そうしてその四角な穴の中から、
煤
(
すす
)
を
溶
(
とか
)
したようなどす黒い空気が、
俄
(
にわか
)
に息苦しい煙になって、
濛々
(
もうもう
)
と車内へ
漲
(
みなぎ
)
り出した。
蜜柑
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
日
(
ひ
)
は
漸
(
やうや
)
く
庭
(
には
)
の
霜
(
しも
)
を
溶
(
とか
)
して
射
(
さ
)
し
掛
(
か
)
けた。
彼
(
かれ
)
は
不快
(
ふくわい
)
な
朝
(
あさ
)
を
目
(
め
)
に
蹙
(
しか
)
めた
復
(
ま
)
たぽつさりと
念佛寮
(
ねんぶつれう
)
へ
窶
(
やつ
)
れた
身
(
み
)
を
運
(
はこ
)
んだ。
彼
(
かれ
)
は
田圃
(
たんぼ
)
の
側
(
そば
)
へおりて
小徑
(
こみち
)
を
行
(
い
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
ようやく筆の持てる頃から絵が好きで、使い残りの紅皿を姉にねだって口のはたを染めながら皿のふちに青く光る紅を
溶
(
とか
)
して
虻
(
あぶ
)
や
蜻蛉
(
とんぼ
)
の絵をかいた。
折紙
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
▼ もっと見る
あの時分の若い
痴呆
(
ちほう
)
な恋が、いつの間にか、水に
溶
(
とか
)
されて行く紅の色か何ぞのように薄く
入染
(
にじ
)
んでいるきりであった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
自分は小山から小山の間へと縫ふやうに通じて居る路を
喘
(
あへ
)
ぎ/\伝つて行くので、前には僧侶の
趺坐
(
ふざ
)
したやうな山が
藍
(
あゐ
)
を
溶
(
とか
)
したやうな空に
巍然
(
ぎぜん
)
として
聳
(
そび
)
えて居て
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
俺は監獄で……と
戯奴
(
ヂヤオカア
)
が面を
顰
(
しか
)
める……俺は監獄であまり
監房
(
へや
)
の臭気が陰気なので、汚ない亜鉛の金盥に水を入れて、あの安石鹸を
溶
(
とか
)
しては両手で掻き立て掻き立て
桐の花
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
仕事場で
蝋
(
ろう
)
を
溶
(
とか
)
しながら、暗い片隅の方で釜の下の火を掻き廻しては、
折々
(
おりおり
)
その手を止めて町の家根の上を飛んで
彼方
(
あちら
)
に淋しそうに見える杉の
巓
(
いただき
)
を越えて、果ては北となく
蝋人形
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
雨上りの夜の天地は
濃
(
こ
)
い
墨色
(
すみいろ
)
の中にたっぷり水気を
溶
(
とか
)
して、
艶
(
つや
)
っぽい
涼味
(
りょうみ
)
が
潤沢
(
じゅんたく
)
だった。
下
(
さ
)
げ
汐
(
しお
)
になった
前屈
(
まえかが
)
みの櫓台の周囲にときどき右往左往する
若鰡
(
わかいな
)
の背が星明りに
閃
(
ひらめ
)
く。
渾沌未分
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
顧ると谷の正面を限る後立山山脈には、積雲の大塊が
屯
(
たむろ
)
して
盛
(
さかん
)
に活動している。もくもく湧き上る白銀を
溶
(
とか
)
したような頂のあたりには、領布雲が二すじ三すじ横に
靡
(
なび
)
いていた。
黒部川を遡る
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
ジャムを煮るのも厚い鍋で煮ないと好い味が出ません。ソースを
拵
(
こしら
)
える時バターを
溶
(
とか
)
してメリケン粉をジリジリといためるのには決して琺瑯鍋を使えません。
直
(
じ
)
きに剥げ出します。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
風
(
かぜ
)
はなかつた。
空氣
(
くうき
)
は
水
(
みづ
)
のやうに
重
(
おも
)
く
沈
(
しづ
)
んでゐた。
人家
(
じんか
)
も、
燈灯
(
ともしび
)
も、
畑
(
はたけ
)
も、
森
(
もり
)
も、
川
(
かは
)
も、
丘
(
をか
)
も、そして
歩
(
ある
)
いてゐる
我我
(
われわれ
)
の
體
(
からだ
)
も、
灰
(
はひ
)
を
溶
(
とか
)
したやうな
夜霧
(
よぎり
)
の
海
(
うみ
)
に
包
(
つつ
)
まれてゐるのであつた。
一兵卒と銃
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
プラットフォームで、
真黒
(
まっくろ
)
に、うようよと多人数に取巻かれた中に、すっくと立って、山が彩る、
目瞼
(
まぶた
)
の紅梅。
黄金
(
きん
)
を
溶
(
とか
)
す炎のごとき妙義山の
錦葉
(
もみじ
)
に対して、ハッと燃え立つ緋の片袖。
革鞄の怪
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「そうでしょうとも、それですから、ごらんなさい。あの花の
盃
(
さかずき
)
の中からぎらぎら光ってすきとおる
蒸気
(
じょうき
)
が
丁度
(
ちょうど
)
水へ
砂糖
(
さとう
)
を
溶
(
とか
)
したときのようにユラユラユラユラ空へ
昇
(
のぼ
)
って行くでしょう。」
チュウリップの幻術
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
さうしてその四
角
(
かく
)
な
穴
(
あな
)
の
中
(
なか
)
から、
煤
(
すす
)
を
溶
(
とか
)
したやうなどす
黒
(
ぐろ
)
い
空氣
(
くうき
)
が、
俄
(
にはか
)
に
息苦
(
いきぐる
)
しい
煙
(
けむり
)
になつて
濛濛
(
もうもう
)
と
車内
(
しやない
)
へ
漲
(
みなぎ
)
り
出
(
だ
)
した。
蜜柑
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ようやく筆の持てる頃から絵が好きで、使い残りの紅皿を姉にねだって口のはたを染めながら皿のふちに青く光る紅を
溶
(
とか
)
して
虻
(
あぶ
)
や
蜻蛉
(
とんぼ
)
の絵をかいた。
小品四つ
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
北国の春の空色、青い青い海の水色、澄みわたった空と水とは藍を
溶
(
とか
)
したように濃淡相映じて
相連
(
あいつら
)
なる。望む限り、
縹緲
(
ひょうびょう
)
、地平線に白銀の
輝
(
ひかり
)
を放ち、
恍
(
こう
)
として夢を見るが如し。
面影:ハーン先生の一周忌に
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
空は
灰汁桶
(
あくおけ
)
を
掻
(
か
)
き
交
(
ま
)
ぜたような色をして低く塔の上に垂れ懸っている。壁土を
溶
(
とか
)
し込んだように見ゆるテームスの流れは波も立てず音もせず
無理矢理
(
むりやり
)
に動いているかと思わるる。
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
慶四郎は、いつの間にか、何かに
憑
(
つ
)
かれているような顔になっている。千歳の右の手に視線を
蒐
(
あつ
)
めている。その眼は鋭く凝って、盛上った黒い瞳は
溶
(
とか
)
したような光に潤っている。
呼ばれし乙女
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
それが皆話しをしたり、唄をうたつたりしてゐるまはりには、人間の脂を
溶
(
とか
)
した、
滑
(
なめらか
)
な湯の
面
(
おもて
)
が、柘榴口からさす濁つた光に反射して、退屈さうにたぶたぶと動いてゐる。
戯作三昧
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
清吉が熱心に三月の間工夫して造り上げた蝋人形の一つは
過
(
あやま
)
って炉壺の中へ落して
溶
(
とか
)
してしまった。残った二つのうちの一つは清吉が東京への土産にするといって持って行った。
蝋人形
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
溶
常用漢字
中学
部首:⽔
13画
“溶”を含む語句
溶解
溶々
溶岩
溶溶
溶鉱炉
溶炉
霜溶
雪溶
超溶解弾
蔗糖溶液
真空溶媒
瓦斯溶接
溶鈑
溶込
溶融
溶芥子
不溶解性
溶漾
溶液
溶暗
...