浮上うきあが)” の例文
パッと又浮上うきあがるその面白さは……なぞと生意気をいうけれど、一体新内しんないをやってるのだか、清元きよもとをやってるのだか、私は夢中だった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と昔語りに話して聞かせた所為せいであろう。ああ、薄曇りの空低く、見通しの町は浮上うきあがったように見る目に浅いが、故郷ふるさとの山は深い。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はっとして振向いたとたんに、——本船の左舷殆ど十メートルほどの波間に、おおきな、およそ十フィートもあるかと思われる灰色の怪物が浮上うきあがっていた。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
真空、ガラス箱、氷、製氷会社、しおづけ、防腐剤、クレオソート、石炭酸、…………死体防腐に関するあらゆる物品が、意識の表面に浮上うきあがっては沈んで行った。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
青い空の中へ浮上うきあがったように広〻ひろびろと潮が張っているその上に、風のつき抜ける日蔭のある一葉いちようの舟が、天から落ちた大鳥おおとりの一枚の羽のようにふわりとしているのですから。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ふわりと浮上うきあがると私たちは大変高い所に来たように思いました。波が行ってしまうので地面に足をつけると海岸の方を見ても海岸は見えずに波の脊中だけが見えるのでした。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
死人を沼辺ぬまべりおろして火葬にして沼の中へほうり込んでしまったから、浮上うきあがっても真黒まっくろっけだから、知れる気遣きづかいないが、の様子を知った車夫、生かして置いてはお互いの身の上と
するとそのかへるさ、わたしみちいそいでをりますと、はなさきにおほきな眞黒まつくろやまのやうなものがふいと浮上うきあがりました。がくらくらツとしてからだれました。まつたく突然だしぬけ出來事できごとです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
かすむ眉、黒い瞳、赤い唇——と次第に道具立がはっきりすると、やがてしなやかな首筋、っそりした肩から、ふくらんだ胸、帯から脚へ流るる線と、くっきり雪の中に浮上うきあがって来るのです。
猟色の果 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
おやと気をつけると、暗いところがほんのりあかるくなって、自分は沈みもしなければ浮上うきあがりもしないで、水の中にふっと止まっている。向うを見ると、っすらと人陰ひとかげが見えて、糸をる音がする。
糸繰沼 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
眼が暗さに慣れるにつれ、中に散乱した彫像ちょうぞう、器具の類や、周囲の浮彫うきぼり壁画へきがなどが、ぼうっと眼前に浮上うきあがって来た。かんふたを取られたまま投出され、埴輪人形ウシャブチの首が二つ三つ、傍にころがっている。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「よし。浮上うきあがれ。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
ひだり脇腹わきばらのあたりにすわりました、女性をんなひざは、寢臺ねだいふちと、すれ/\のところに、ちうにふいと浮上うきあがつてるのですよ。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見よ、海水がにわかに泡立ったと見る間に、意外‼ 意外‼ そこへぬーっとばかりに一町四方もあろうかと思われる島が、浮上うきあがったではないか。人々は思わず
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まだかはつたことには、ふなばたかすみつゝんで、ふつくり浮上うきあがつたやうなともまつて、五位鷺ごゐさぎ一羽いちは頬冠ほゝかぶりでもさうなふうで、のつとつばさやすめてむかふむきにチヨンとた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蒼黒くぬるぬる光る体、ひれのような物のついている尖った頭、みずかきのある手足、……爆発のいきおいで自由を失ったのであろう、海面へ浮上うきあがったまま苦しそうにもがいている。
水中の怪人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どろだらけなさゝがぴた/\とあらはれて、そこえなくなり、水草みづくさかくれるにしたがうて、ふね浮上うきあがると、堤防ていばう遠方をちかたにすく/\つてしろけむり此處彼處こゝかしこ富家ふか煙突えんとつひくくなつて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
泥だらけな笹の葉がぴたぴたと洗われて、底が見えなくなり、水草の隠れるにしたごうて、船が浮上うきあがると、堤防の遠方おちかたにすくすくと立って白い煙を吐く此処彼処ここかしこ富家ふか煙突えんとつが低くなって
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くびめてころさばころせで、這出はひだすやうにあたま突附つきつけると、真黒まつくろつて小山こやまのやうな機関車きくわんしやが、づゝづと天窓あたまうへいてとほると、やはらかいものがつたやうな気持きもちで、むねがふわ/\と浮上うきあがつて
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)