気遣きづかい)” の例文
旧字:氣遣
「もう少し訊いて下さい、沢屋の三郎兵衛は二た時も前に、虫のように殺されているんだ。あわてたところで、生き返る気遣きづかいはない」
よし自分だけは食わんで済むとしても、妻は食わずに辛抱しんぼうする気遣きづかいはない。豊かに妻を養わぬ夫は、妻の眼から見れば大罪人である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
駈出す気遣きづかいはない、大丈夫だよ、さア姉さん此処こゝへお出で…あのおよしや御仏前へ線香を上げてなアもうお線香が立たない様だから
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
またどんな仔細しさいがないとも限らぬが、少しも気遣きづかいはない、無理に助けられたと思うと気がめるわ、自然天然と活返いきかえったとこうするだ。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
モウ連城れんじょうたまを手に握ったようなもので、れから原書は大事にしてあるから如何どうにも気遣きづかいはない。しらばくれて奥平壹岐おくだいらいきの家に行て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「駄目だよ。旦那だんなが気がないから」さくと云うその男はうつむいたまま答えた。「もう楮のなかから小判の出て来る気遣きづかいもないからね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「肺の方は離れですから大丈夫ですわ。此方の方もチブスはもううの昔に直って神経衰弱を起している丈けですから、うつる気遣きづかいはありませんよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
換言すればT子母子おやこがどこかに定住して、当分、動く気遣きづかいはないという見込みがハッキリと付けばこそ、安心して留学出来る訳で、そうとすれば又
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
囲炉裏に笹の葉を焚いて、あたりが暖くなったためか、炉辺ろばたでコオロギが鳴き出した。笹の葉を焚くのだから、真冬のほたのようなさかんな火になる気遣きづかいはない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
将校にはいくら腐敗したものが多くとも、兵卒は皆愛国の民である、かういふ風に一国の土台となるべき下等社会が慥であれば、その国の亡びる気遣きづかいはない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
万一の場合には会の名義人が責任を負うから筆耕やその他のものに迷惑のかかる気遣きづかいはないというのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
まくらしたや、寐台ねだいのどこかに、なにかをそッとかくしてく、それはぬすまれるとか、うばわれるとか、気遣きづかいめではなくひとられるのがはずかしいのでそうしてかくしてものがある。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「なに。背の立たない気遣きづかいは無い」こう云って、石原は素早く裸になった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
このよろこびの日に何の気遣きづかいがあるのか。それを申せ。10980
したって聞える気遣きづかいはない
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いくら歯をむき出しても、きゃっきゃっ騒いでも引きかれる気遣きづかいはない。教師は鎖で繋がれておらない代りに月給で縛られている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんよ、また道寄も遣らかすわい。向うが空屋で両隣は畠だ、聾のばばあが留守をしとる、ちっとも気遣きづかいはいらんのじゃ、万事わしが心得た。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新「なんでそんな、お前の伯父さんを便たよって厄介になろうと云うのだから、決して見捨てる気遣きづかいはないわね、見捨てれば此方こっちが困るからね」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この藩に居た所が何としても頭のあが気遣きづかいはない。しん朽果くちはつると云うものだ。どんな事があっても私は中津で朽果てようとは思いません。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いじゃありませんか阿父おとっさん、家の身上しんしょうをへらすような気遣きづかいはありませんよ」お島はうるさそうに言った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この躬恒みつねの歌、百人一首にあれば誰も口ずさみ候へども、一文半文のねうちも無之これなき駄歌に御座候。この歌はうその趣向なり、初霜が置いた位で白菊が見えなくなる気遣きづかい無之候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
年も三十を越しているから、今更自分を振り捨てて行く気遣きづかいはまずない。それは衣類を質入しちいれしながら半年あまり離れずにいるのを見てもたしかである。重吉の胸の中には早くからある計画がなされていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
警官から当病院内の麻酔薬の取扱方について質問された時に「それは平生いつも、標本室の中に厳重に保管してある。しかもその標本室の鍵は、この通り、宿直に当ったものが肌身離さず持っているのだから、盗み出される気遣きづかいは絶対に無い」
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
雨はんだ。空はまだ曇っているが、れる気遣きづかいはない。山から風が吹いて来る。寒くても、世界の明かるいのが、非常にうれしい。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お前さんはあんまりな人だとかなんとか云って口説くぜつでも云う所だから殺す気遣きづかいはあるまいよ、どんな事をしているか、お前見ておいでよ
どうせ使節は長く此処ここに居る気遣きづかいはない、間もなく帰る。帰ればソレきりだ。そうしてお前は露西亜人になって仕舞しまいなさい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
貴方あなたは、そうして御経おきょうをお読み遊ばすくらい、縦令たといお山で日が暮れてもちっともお気遣きづかいな事はございますまいと存じます。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「今度と云う今度は島ちゃんも遁出にげだ気遣きづかいはあるまい。おれの弟は男が好いからね」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
身分不相応な大熊手を買うて見た処で、いざ鎌倉という時に宝船の中から鼠の糞は落ちようと金がいて出る気遣きづかいはなしさ、まさか大仏のかんざしにもならぬものを屑屋だって心よくは買うまい。
熊手と提灯 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「あなたの許諾を得ない以上は、たといどんなに書きたい事柄ことがらが出て来てもけっして書く気遣きづかいはありませんから御安心なさい」
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
豐「可愛そうでございましょう、お前はお久さんの事ばかりかわいそうで案じられるだろうが、私が死んでもお前は可愛そうだと思う気遣きづかいはないよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(嬢様、何か存じませんが、おっしゃる通りになすったがよいではござりませんか。わたくしにお気遣きづかいはかえって心苦しゅうござります。)と慇懃いんぎんにいうた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「云い出すなら御米の寝ている今である。今ならどんな気不味きまずいことを双方で言いつのったって、御米の神経に障る気遣きづかいはない」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蔵へまいって著込きごみを持ってまいれの、小手こて脛当すねあての用意のと云っているうちに、はほの/″\と明け渡りたれば、もう狼藉者はいる気遣きづかいはなかろうと
皮ばかりの死骸は森の中の暗い処、おまけに意地のきたな下司げすな動物が骨までしゃぶろうと何百という数でのしかかっていた日には、をぶちまけても分る気遣きづかいはあるまい。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といったところできゃつなかなか考える気遣きづかいはない。あの皮のあたりへ行って背中をつけるが早いか必ずべたりとおいでになるにきまっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
他人ひとの物はおれの物と思って他人たにんを欺くような人だから此の者を切るの突くのと仰しゃる気遣きづかいは有るまいが、なお念のため申す、愈々いよ/\此の者をお許しなさるか
得て難癖が附こうてえ処でその身持じゃあ、三日と置く気遣きづかいはありやしません。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、ついだのは、さすがにえらい。まさか、つぐ気遣きづかいはなかろうと思った。ついで、くりゃるな八幡鐘はちまんがねをと、こうやったら、どうするかね」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お繼はお前さんが可愛がるから仮令たとえ見たとって、よもや貴方が親父を殺したとは気が付くまいと思いますから、其処そこがまだ子供だから分る気遣きづかいは有りませんよ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「借りるのはいやだ。もらうなら貰ってもいいがね。——いや貰うのも御免だ、どうせくれる気遣きづかいはないんだから。仕方がなければ、まあ取るんだな」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又「おっと心得た、僕の縁類えんるい佐野さのにあるから、佐野へ持って往って、山の中の谷川へ棄てるか、又は無住むじゅうの寺へでも埋めれば人に知れる気遣きづかいはないから心配したもうな」
毛繻子張けじゅすば八間はちけん蝙蝠こうもりの柄には、幸い太いこぶだらけの頑丈がんじょう自然木じねんぼくが、付けてあるから、折れる気遣きづかいはまずあるまい。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
上へ印の竹を立てゝ置けば、家捜しをされても大丈夫だ、そこで一旦身を隠して、半年か一年も立って、ほとぼりの冷めた時分けえって来て掘出ほりだせば大丈夫知れる気遣きづかいはねえ
けっして損になる気遣きづかいはございません。十分じっぷん坐れば、十分の功があり、二十分坐れば二十分の徳があるのは無論です。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新「済まないのは知って居るが、たった一度で諦めて是ッ切りいやらしい事は云う気遣きづかいないから」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なに道也なんぞが、何をかいたって、あんな地位のないものに世間が取り合う気遣きづかいはないが、課長からそう云われて見ると、ほうって置けませんからね」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
又「それはわきゃアねえ、僕が鍋焼饂飩を売ってる場所は、毎晩高橋たかばしぎわへ荷をおろして、鍋焼饂飩と怒鳴どなって居るから、君が饂飩を喰う客のつもりで、そっと話をすれば知れる気遣きづかいはあるめえ」
不親切な人、冷淡な人ならば始めからそれ相応の用意をしてかかるから、いくら冷たくても驚ろく気遣きづかいはない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梅「大丈夫でございます、知る気遣きづかいないと私は見抜いたから御安心なさいよ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)