)” の例文
お勢母子ぼしの者の出向いたのち、文三はようやすこ沈着おちついて、徒然つくねんと机のほとり蹲踞うずくまッたまま腕をあごえりに埋めて懊悩おうのうたる物思いに沈んだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そうです、わたしが家に坐って、眼をつぶって、腕をんで、どうもそうらしいようだと考えていた事が、まず大抵は壷にはまりましたからね。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
悪々にくにくしい皮肉を聞かされて、グッと行きづまって了い、手をんだまま暫時しばしは頭もあげず、涙をほろほろこぼしていたが
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すると、さっきから、森の薄暗がりに、黙然と腕をみあわせて、こっちをながめていた繭買まゆかいの銀六老人が、のそ、のそ、と歩いて来ながら
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩田氏は胸の上に両手をむで、哲学者のやうにじつと頭を下げて銀座通りを歩いてゐる自分の姿を想像してみたりした。
それから眼と唇を閉じて腕をんでジッと何か考えていたが、やがて眼を開くと同時にハッキリした口調で云った。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
学者先生が多勢お集まりになって、腕をんで首を捻っていなさる。はて、わからねえ——。
髪をオールバックにチックで反らして、美髯の、瀟洒な風姿であるが、何か気取って、笑うにも声もさして立てず、うなずき肯きする。腕をむ。ボーイに麦酒ひとつ呼んだことがない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかし、困ったといって、こうして腕をんで、阿呆あほう見たいな顔はしていられない。どうにかしなければならないという気が何よりもまず先立って来る。あの百観音が今焼かれようとしている。
『よし、さらば、詰問きつもんせん』王樣わうさま冱々さえ/″\しからぬ御容子ごようすにて、うでみ、まゆひそめ、兩眼りようがんほとんど茫乎ぼうツとなるまで料理人クツク凝視みつめてられましたが、やがてふとこゑで、『栗饅頭くりまんぢうなにからつくられるか?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
手をんで考えているうち、内儀の日傘の上に日かげが移っていた。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
と腕をみ、権九郎の様子をじっと窺う。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
枝々の みあはすあたりかなしげの
と胸を抱くように腕をんで
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うでみて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
戴宗は、彼にも呪符じゅふを持たせて、大きく腹中の気をくうへぷっと吐くやいな、楊林ようりんの腕をんで飛走しだした。楊林は驚いた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暫らくの間は腕をんで、あごえりうずめて、身動きをもせずにしずまり返ッて黙想していたが、たちまちフッと首を振揚げて
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そしてたしかに請取つたよしを言つたが、印度人は何か待心まちごころでゐるらしく、両手を胸の上にんだまゝ、卓子テーブルの前にはだかつて一向帰らうとしなかつた。
半七は腕をんだ。どういう仔細があるか知らないが、おやじの新兵衛は土地を売って他国へ行こうという。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生きざらむ命思はず仰ぎ寢て手はみにけり敢て息
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
と織次はきっと腕をんだ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みながら歩み去る。
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
みて
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しっかり、両方から腕をんで、ずるずると吉田町の河岸まで来ると、樫井と西村は、いきなり男を河の中へ突き落した。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとに残つた宮嶋氏は、手をんで困りきつた顔をした。そしてペンギンてうやペリカンてうが食べ過ぎて腹を痛めた場合の処方箋を考へ出してみたりした。
跡で文三はしばらくの間また腕をんで黙想していたが、フト何か憶出おもいだしたような面相かおつきをして、起上たちあがッて羽織だけを着替えて、帽子を片手に二階を降りた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
半七は殆ど猪口をそのままにして腕をんでいた。十右衛門も黙って自分の膝の上を眺めていた。一匹の蠅が障子の紙を忙がしそうに渡ってゆく跫音あしおとが微かに響いた。
半七捕物帳:03 勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生きざらむ命思はず仰ぎ寝て手はみにけり敢て息
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
と、羅門塔十郎は、その活眼から燃えるするどい洞察力のあらんかぎりをこめているように、腕をんで、じいっと、奥の方を見つめながら呟いた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言つたきり、大きな腕を胸の上でんだまゝ大跨おほまた其辺そこらを歩き廻つてゐたが、いつの間にか姿が見えなくなつた。
手はかたく十字じふじ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
机の前に、腕をんで、新蔵は思わず太い息をついた——自分をいて今、誰が老いたる師の病床を見る者があろう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、じつと両手をんで思案に暮れてゐたが、ふと忘れ物をしてゐるのに気が注いてにやりとした。
と、東儀もさすがに、死をもって、子の破滅はめつを救おうとする親心の前には、太い息をついて、腕をんでしまった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大麓はかういつて、両手を胸の上でエツキスといふ字にんだ。根が数学者だけに文字の恰好もよかつた。
と、部屋の者はこうささやいて、皆、大刀どすさやにおさめ、しょうもなく凍えきッた手を、ふところの奥にんでしまった。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小十郎は両手をんで考へ込んだ。身体からだぢゆうを時鳥が矢のやうに飛んでゐるやうに思つたが、どうしてもその尻尾をとらへる事が出来なかつた。で、やつとこさの事で
石秀は腕をみ、めすえるような眼で女轎おんなかごの巧雲を見送った。淫婦め! と口のうちでは言っている。そして
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「所で最後の勇ぢやが……」と侯爵はんだ手をほどいて、鉄砲のやうにまた前へ突き出した。
そのうちに、沢庵の眼のまわりに、何ともいえない親しみぶかいしわなごやかに寄ると、んでいた腕を解いて
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
農夫ひやくしやうは豚の前に立つて、手をむで考へ込んだ。お慈悲の深い神様は、貧乏なその男のために取つて置きの良い智慧を恵んで下すつたので、農夫ひやくしやうははたと手をつて喜んだ。
罪の父は、苛責かしゃくにたえかね、ついに書物もとじふせて、しんしんと傷む心を、両腕にんでいた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「次は仁で、先づ庄屋のお人好しといつた所ぢやが……」と投げ出した手を庄屋のやうに胸の上でんだ。「ぢやが、当今のやうな時勢では、得て狐の智慧にだまされ易くての。」
その姿を、無作法に眼で撫で廻しながら、人足たちは木像蟹もくぞうがにのような腕をんで近づいて来た。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
医者は手をんで考へた。アンチヘブリンをまさうかとも思つたが、それにしては熱が少しもなかつた。下剤をかけようかとも思つたが、それにしては腹に少しのとどこほりもなかつた。
三囲みめぐりの土手に立って、ぼんやり腕をんでいた。何となく、不安が胸へ潮のようにさしてくる。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今日久し振りで私を訪ねて来た——会社の人事係月俸百三十七円のB氏は、かういつて、用のない空気枕のやうにすうと長い溜息をついて、がつしりした胸の上で両手をみ合せた。
と云ったのみで、腕をんで、に遠く見える本丸の狭間はざまを睨みつめている者もある。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、満谷氏は胸の上で手をむで、そつと溜息をついた。
沢庵はそれっきり黙っていた、胸の両の腕を静かにむ、そして、武蔵が睨んでいる限り彼も相手を見つめているのだ、——息の数まで同じように合せて呼吸しているように。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)