ふせ)” の例文
その猴取って置きの智慧をふるい、戸を開いてその上端に厚き毛氈を打ち掛け、戸の返り閉づるをふせぎ、やすやすと目的を遂げたそうだ。
いつとなし足をぬいて、前借は据置すえおきのままに大増だいますの女中に住みこむなど、激しい気象のお神にも、ふせぐに手のない破綻はたんは仕方がなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家屋の目的は雨露うろしのぐので、人をふせぐのでないと云ふのが先生の哲学だ、戸締なき家と云ふことが、先生の共産主義の立派な証拠ぢやないか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
威を畏れ徳になずき、静を買い安を求めざるなし、高麗命をふせぎ、天討再び加う。伝世百一朝にして殄滅す。に逆天の咎徴、衝大の明鑒に非ずや。
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土蔵の上には五六人ばかり人が上つてしきりにふせいで居た様子だつたが、これに面喰めんくらつてか、一人/\下りて、今は一つの黒い影を止めなくなつて了つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
彼女かのぢよいままでのくゐは、ともすればわけたてかくれて、正面まとも非難ひなんふせいでゐたのをつた。彼女かのぢよいま自分じぶん假面かめん引剥ひきはぎ、そのみにくさにおどろかなければならなかつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
「韓信にも背水の陣があったことを知らぬか。孫子もいっている。死地ニ生アリ——と。ご辺は、歩兵をひきいて岸にふせげ。おれは馬武者をひきいて、敵を蹴破るから」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめの鉄柱にしばりつけるまえに、口に鉄管をふくませて舌を噛むことをふせいだという。
せいばい (新字新仮名) / 服部之総(著)
文矦ぶんこう呉起ごきへいもちひ・(七五)廉平れんぺいにしてのうつくこころたるをもつて、すなはもつ西河せいがしゆし、もつしんかんふせがしむ。文矦ぶんこうすでしゆつす。其子そのこ武矦ぶこうつかふ。
かの鰲背ごうはいあつめて丘の如く、そのいきほひふせがんと為れど、触るれば払ひ、当ればひるがへり、長波のくところ滔々とうとうとして破らざる奮迅ふんじんの力は、両岸も為に震ひ、坤軸こんじくも為にとどろ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かれは夢の中で、心の散乱をふせごうとして努力する。それにもかかわらず、ちらちらする感じがつづいて起る。目をあげてよく見れば、それは尊像の台座から離れた蓮弁である。
立處たちどころ手足てあしあぶるべく、炎々えん/\たる炭火すみびおこして、やがて、猛獸まうじうふせ用意よういの、山刀やまがたなをのふるつて、あはや、そのむねひらかむとなしたるところへ、かみ御手みてつばさひろげて、そのひざそのそのかたそのはぎ
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
張士誠ちょうしせい平江へいこうを陥れたので、江浙左丞相達織帖睦邇こうせつさじょうそうたつしきちょうぼくじ苗軍びょうぐんの軍師楊完ようかんという者に檄を伝えて、江浙の参政の職を授け、それを嘉興でふせがそうとしたところが、規律のない苗軍は掠奪をほしいままにした。
愛卿伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
本流に「へ」の字をやや平にしたような橋が架っている、取りつきに杭を組んであるのは、牛馬の向岸へ渡るのをふせぐためだ、横の棒を一本外して、人は出入をする、橋のなかばに佇んで振り仰ぐと
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
御所方も固く守りてふせぎ戦ひけるほどに、いつ果つべきとも見えず。
四世紀の交に基督キリスト教の羅馬ローマに入り来り、神力に頼る大なる威厳を以て、千古の疑問たる婦人問題に一夫一婦制の解決を下すや、多少の反対はあったけれども、汨々いついつとしてみなぎり来る潮勢のふせがたき如く
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
木山の本営ほんえい引揚ひきあげる前、薩軍さつぐんって官軍をふせいだ処である。今はけんの兵士が番して居た。会釈して一同其処を通りかゝると、蛇が一疋のたくって居る。蛇嫌へびぎらいの彼は、色を変えて立どまった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
邪をふせぎ、淫をせきし、を棄て、真を求むるは、教の大本なり。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
し、この危機に処して、一家の女房たるものが、少しく怜悧れいりであつたならば、狂瀾きやうらんを既に倒るゝにひるがへし、危難をいまだ来らざるにふせぐは、さして難い事では無いのである。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ふせぎ闘うひまも与えず閣中へ混み入って、折ふし今日も遊宴していた丁儀、丁廙を始め、弟君の植をも、ことごとく捕縛して車に乗せ、たちまち、ぎょうの魏城へ帰ってきた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また『西域記』十二にいにし瞿薩旦那くさたな国王数十万衆を整えて東国の師百万をふせぎ敗軍し、王はいけどられ将士みなごろしにさる、その地数十けい血に染みて赤黒く絶えて蘗草くさなしと見ゆ、南インド
「ついに玄徳は、蜀の力をあげて、乾坤一擲けんこんいってきの気概をもって攻めてきた。思うに、関羽を討たれた恨みは、彼らの骨髄に徹しているだろう。どうしたらその猛攻をふせぎ得るか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)