手当てあて)” の例文
旧字:手當
一時は口もかれぬ程の重態であった坑夫ていの負傷者も、医師の手当てあてよって昨今少しく快方に向ったので、警官はただちに取調とりしらべを始めた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ことしも水の神のにえ求めつるよ。主人あるじはベルヒの城へきのふよりりとられて、まだ帰らず。手当てあてして見むとおもひ玉はば、こなたへ。」
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「お先走ったことを申しあげるようですが、こうして揃ってお出かけになったのは、この三津五郎をお手当てあてなさろうため」
顎十郎捕物帳:22 小鰭の鮨 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして、柔和にゅうわで子供ずきな宮内の手当てあてあつかったために、こうしてふたりとも、もとのからだに近いまでに、健康をとりもどしてきたのだろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その警官は、それから三十分ほど後、交代の同僚がやってきたときに発見され、手当てあてをくわえられて、われにもどった。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ムヽー、あれだけの手当てあておよんでも息が出んとまうせば最早もはやまつた命数めいすうきたのかも知れぬて、うしてもかぬか。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「静岡へ送金することは、私の為事の一つでしたわねえ。貴方のせんの奥様の小夜子さんへ手当てあてを差上げるのが。」
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
そうして、くすりをのましたり、手当てあてをしたりしたかいもなく、とうとうボンはじたままんでしまいました。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まだまだ命は大丈夫だ。医者なんか呼ぶ必要はない。うつかり手当てあてなんかされちや、それこそ迷惑だ。苦しいのがなほつても、殺されたらなんにもならん。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
むさくるしいいえで、おいやでしょうけれど、ともかくわたくしのうちへいらしって、きずのお手当てあてをなさいまし。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
所が此夏このなつ高等学校の受験生の答案調しらべを引き受けた時の手当てあてが六十円此頃になつて漸く受け取れた。それで漸く義理を済ます事になつて、与次郎が其使つかひを云ひかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そうして手当てあてとして年金百円を給すというもう一枚の書附かきつけと二枚……これで一同は帝室技芸員という役を拝命したのだということは分りましたが、さて、その役目がどんなことをするのか
◎これはちと古いが、旧幕府の頃南茅場町みなみかやばちょう辺の或る者、乳呑子ちのみごおいて女房になくなられ、その日稼ぎの貧棒人びんぼうにんとて、里子に手当てあても出来ず、乳がたりぬのでなきせがむ子を、もらちちして養いおりしが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
そしていつもの通り旅行に出る前には留守中の手当てあて為事しごとで睡眠不足が続いてゐたので、休めば必ず眠くなつた。一二度用心したが、ついに或所で、萱か何かを折り敷いたまゝうと/\と眠つてしまつた。
木枯紀行 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
それを宅へ持ち込まれた時には私もただ狼狽ろうばいするばかり、疵口きずぐちへどういう手当てあてをしていいものだかどうしていいか訳が分りません。医者を呼びにっても急には来てくれず、ホントニまりましたよ。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この家に急に病みたる一人ひとりありわれは手当てあてす夜半過ぎしころ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
これが最も忠一を驚かしたのであったが、冬子は単に気を失っただけのことで、身には別に負傷の痕も無かったので、手当てあてのちに息を吹返ふきかえした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うで鉄砲傷てっぽうきず急所きゅうしょがそれておるし、ただいま、門人もんじん手当てあてをさせておるゆえ、べつだんなこともないようでござる」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
成程なるほどそれうも御奇特ごきどくな事で、おまい葬式とむらひを出してれゝば誠に有難ありがたいね、ぢやア何分なにぶんたのまうしますよ、今にわたしきますが、早桶はやをけなにかの手当てあては。
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
人をのろうことについて趣味のある醤買石しょうかいせきと、彼にうまくかつがれているとは知らぬ王老師おうろうしとは、医師の手当てあて甲斐かいあって間もなく前後して、目を覚ました。
ぐうという声がしたので、蒲団ふとんの下にもぐんでいる彼をすぐ引き出して、相当の手当てあてをしたが、もう間に合わなかった。彼はそれから一日いちんち二日ふつかしてついに死んでしまった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
市郎は医師の手当てあてよって、幸いに蘇生したので、すぐふもとき去られていたが、安行とお杉と𤢖との三個みつの屍体は、まだ其儘そのままに枕をならべていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いつまで見送って、たがいに歯がみしていたところで及ばぬことと、忍剣にんけんは一同をはげました。そして、そこにたおれている、伊那丸いなまる咲耶子さくやことに、手当てあてを加えた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちつとばかり西洋医せいやうい真似事まねごともいたしますが、矢張やはり大殿おほとの御隠居様杯ごいんきよさまなどは、水薬みづぐすりいやだとおつしやるから、已前まへ煎薬せんやくげるので、相変あひかはらずお出入でいりいたしてる、ところ這囘このたび多分たぶんのお手当てあてあづか
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところがこの夏高等学校の受験生の答案調べを引き受けた時の手当てあてが六十円このごろになってようやく受け取れた。それでようやく義理を済ますことになって、与次郎がその使いを言いつかった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
停車場ステイシヨンつたツて切符を買ふ手当てあてもありませんから、いまにかへりませうと待つたが、かへつてねえ、ところで悪い顔もしず、御飯ごはん世話せわからとこ揚下あげおろしまで岩田屋いはたやさん御夫婦ごふうふくださるんだが
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)