幽霊ゆうれい)” の例文
旧字:幽靈
けれどもわたしは、それよりももっとめずらしい、もう一つの都市を知っています。それは都市の死骸ではなくて、都市の幽霊ゆうれいです。
すべすべとふくれてしかも出臍でべそというやつ南瓜かぼちゃへたほどな異形いぎょうな者を片手でいじくりながら幽霊ゆうれいの手つきで、片手を宙にぶらり。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかるに衣服を代えると、こんどはまた代えた新しき衣服を非難する。赤は派手すぎると悪くいう。白くすれば幽霊ゆうれいのようだと非難する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのころ、僕たち郊外こうがいの墓場の裏に居を定めていたので、初めの程は二人共みょう森閑しんかんとした気持ちになって、よく幽霊ゆうれいゆめか何かを見たものだ。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そうしてその幽霊ゆうれいが時々我々の耳へ口をつけて、そっと昔の話を囁いてくれる。——そんな怪しげな考えがどうしても念頭を離れないのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「じつは、ゆうべ幽霊ゆうれいがはいってまいりました。その幽霊は、手が両方ともありませんでしたが、口でナシをひとつ食べたのでございます。」
巌は寝台の縁に片手をかけ、幽霊ゆうれいのごとくはいだして父のあとを追わんとしたが、火傷やけどの痛みに中心を失って思わず寝台の下にドウと落ちた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
幽霊ゆうれいじゃない、幽霊じゃない、あれは嘘かいや、そうとは知らずにきみ子は孫をつれて親元いんだのに。——いねは嬉し泣きに泣きむせんだ。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
ニールスが高い空から海と島とを見おろしたときには、なにもかもがひどくきみわるく、まるで幽霊ゆうれいのように見えました。
少しも風のない、むしむしする日であったから、所々開かれた汽車の窓から、進行につれて忍び込むそよ風も、幽霊ゆうれいの様に尻切れとんぼであった。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そうだね。一寸ここまでおいで。」その黄色な幽霊ゆうれいは、ネネムの四角なそでのはじをつまんで、一本のばけものりんごの木の下まで連れて行って
歩いて行くと、そこらのさまざまな物がぼんやりした光の中できみょうな幽霊ゆうれいじみた形をしているように見えた。
なにをいってんだね。そこまでかしておきながら、あとは幽霊ゆうれいあしにしちまうなんて、馬鹿ばかなことがあるもんかね。——おまえさんさっき、んといったい。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「なにが幽霊ゆうれいなものか、おれたちはみんなおまえがたのかおおぼえている。」と、二人ふたりはいって、だれかれのをいっては、なつかしさのあまりきつきました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
宗助そうすけ御米およねの一生を暗くいろどった関係は、二人の影を薄くして、幽霊ゆうれいのような思をどこかにいだかしめた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あのせた、蒼白あおじろい、まるで幽霊ゆうれいのようなみにくい自分じぶん姿すがた——わたくしてぞっとしてしまいました。
戸をけて、海——かと思うた。家をめぐって鉛色なまりいろ朝霞あさがすみ。村々の森のこずえが、幽霊ゆうれいの様にそらに浮いて居る。雨かと舌鼓したつづみをうったら、かすみの中からぼんやりと日輪にちりんが出て来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
では、トランクの幽霊ゆうれいか。トランクに霊あるをいまだ聞いたことがない。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おまけに、向うの暗い道では、ひょろ長の幽霊ゆうれいおどりをおどっていて、それがだんだんこっちへ近づいてくるではありませんか。
王さまはぼうさんをひとりつれてきました。この人は幽霊ゆうれいに話しかけるやくだったのです。三人は木の下にこしをおろして、気をつけていました。
五日のお月さまは、この時雲と山のとのちょうどまん中にいました。シグナルはもうまるで顔色をえて灰色はいいろ幽霊ゆうれいみたいになって言いました。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
二人はその汽車の中にグラスゴオのパイプをくわえながら、煙草たばこの話だの学校の話だの幽霊ゆうれいの話だのを交換した。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは金銀きんぎん宝石ほうせきんだ幽霊船ゆうれいぶねが、あるみなといたときに、そのおかね宝石ほうせきがほしいばかりに、幽霊ゆうれい自分じぶんうちにつれてきてめた、欲深者よくふかものはなしでありました。
善いことをした喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
世の迷信をわらわんがために一夜墓地に散歩して石碑せきひたたいて幽霊ゆうれいがあるものならあらわれよと言って、一夜を暮らしたという話があるが、これを批評してカーライルが
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それを大袈裟おおげさに礼を言って、きまりを悪がらせた上に、姿とは何事です。幽霊ゆうれいじゃあるまいし、心持こころもちを悪くする姿というがありますか。図体ずうたいとか、さまとかいうものですよ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幽霊ゆうれいかもしれんよ」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おまえはかみさまのところからきたのか。それとも、人間ののなかからきたのか。おまえは幽霊ゆうれいなのか、人間なのか。」
「おまえがたは幽霊ゆうれいじゃないか?」といって、くろんぼの仲間なかまは、二人ふたりのものをかこみました。二人ふたりのようすは、しまるときとは、まったくちがっていました。
幸福に暮らした二人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そら、Hさん、ありゃいつでしたかね、ながらみ取りの幽霊ゆうれいが出るって言ったのは?」
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
嗚呼ああ博士よ、君にして幽霊ゆうれいを見るの望みあるならば、なんぞ墓場はかばに行くを要せん。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
たしかにみんなそう云う気もちらしかったのです。製板の小屋こやの中はあいいろのかげになり、白く光る円鋸まるのこが四、五ちょうかべにならべられ、その一梃はじくにとりつけられて幽霊ゆうれいのようにまわっていました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
生きている幽霊ゆうれい
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「あんまりおもいがけなかったので幽霊ゆうれいかとおもったわ。」と、あねはへやへもどると、はははなしていました。
兄の声 (新字新仮名) / 小川未明(著)
幽霊ゆうれい
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
達夫たつおは、をみはりました。たとい、幽霊ゆうれいでも、おとうさんだったらきつこうとっていると、それは、りざおをかついで、どこかのひとがつかれたあしきずりながらくるのでした。
夕焼けがうすれて (新字新仮名) / 小川未明(著)