けえ)” の例文
旧字:
何? 親分はもうけえんなすった、——それは惜しい事をした、大変な証拠が手に入ったんだ。泥棒仲間でしめし合せた手紙を、千両箱を
時々わっち合口あいくちだもんだから、長次こうと仰しゃってお供で来るけれども、何うかすると日暮ひくれ方から来て戌刻前よつめえけえる事もあるし
「金持ってけえんべと思っていだども、あんまり安かったで、買って来たはあ。おう! この馬は、こんで、何円ぐらいにえるべ?」
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
『早くけえつて寝るこつた。恁麽こんだ時何処ウ徘徊うろつくだべえ。天理様拝んで赤痢神が取付とツつかねえだら、ハア、何で医者いしやくすりが要るものかよ。』
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
... かける所存、いがみと見た故、油断して、一ぺえくつてけえりしは」といひ「禍も三年と、悪い性根のねんの明き時」をちよぼに預け
「オ、とっツアん、いつものくちを、五ごうばかりもらおうじゃあねえか。くちに待っていられてみると、どうも手ぶらじゃアけえれねえや」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「おっ母、ちょっとここで、待っていてくんねえか。ひとりで、変な方角へ、歩き出しちゃいけねえぜ。すぐにけえって来るから」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何なら御勘弁願いたいもんで……ただもうビックリして面喰めんくらって、生命いのちからがら逃げてけえって来たダケのお話でゲスから……。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そうだ、おせんちゃん。けえときにゃ、みんなでおくってッてやろうから、きょういち見世みせはなしでも、かしてくんねえよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
断りなしにけえるとは変な人だと、ちっとばかり腹さ立ったゞよ。だけどよ、不用心だと思って、締りさちゃんとして引上げたゞ。所が八さア。
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「なに、ぢき止むだ。それより、お前はな、けえつたら喬にさう云つとけ——お客さんはおれが今夜は預るつて……いゝか?」
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「うん。母ちゃんが、姉ちゃんに負けん気だして、こわえの無理しんなって、よ。けえりたかったらいつでもけえって来って」
三月の第四日曜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それから気を着けると、いつかも江戸町のお喜乃きのさんが、やっぱり例の紛失で、ブツブツいってけえったッけ、翌日あくるひの晩方、わざわざやって来て
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「しようのねえ奴だな。親分を知らねえのか。親分も兄弟分も知らねえで、坑夫になろうなんて料簡違りょうけんちげえだ。早くけえれ」
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「さてまた、福松の阿魔だがなア、あいつがまた、こちとらのかおを見せるとただはけえすめえがの——色男てやつは、どっちへ廻っても楽はできねえ」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
無理矢理持たしてけえしやしたのを、ついそのままにしていただけのことなんでごぜえますから、後生でごぜえます。
「大蝶丸は罐詰を東京まで積んでいって、三時間ばかりめえけえって来ただ」と扶原支配人はゆっくりと云った
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そんなこといったっていつけえるか分らねえものを。——ぐず/\していたら日が暮れる。……でなくっても、みねえ、あの時分に出たってこのさまだ。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
今さらこの年で日本へけえろうにも、領事館へ泣き付いて移民送還てのも気が利かねえしね——済んませんが、あんた、いくらか煙草銭でもってくれないかね。
今度の航海からけえりせえすりゃ、真面目まじめな紳士の暮しを始めるんだ。まだずいぶんはええ、ってお前は言うだろう。ああ、だが己は今までだって安楽に暮して来たのだ。
……オヤどうした? え、島原! もうけえるのか。まあよかろう、茶でも飲みねえ。おれも乾いた
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どうせもうかんねえ普通の百姓をするなら慣れぬところで苦労するより、いくら貧乏でも生まれ故郷さけえった方がいいと、平戸へ帰るものも出やしたし、一人欠け二人欠け
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
なんしろ麦飯の七八はいもひっかけて居ったンだからね。酒保しゅほに飛んで行き/\したって話してました。今じゃ大きにらくになったってますよ。最早もうあと一年半でけえって来ますだよ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
干ぼしになって死ぬ時ア一緒に死ぬべえ、と言って、その五両札へ二両のお釣りを置いてけえって来ただが、おかみさん、去年は豊年で、それでやっぱり飢饉と同じことだった。
飯焚女めしたきおんなは帰ってしまいましたし、ドーブレク代議士が信用してるレオナールて男は、主人を迎えかたがた巴里パリーへ行きましたから、一時を過ぎなきゃ、大丈夫でえじょうぶけえって来ません』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
えい? わたくしなぞはこれから自宅うちけえって、やッと——その、な——熱いのにありつけるかと思ってますのでげすが、な、かかアがその用意をしてあるかどうかも分りません
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
こねえだも、夜の明けねえうちにわっしをまいて、その日一日いちんちいねえんでがす。わっしは、旦那がけえって来たらしたたかぶん殴ってくれようと思って、でっけえ棒をこせえときました。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
殿様が清国あっちからおけえりなさるそのめえに、東京におけえりなさったでごぜエますよ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「僕も其処へ行つたんですがね。ちやうど蜜柑を摘んでゐたお婆さんがゐたから、訊いて見たんだ。するとお婆さんがね、あの若造どもづら、へえ、さつきけえつちまつただと云つたんだ。」
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
金公もそのままのめのめと嬶と二人でけえられめい。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
大勢まんぜい寄りたかって私共わっちどもに赤恥をかゝせてけえそうとするから、腹が立って堪らねえ、わっちが妹をわっちが連れてくに何も不思議はねえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「え、何、こっちの衆は、稼業違いの者なんですが、旅は道連れ、舞鶴までけえる人だっていうから一緒になったまでのことです」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「昨日出たきりけえらねえので……停車場でいたら、上野までの切符、七、八枚も売れだのだぢがら、見当が付かねえもね。」
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
女房が一所に帰つてくれといひても「晩にはけえるが、今はけえられねえ」といふ。善太来て権太の肩につかまり「ちやん、帰つてくんねえ」といふ。
焼いて持って来ねえ。蔦ちゃんがすきだったんだが、この節じゃ何にも食わねえや、折角残してけえっても今日も食うめえ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「実は神明前のお常の茶屋を、ほんのちょいと覗いて、あれから学寮の角を宇田川町へ出て露月町の家へけえりました」
しかもここまで深入りしたからにゃトテも生きて日本にゃけえれめえ……と気が付くと腰を抜かすドコロかあべこべに気持がシャンとなっちまいました。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いくらでもいいます。女が生きてたら文句はあるめえ。見たけれあ明日お奉行所へ来なさるがいい。けえれ、帰れ」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あれほど親類の衆も言って下すっただから水車番をしていればよかったに、俺モウいちど水車小屋へけえるべえか……
「大蝶丸は缶詰を東京まで積んでいって、三時間ばかりめえけえって来ただ」と扶原支配人はゆっくりと云った
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けえるべえどら。』と、顔のしやくつたのが先づ立つた。松太郎は、ゴロリ、崩れる如く横になつて了つた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
冗談じょうだんじゃねえ。ようがありゃこそ、わざわざやってたんだ。なんでこのままけえれるものか。そんなことよりおいらのたのみを、素直すなおにきいてもらおうじゃねえか。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「口癖にいうていなされた新次郎が、仏蘭西からけえってめえりましたぞい。逢うてやって、つかあされ! 阿母さまはもう頭に来てなさるで、お前がおわかりにならぬだろ!」
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
あの連中は一週間近くも陸にいたし、俺らは海象ウオルラス号に乗って岸に寄ったり離れたりしてたんだ。或る日のこと、合図があって、フリントが一人で小さなボートに乗ってけえって来た。
僕だなんて——書生しょせだな。大方おおかた女郎買でもしてしくじったんだろう。太え奴だ。全体ぜんてえこの頃の書生ッ坊の風儀が悪くっていけねえ。そんな奴に辛抱が出来るもんか、早くけえれ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
帰ると溜息ためいきついて曰く、全く田舎がえナ、浅草なンか裏が狭くて、雪隠せっちんに往ってもはなつっつく、田舎にけえると爽々せいせいするだ、親類のやつが百姓は一日いちにちにいくらもうかるってきくから
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
『あいつら、巴里パリーにゃあすげえところがあるってんで、嬉しがってけえりやがった。』
御前のめえのろけらしくなりやすが、ちっとばかり粋筋いきすじ情婦いろがごぜえやしてね、ぜひに顔を見てえとこんなことを吐かしがりやしたので、ちょっくら堪能させておいてけえろうとしたら
「これはおいでなせえまし。旦那様アいつおけえりでごぜエましたんで?」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「山北んげの正ちゃんがこしらえがすんでから急にけえって来た」
三月の第四日曜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)