巫女みこ)” の例文
唄合戦の揚句に激昂した恋敵こいがたきの相手に刺された青年パーロの瀕死の臥床で「生命の息を吹込む」巫女みこの挙動も実に珍しい見物である。
映画雑感(Ⅵ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
老いたる義政をめぐつて美貌の能若衆と美しい巫女みことが演じる死のドラマ『中世』は、終戰の年に書かれてゐる。暗鬱と瑰麗くわいれいの綾織り。
「二人共四十近い獨り者で、尤も大膳坊の方は蝠女ふくぢよとか言ふ蝙蝠かうもりが化けたやうな女の巫女みこをつれて歩いて居ます。ちよいとした年増で」
私は古風なロマン主義者でも巫女みこでもないから、最も大切なものをアブラハムの祭壇にただのせて主観を満足させてはいられない。
陸中の国でありながら秋田県に加わっている鹿角かづの郡では、狐つきのことをモスケヅキというそうだ。また、巫女みこのことをイタコという。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
それも縁であろう。越後巫女みこは、水飴みずあめと荒物を売り、軒に草鞋わらじつるして、ここに姥塚うばづかを築くばかり、あとをとどめたのであると聞く。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
拝殿の神簾みすのかげに、今二つの御灯みあかしがついた。榊葉さかきばのかげに光る鏡をかすめて、下げ髪水干すいかん巫女みこが廊下の上へ静かに姿を立たせた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よく効く巫女みこさんが昨日から島へ来とるんでな。若旦那も一ぺん御祈祷ごきとうしてもろうたら、どうやろうと思うて来ましたんやがな。
屋上の狂人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
しかし、それから筋を手繰たぐって、一層くわしく探ったところ、巫女みこの千賀子も刑部老人と一緒に、飛騨の方へ行ったということであった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と見ると、女は凄いほどのととのった顔立ちで、それが、巫女みこのような白い着物を着て、髪をおすべらかしみたいに背後うしろへ垂らして藁でゆわえている。
あの陰氣な稻荷の巫女みこや、天狗使ひや、(A+B)2 ………などの方程式で怪しい占ひをした漂浪者や、護摩ごまを焚く琵琶法師やを滯留さしては
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
陰陽術ノながれヲ伝ウル者、真言秘密ノ行者、修験者よげんじゃ、祈祷師、代人、巫女みこ、ソノ他、何々教、何々様ト称スル神仏類似ノモノニ奉仕スル輩ノ中ニハ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其処には越えた処に巫女みこ奈路なろという窪地があった。伝蔵がその窪地まで往ったところで、むこうの方に在る大きな岩の上に不思議なものが現れた。
蟹の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「あたしその話を聞いてから、巫女みこになることをはずかしがったり、淋しがったりするのはすまないと思いだしたわ」
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あるときは、ほとんどあやうかったところをのがれられてぎゃく敵軍てきぐんおとしいれられたこと、あるときは、おも病気びょうきにかかられたのを、神術しんじゅつ使つか巫女みこあらわれて
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
順道じゅんとうならば、今頃は既に、藤原の氏神河内の枚岡ひらおかの御神か、春日の御社みやしろに、巫女みこの君として仕えているはずである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
世評に依れば財産家なりしものゝ如し。本人は隣家の人の口より老夫人が巫女みこなりしことを聞きしが信ぜざりき。
すなわち巫女みこは若宮の御母なるが故に、ことに霊ある者として崇敬せられたことは、すこぶるキリスト教などの童貞受胎の信仰に似通うたものがあった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
うんにゃ、それよりも鎮守ちんじゅさまのうしろに住んでいる巫女みこ大多羅尊だいだらそんさまに頼んで、博士さまについている神様をよびだして、その神様に“早う、おできを
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
男性のカツサンドラ(希臘の昔物語に見えたる巫女みこ)となり、法皇王侯のいかりおそれずして預言したるは、希臘悲壯劇の中なる「ホロス」の群の如くなりき。
上司小剣氏の作では、『雀の巣』と『巫女みこ殺し』とを読んだ。『巫女殺し』はあつさりとしたものである。
或新年の小説評 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
人間というものは奇跡なくして生きることができないから、自分で勝手に新しい奇跡を作り出して、果ては祈祷師きとうしの奇跡や、巫女みこ妖術ようじゅつまで信ずるようになる。
或日さる方の御邸で名高い檜垣ひがき巫女みこ御靈ごりやういて、恐しい御託宣があつた時も、あの男は空耳そらみゝを走らせながら、有合せた筆と墨とで、その巫女みこの物凄い顏を
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
十四の時、インドに送られて神秘教祭殿に巫女みことなり、一生を純潔の処女として神前に踊る身となった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
大蛇は人の夢にあらわれ、または巫女みこなどの口を仮りて、十二、三歳の少女を生贄いけにえにささげろと言った。
巫女みこの持つてゐる様な小さな鈴玉がちりん/\と彼の手に鳴つて居た。やがて彼は床の間に、小さな幣帛へいはくを飾り、白米と塩とを其の前に供へて、稍〻やゝ久しく黙祷した。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「どうですか。国ではまだ巫女みこだとか、変んな魔法を使うと言う女などがたくさんいましてね。」
北国の人 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
その頃ベンベ(今の虻田郡豊浦とようら町)に蜘蛛くもと竜蛇を憑神にもつ有名な巫女みこがいたので、呼んで巫術を行わせると、やがて神懸りの状態に入って、次のように謡いだした。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
先頭に道を開いていた馬車の一群は、当時有名なデゾージエの雑曲ヴェスタの巫女みこを、粗暴な元気さで大声に調子を取って吟じ出した。並み木は痛ましげに震えていた。
彼には彼女が、今までだれも気づかなかったような女に見えてき、力に酔った酒神巫女みことも言えるその仮面に、ちょうどふさわしい女に見えてきた。彼女は彼を呼んだ。
晩年磐梨いわなし郡某社の巫女みこのもとに入夫にゅうふの如く入りこみて男子二人を挙げしが後長子ちょうし窃盗せっとう罪にて捕へられ次子もまた不肖の者にて元義の稿本抔こうほんなど散佚さんいつして尋ぬべからずといふ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すると不意に——岸の上に、ざわめきや、高笑いや、松明たいまつや、手太鼓てだいこがあらわれるの。……それは、バッカスの巫女みこれをなして、歌ったり叫んだりして走ってくるのよ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
最初に出てくるのはヴェルースパー Völuspa 即ち巫女みこの託宣といふ題で天地の創造をうたつてあります。試みに私が初めの方を少しばかり逐語的に譯してみませう。
巫女みこが鈴を振るような手つきに構えたが、関守氏は、その構えっぷりを見て感心しました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殆んど全部が、滅茶滅茶に破壊された、亡び行く森の運命を予言して、引き留めるたもとを振りちぎつて、後をくらました巫女みこのやうに、梟も何処へやら影を隠したと見え、啼き声も
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
この地方では、たいてい六七年目に手向たうげ(羽黒)から巫女みこが来て着せるのだという。
巫女みこが強大な勢力をっていることについても、同じようにして解釈ができることと思われるが、もしそうならばこの琉球の民俗から、日本の上代の巫女の状態を類推すべきではあるまい。
巫女みこは白髪の老婆だった。御幣をあげさげしているうちに、体が踊り出す、目がつり上がる。巫女はうわずった声でいった。『ほかはいかん、いかん。紙じゃ、紙の仕事は立板に水じゃ……』
巫女みこなどが問わず語りをするようなものであると、薫は信を置きがたく思いながらも、始終心のすみから消すことのできない疑いに関したことであったから、なお話の核心に触れたくは思ったが
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
皆さまのその一大事のやうな御樣子では——私の母さまも一緒ですわ——これでもつてすつかりこのおたくにあの惡魔と親類筋の正眞正銘の巫女みこがゐるのだと思ひ込んでゐらつしやる御樣子ねえ。
とにかく兄は真面目まじめに坐っていた。嫂も、佐野さんも、お貞さんも、真面目に坐っていた。そのうち式が始まった。巫女みこの一人が、途中から腹痛で引き返したというので介添かいぞえがその代りを勤めた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大原野の巫女みこになるはずだったと云う娘が、去年の賀茂かもの祭の日に突然神隠しに遭ってからと云うものは、あっちにひとり、こっちにひとりと都の童児わくらべどもが、五人も六人も行方ゆくえわからずになって
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
彼女は、かつてのキリウイナ一の巫女みこで、いまもオマラカナの郊外で一人暮しをしている。……しかし、それを教えてくれた古老も、また土民の若者も、だれ一人としてそこに彼を案内したがらない。
蒐集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
頬のいろざしも微笑も影をひそめて、容色は衰ろへ、影は薄れて、美しい眼も泣き枯らしてしまつた。一度、さる人が彼女を憐れに思つて、熊ヶ谷に棲んでゐる巫女みこのもとへ行つてみたらとすすめた。
しわのよった巫女みこのようなとんがり頭の赤んぼまでいる。
巫女みこ共の中で一番すきな女だ。7455
「そうでしょうね。霊媒者なんていうと、私達にはちょっと魔法使いか何んぞのように聞えて、まあ巫女みことでもいった風に考えられますわ。それが突然消えてしまうなんて、昔なら神隠しに逢ったとでもいうんでしょうけど、実際はどうしたんでございましょうね?」
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
むろん、巫女みこ殺し、笛師殺しと、同一人であろう。——しかし、これを見ても分るのは、前の犯罪は、郁次郎の所為しょいでないということだ。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが巫女みこの魔法を修する光景に形どって映写されているようであるが、ここの伴奏がこれにふさわしい凄惨せいさんの気を帯びているように思う。
巫女みこでも市子いちこでも、三十そこ/\の餅肌、惡くねえ女だ。その行水を、始めから終りまで、ヂツと眺めて居るのは、樂ぢやありませんね」