たくみ)” の例文
彫鏤のたくみを盡したる「カミン」の火に寒さを忘れて使ふ宮女の扇の閃きなどにて、この間佛蘭西語を最も圓滑に使ふものはわれなるがゆゑに
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
飛騨のたくみとして木材の扱いに慣れた山間の飛騨人は、弘仁の頃までなお「言語容貌既に他国に異なり」と言われておった。
韓舎人子蒼、取りて一聯として云ふ、推愁不また相覓、与老無期稍と。古句に比して蓋し益〻たくみなり。(老学庵筆記、巻八)
(これにもかぎらずさま/″\の術あり)雁のる処をふるは夕暮ゆふぐれ夜半やはんあかつき也、人此時をまちて種々いろ/\たくみつくしてとらふ。
それによって自然のたくみの微妙さを知るに止まらず、写真や見取図などではうかがえぬ神秘が観察者に雪に対する新しい興味をもたらしてくれるであろう。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
容貌も亦美し、はなはだ美しと傳へらる。汝は筆を載せて從ひ來よ。若し世人の言半ばまことならんには、汝が「ソネツトオ」のたくみを盡すも、これに贈るに堪へざらんとす。
神のたくみが削りなしけん千仞の絶壁、うへたひらに草生ひ茂りて、三方は奇しき木の林に包まれ、東に向ひて開く一方、遙の下に群れたる人家、屈曲したる川の流を見るべし。
花枕 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
見て土器を取上ず呵々から/\打笑うちわらひ將軍の御落胤ごらくいんとは大のいつはり者餘人は知らず此伊賀亮かくの如きあさはかなる僞坊主にせばうず謀計ぼうけいあざむかれんや片腹痛かたはらいたたくみかなと急に立退たちのかんとするを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ソノ俗一変シテ文行ニ篤キ者、玉岡翁ニ始マル。翁いみな謙。あざな子謙。別号笠翁。江都ノ人。姓ハ森氏。壮歳詩ヲ善クシ兼テ書画ニたくみナリ。官ヲはつヲ削リ南総ニ客遊ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
心はたくみなる画師のごとく、種々の五陰を造る。一切世界中、法として造らざるはなし。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
道衍わかきより学を好み詩をたくみにし、高啓こうけいと友としく、宋濂そうれんにも推奨すいしょうされ、逃虚子集とうきょししゅう十巻を世に留めしほどの文才あるものなれば、道衍や筆を執りけん、あるいは又金忠の輩やことばつづりけん
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この間において造仏のたくみが一段の進展をみたことは否定出来ない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それにしても、なんと複雑なたくみあやであろうか
留さんとその女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
斧のにぎりもちて、肩かゞむそまたくみ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
美妙のたくみ施して燦爛さんらんとしてかゞやける
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
そんな悪いたくみの、根ざし深く
彫鏤てうるたくみを尽したる「カミン」の火に寒さを忘れて使ふ宮女の扇の閃きなどにて、この間仏蘭西語を最も円滑に使ふものはわれなるがゆゑに
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
もとは少工しょうくに対する名として、たくみの上席のものの称であった大工だいくの語を、後世一般の木材建築職人に及ぼし、それでもなお不足で、その頭分を棟梁と云い
長吏名称考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
ゆゑに縐布しゞみぬのといひたるを、はぶきてちゞみとのみいひつらん。かくてとしるほどに猶たくみになりて、地をうつくしくせんとて今のごとくちゞみは名のみにのこりしならん。
そうしてこの歴史を調べることによっても今更に感ずるのは、如何いかに自然の秘められたるたくみは深く、人智によるその認識が遅々としているかということなのである。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
神波即山、名ハ桓、初ノ名ハ円桓、尾張甚目寺ノ僧ナリ。詩書並ニたくみナリ。中興ノ初、丹羽花南ノ藩政ヲ執ルニ当ツテ大ニ文士ヲ擢用てきようス。翁モマタ髪ヲ蓄ヘテ官ニ就ク。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
けだし後人と杜詩の古今に妙絶なる所以ゆゑんのもの何処に在るやを知らず、だ一字も亦た出処あるを以てたくみと為すも、西崑酬倡集中の詩の如き、何ぞかつて一字の出処なき者あらん
さけんには皆殺しにするよりほかなし夫には斯々とひそかに酒の中へ曼多羅華まんだらげといふ草をいれ惣手下そうてしたの者へ酒一たる與へければいかでか斯るたくみのありとは思はんやゆめにも知ず大によろこやがて酒宴を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
自然の力あまりありて人間のたくみを加へざる處なれば、草といふ草、木といふ木、おのがじし生ひ榮ゆるが中に、蘆薈、無花果いちじゆく、色紅なる「ピユレトルム、インヂクム」などの枝葉えだはさしかはしたる
道衍のわかきや、学を好み詩をたくみにして、濂の推奨するところとなる。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は決してそんなたくみあやを織ったわけではない。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おの手握たにぎりもちて、肩かゞむそまたくみ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
彼らは所謂飛騨のたくみで、農業の代りに木材の扱いに慣れていたが為に、その慣れた木工の業を以て賦役に当て、調庸の代りにたくみとして京都へ番上したのであった。
雪の全種類の結晶が、気温と水蒸気の量とを変えることにって出来るといったのは実は少し胡魔化ごまかしがあるので、自然のたくみはなかなかそう簡単ではないようである。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
第十二第十三は蘭軒の三子柏軒と茶山の養嗣子くわん惟繩ゐじようとである。蘭軒は柏軒の詩を茶山に寄示きしした。茶山はこれをめて、菅三の詩の未だたくみならざることを言つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
我が若年ぢやくねんのころは鮏あまたとれたるゆゑそのあたひもいやしかりしが、近年はとりうる事すくなきゆゑ価もおのづからむかしにばいせり。年々たくみあらたにしてれふするゆゑ捕へらしたるならん。
浮世絵師窪俊満くぼしゅんまん尚左堂しょうさどうと号してまた狂歌にたくみなりき。今歌麿が『絵本虫撰』の序を見るに
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三たび用ひて愈〻いよいよたくみ。詩の窮り無きを信ず。(老学庵筆記、巻十)
うかがへば折節本陣よりさぶらひ一人出來りぬればすゝみ寄て天一坊樣には明日は御逗留ごとうりうなるや又は御發駕ごはつがに相成やと問けるに彼の侍ひ答て天一坊樣には明日は當所たうしよに御逗留の積なりとぞ答へたりこれは伊賀亮が兼てのたくみにて若も酒井家より明日の出立しゆつたつ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
実に田舎漢でんしやかんの京の門跡を始而見候より驚申候。但したくみときたな細工とを以組詰たるものにて、僕など三日も右之家に居候ものならば、大病に相成候事相違有之まじく被存候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その中からいて来る自然のたくみの持つ一つの雰囲気は私に強い感動を与えた。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
玄機は才智にけた女であった。その詩には人に優れた剪裁せんさいたくみがあった。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)