娘御むすめご)” の例文
然るに、その正道しやうだう潔白なる貴殿が、私共天魔に魅入られ候者に、唯今、娘御むすめごの大病を癒し呉れよと申され候は、何故に御座候や。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
此男やがてひざをすゝめ娘の母にむかこゑをひそめていふやう、今はなにをかつゝみ申さん、われ娘御むすめごと二世の約束やくそくをしたるもの也。
「じつは、わが輩はもと渭水いすい提轄ていかつ(憲兵)をしておったという者だ。そういう裁きには手馴れている。わが輩を娘御むすめごの部屋へ案内するがいい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パリス かういふ愁傷なげき最中さなかには祝言しうげんはなし出來できまい。おうちかた、おさらばでござる。娘御むすめごによろしうつたへてくだされ。
侍女一 もしもし、唯今ただいまのそれは、あの、残らず、そのお娘御むすめごの身のしろとかにお遣わしの分なのでございますか。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はい、以前本町に刀屋を開いておいでになった彦三郎様のお嬢様と申せば、旦那様にも奥様にもおわかりになるそうで、このお娘御むすめごがそれでございます」
「その娘御むすめごは世に美しいお方じゃそうに承りました。きょうもお宿でござりまするか」と、千枝太郎は訊いた。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひと様の娘御むすめごを何といふことだと、その時修一に見た冷酷さが今はわが身に振り掛るかと、寿枝は思つた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
たづねければ口惡善くちさがなき下女の習慣ならひあれこそ近在の大盡だいじん娘御むすめごなるが江戸のさる大店おほだな嫁入よめいりなされしが聟樣むこさま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
からずむかしをいはば三千ごく末流まつりうなりといふ、さらば旗下はたもと娘御むすめごにや、親御おやごなどもおはさぬか、一人ひとりみとはいたはしきことなりと、はやくもそのひと不憫ふびんになりぬ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
近年かたづかれた末の娘御むすめごの産み月が近いので、どうしても小人数の家内を手伝ってやらねばならぬからとの、おことわりの手紙が今度も桜花壇の亭主を失望させた。
花幾年 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
了善上人には御連合おつれあいも先年寂滅じゃくめつなされ、娘御むすめごお一人御座候のみにて、法嗣ほうしに立つべき男子なく、遂に愚僧を婿養子むこようしになされたき由申出され候うち、急病にて遷化せんげ遊ばされ候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「実は、あたくしに取っては、土部さまのお娘御むすめごのことなぞは、どうでもいいのですけれど、あの男を、あのままにほうッて置くわけにはいかない気がしてならないんです」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
何者とも知れない隻腕の剣豪丹下左膳、そこで、刀痕あざやかな顔に強情なえみをうかべ、貼り紙をたてに開きなおって、乾雲丸けんうんまる娘御むすめご弥生どの、いざ申し受けたいと鉄斎に迫った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「さあ、だんだん時刻じこくがおくれます。どくだが、お娘御むすめごしてください。」
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
藩内二百石の馬廻り某氏なにがしうぢ娘御むすめごにしてお奈美殿となん呼べる今年十六の女性なりしが、御家老の家柄にして屈指の大身なる藤倉大和殿夫婦を仲人に立て、娘御の両親も承知の旨答へ来りしてい
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もっとも水戸の士族のお娘御むすめごで出るが早いか倉地さんの所にいらっしゃるようになったんだそうですからそのはずでもありますが、ちっともすれていらっしゃらないでいて、気もおつきにはなるし
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
落魄おちぶれた華族のお姫様じゃと言うのもあれば、分散した大所おおどこ娘御むすめごだと申すのもあります。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘御むすめご出世しゅっせねがひ、その昇進しょうしんをば此世このよ天國てんごくともおもはしゃった貴下こなたが、只今たゞいま娘御むすめごくもうへまこと天國てんごく昇進しゃうしんせられたのを、なんとしてなげかしゃるぞ! おゝ、やすらかにならしゃれたを
貴殿に対しては恩もうらみもなき身なれど、このお小夜殿おさよどのは恩儀ある我が師の娘御むすめごなり。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あれほどの鋭いお方にも、娘御むすめごのお胸の中は、図星を差すことはならぬと見える。長崎屋もいうとおり、そなたが、その美しい顔を見せたなら、たちまちほがらかになるに相違ないに——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それからおもへば松野まつのどのは大層たいそうけられたりとわれ一人ひとり呑込顏のみこみがほ、その松野殿まつのどのとかは娘御むすめごなにぞとはれて、るほどなるほど御存ごぞんじははずなりとて、さら松野まつのためおとがひしばらくはたらかせぬ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「お嬢さまは侍中じちゅう呉質ごしつというかたの娘御むすめごで、平陵へいりょう劉府君りゅうふくんの奥様ですが、府君はさきにおなくなりになったので、唯今さびしく暮らしておいでになります。決して御遠慮のないように」
「そなたは、この家の娘御むすめごか」
おさゆるなみだそできてモシとめれば振拂ふりはら羽織はおりのすそエヽなにさるゝ邪魔じやまくさしわれはおまへさまの手遊てあそびならずおとぎになるはうれしからず其方そなた大家たいけ娘御むすめごひまもあるべしその日暮ひぐらしの時間じかんもを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ロレ しづまりめされ! 如何どうしたものぢゃ! おこってしまうたさわぎは、さわげばとてをさまるものではない。そも/\この娘御むすめごてん貴下こなた兩有りゃうもちぢゃ、いまてん獨有ひとりもちとなったは娘御むすめごためには幸福しあはせ