大道だいどう)” の例文
馬方うまかた馬方うまかた喧嘩けんくわをはじめました。すなツぽこりの大道だいどうべたで、うへになつたりしたになつたり、まるであんこ のなか團子だんごのやうに。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
六時をすぎて七時となれば、見わたす街は再び昼の熱閙ねつとうと繁劇にかえりて、軒をつらねたる商家の店はすべ大道だいどうに向って開かれぬ。
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
児玉氏が訪ねて往つたうちに、鉄道院の大道だいどう良太氏の実家があつた。ちやうど夏の事で、大道氏は大学の制帽をかぶつて帰つて来てゐた。
やいっ、どこの馬の骨かしらねえが、この掲陽鎮けいようちんへ来て、よくも無断で洒落しゃらくせえヘボ武芸をおとりに、大道だいどうかせぎをしやがったな。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大手を振って、薄汚ない服を着ながら、大道だいどうせましと乗り込んだ吾等一行の有様を見て、細い目を見張ったのも痛快じゃった。
泰軒先生み声をはりあげて、お美夜ちゃんに、チョビ安のうたを習いながら、ブラリ、ブラリ、大道だいどうせましとやって来る。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かれはいろいろの職業しょくぎょうに手を出してみましたが、どれもうまくいきません。そこでとうとう犬をらして、大道だいどう見世物師みせものしにまで落ちることになりました。
支那の大道だいどう手品師の様な恰好で、銀の竿をあやつり、巧みにそこの留金を廻して、蝶番の板を開いてしまった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
瓦町の入口で七輪を造る土捏つちこねを長い事見ていた。櫛田神社の境内では大道だいどう手品に人だかりがしていた。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
尾張町おわりちょうの角を左に曲って、ややしばらく大道だいどうを走ると、とある横町を右に入って、それからまた狭い小路を左の方へ折れ、やがて一軒のカフェの前に車を止めさせた。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
目に見えないような大道だいどうの白い砂が、お島の涙にぬれた目や頬に、どうかすると痛いほど吹つけた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
現にまた同じ新聞の記者はやはり午後八時前後、黄塵をうるおした雨の中に帽子をかぶらぬ男が一人、石人石馬せきじんせきばの列をなした十三陵じゅうさんりょう大道だいどうを走って行ったことを報じている。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
まず人倫の大道だいどうである親と子のあいだに堅い結びつきのない社会は、その大道をもととしなくてはならない枝葉しようの道の、どうしてとどこおりなく通ってゆくことができましょう。
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
そのまっ黒によごれた手をいきなり引っつかんで熱い口びるでかみしめていたわってやりたいほどだった。しかし思いのままに寄り添う事すらできない大道だいどうであるのをどうしよう。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この男は何の必要があってか知らないけれども、絶えず大道だいどうで講演でもするように大きな声を出して得意であった。そうして下女が来ると、必ず通客つうかくめいたいきがりを連発した。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじ大道だいどう、炎天のもとひらけつゝ、日盛ひざかりの町の大路おおじが望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交ゆきかふ人は点々と蝙蝠こうもりの如く
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
岸の上なる水茶屋には赤き塗盆ぬりぼん手にして佇立たたず茶汲ちゃくみの娘もろとも、床几しょうぎいこふ人々面白げに大道だいどう芸人が子供集めて長き竹竿たけざおの先にたらい廻しゐるさまを打眺めたり。ちゅうの巻ここに尽く。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
世にはこれよりも更にだいなる悪、大なる罪を犯しながら白昼大手を振りて、大道だいどう濶歩かっぽする者も多かるに、だいわすれてしょうを拾う、何たる片手落ちの処置ぞやなど感ぜし事も数〻しばしばなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
開卷第一かいかんだいゝちに、孤獨幽棲こどくゆうせい一少年いつしようねん紹介しようかいし、その冷笑れいしようその怯懦きようだうつし、さらすゝんでその昏迷こんめいゑがく。襤褸らんるまとひたる一大學生いつだいがくせい大道だいどうひろしとるきながら知友ちゆう手前てまへかくれするだんしめす。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
だ宵ながら松立てる門は一様に鎖籠さしこめて、真直ますぐに長く東より西によこたはれる大道だいどうは掃きたるやうに物の影をとどめず、いとさびしくも往来ゆききの絶えたるに、例ならずしげ車輪くるまきしりは、あるひせはしかりし
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は今このパオの中の新しい生命を彼の家に移し植えて、多くの幸福を収めたいのであった。太陽も出て来た。彼のめのまえには一条の大道だいどうが現われて、まっすぐに彼の家まで続いていた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
大道だいどうめぐり、大道めぐり」
ざしき童子のはなし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かしげていました。うちの玉ちゃんは識らない大道だいどう商人あきんどのあとへ付いて行くような筈は無いと云うのです。そう云っても、子供のことですからねえ
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
暫くすると、氏は小便がしたくなつたのに気がついた。ソクラテスが説教をするのに大道だいどうを選むだやうに、酔ツ払ひは尿しゝをするのに、それ/″\恰好な場所を知つてゐる。
大道だいどうも狭いと云わんばかりに蹣跚よろめいてゆく酔漢の背後に、半纏着の男はつつと迫っていった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
災後、新に開かれたセメントじき大道だいどうは、黒亀橋から冬木町ふゆきちょうを貫き、仙台堀に沿うて走る福砂通ふくさどおりと称するもの。また清洲橋から東に向い、小名木川と並行して中川を渡る清砂通きよさどおりと称するもの。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
首尾しゅびよくドッという嘲笑ちょうしょうを、大道だいどう見物人けんぶつにんからあびてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蛇食い又は蛇使いの大道だいどう芸人となって諸国を渡りあるいた末に、予章よしょうという所に足をとどめて、やはり蛇を使いながら十年あまりも暮らしていました。
大道だいどうのまん中で風にられた帽子を追つかけるのは、男子をとこが全力を尽してやるべき真面目な大事業だと言つたが、世の中に帽子ほどよく転がり、帽子ほどよくひとのと間違へられるものはない。
この飴細工と糝粉しんこ細工とが江戸時代の形見といったような大道だいどう商人あきんどであったが、キャラメルやドロップをしゃぶる現代の子ども達からだんだんに見捨てられて
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのあいだにむしろを敷いて大道だいどうに坐っている一人の男が、半紙を前に置いてしきりに字を書いていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まったく一年まえの彼であったら、憎い治六の襟髪をつかんで、大道だいどうへ引き摺り出して踏み殺すか。又は身を放さない村正の一刀を引き抜いて、彼をまっ二つに断ちはなすか。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その間にむしろを敷いて大道だいどうに坐っている一人の男が、半紙を前に置いてしきりに字を書いていた。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
馬に乗り、弓矢をたずさえ、大道だいどうを往来して旅びとをおびやかしたこともあります。そのうちに或る日のこと、一人の少年が二つの大きいふくろを馬に載せて来るのに逢いました。
林之助の言うことは大道だいどううらないの講釈のように嘘で固めていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)