-
トップ
>
-
夕顏
>
-
ゆふがほ
さもあらばあれ、
夕顏の
薄化粧、
筧の
水に
玉を
含むで、
露臺の
星に、
雪の
面を
映す、
姿また
爰にあり、
姿また
爰にあり。
月影は、
夕顏のをかしく
縋れる
四ツ
目垣一重隔てたる
裏山の
雜木の
中よりさして、
浴衣の
袖に
照添ふも
風情なり。
夕顏には、
豆府かな——
茄子の
苗や、
胡瓜の
苗、
藤豆、いんげん、さゝげの
苗——あしたのおつけの
實は……
二時さがりに
松葉こぼれて、
夢覺めて
蜻蛉の
羽の
輝く
時、
心太賣る
翁の
聲は、
市に
名劍を
鬻ぐに
似て、
打水に
胡蝶驚く。
行水の
花の
夕顏、
納涼臺、
縁臺の
月見草。
棚して
架るとにもあらず、
夕顏のつる
西家の
廂を
這ひ、
烏瓜の
花ほの/″\と
東家の
垣に
霧を
吐きぬ。
強ひて
我句を
求むるにはあらず、
藪には
鶯の
音を
入るゝ
時ぞ。
蟋蟀でさへ、
其の
蟲は、
宛然夕顏の
種が
一つこぼれたくらゐ
小くつて、なか/\
見着かりませんし、……
何うして
掴まりつこはないさうです……
貴女がなさいますやうに
この
朝顏、
夕顏に
續いて、
藤豆、
隱元、なす、さゝげ、
唐もろこしの
苗、また
胡瓜、
糸瓜——
令孃方へ
愛相に(お)の
字をつけて——お
南瓜の
苗、……と、
砂村で
勢ぞろひに
及んだ、
一騎當千
玉簾の
中もれ
出でたらんばかりの
女の
俤、
顏の
色白きも
衣の
好みも、
紫陽花の
色に
照榮えつ。
蹴込の
敷毛燃立つばかり、ひら/\と
夕風に
徜徉へる
状よ、
何處、いづこ、
夕顏の
宿やおとなふらん。