しら)” の例文
それは中国の心臓を漢青年に握られるようなものだ。だから当分のうち時局の切迫を漢青年にしらせずに置くことが、必要だったのだ。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
きさきが一人自分から生まれるということに明石のしらせが符合することから、住吉すみよしの神の庇護ひごによってあの人も后の母になる運命から
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その小鬼が、一晩じゅう雨に紛れてこの家のまわりを迂路うろついていた——祖母は、それを自分のお葬式のしらせであると取りました。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
縁伝いにあらい足音が聞えて、十太夫が再びここにあらわれた。それは客来のしらせではなかった。彼は眼をいからせて主人に重ねて訴えた。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
御輿の近づいたことを、お仙がしらせに来た。女連おんなれんは門の外まで出た。そこから家々の屋根、町の中央を流れる木曾川が下瞰みおろされる。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
空には例の球帽が、みるみるうちに拡がり、そのくっきりと暗い縁飾ふちかざりを、前へぐんぐん押し出していることをしらせ合うのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
そして、刻々の状況は、大手から中門を通り、直接庭づたいに、ここに報じられ、勝頼は、縁越しに早打のしらせまで、自身聞いていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「フランソア・コツペエが亡くなりました。御主人がまだ御存知でなければ一寸しらせて上げて下さい。」と出鱈目でたらめな事を言つた。
で、師匠の気息いきを引き取られると、直ぐにその番頭さんがけ附けて参り、間もなくしらせによっての高橋定次郎氏も駈けつけて参られた。
知らせる位なら、園絵はかれが妻じゃ。いたのかれたのという新妻じゃ。まず、弟よりも妻へしらせそうなものではないか
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だから、新聞で凱旋の記事を見たとき、今泉はもうどんなにしてもそのことを知るかぎりの人に、誰でもいゝ、しらせたくてたまらなかつたのだ。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
「このうるさい子猿つたら!」(アデェルをさう呼びながら)、「そんなうそしらせなんぞ云はせようと思つて、あんたをこの窓にのぼらせたのは誰?」
たのしいしらせじゃない。歌川多門はカゼをひいたところへビールをのみすぎてオナカをこわして、ちょうど私達が来た日の朝から寝ていたのである。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
途中から実家へ帰ることを許されたとのしらせが、すでにきのうの朝、伊吹屋一家を、有頂天うちょうてんにさせていたのだった。
故マクス・ミュラー説に、鸚鵡おうむすら見るに随って雄鶏また雌鶏の声を擬し、自ら見るところの何物たるを人にしらす。
はじめロス氏は、保母が責任を感じて狼狽ろうばいしているわりに、このしらせを軽く受け取って、暢気のんきに聞き流した。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
あの平凡な世界、普通の世界、多数の世界、公の世界、誰も独占することのない共有のその世界、かかるものに美が宿るとは幸福なしらせではないでしょうか。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
豚の牧者が驚いてしらせたので、あちらの町からもこちらの里からも人々が「何だ何だ」とたくさん出てきた。
さて今度は自分のことを、僕たち自身のことを君にしらせたい。それは、君もまたそういうやり方で僕に返事をくれなければならない手本を一つ君に上げるためさ。
急を外部へしらせるために郡守小笠原敬太郎は吉川視学の案内によっていち早く場を外へとのがれ去った。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「ことによると、今夜もたないかも知れませんよ。御親類へおしらせになった方がよろしいでしょう。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「君とはほんとにしばらくだね。お杉さんのここにいるのは、実は今日初めて甲谷に聞いたんだが、僕んとことは近いじゃないか。どうしていままでしらせなかったんだ。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
妹が婚家を去ったというしらせをきいて、猿ヶ京へ飛び帰り、厚く妹を慰めそして謝した。
猿ヶ京 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
舟入川口町にある姉の一家は助かっているというしらせが、廿日市の兄から伝わっていた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
小生ただいま居所不定、(近くアパアトを捜す予定)だから御通信はすべて社あてに下さる様。住所がきまったなら、おしらせする。要用のみで失敬。武蔵野新聞社学芸部、長沢伝六。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
再開の通知を貰うと、折返し、値段をしらせろと言ってやったので、それが届いた。
富士屋ホテル (新字新仮名) / 古川緑波(著)
立ちがつて、たもとから手帛ハンケチして、はさみいてゐる所へ、門野かどのが平岡さんが御出おいでですとしらせてたのである。代助は其時平岡のことも三千代の事も、丸であたまなかに考へてゐなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
といったようなボソボソ話を聞くともなく耳に止めながら……自分が死んだしらせを聞いて、口をアングリと開いたまま、眼をパチパチさせている人々の顔と、向い合って微笑しながら……。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今ネ、何処どこからか電話で、——何でも警視庁とか云つてでしたの——しらして来たんです、阿父おとつさん阿母おつかさんに話してらしつてよ、是れでやうやく松島さんへ、おわびが出来るつて、ほんとに左様さうだわねエ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
もとより発車をしらせるべるも無ければ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
というしらせを聞いた源氏は愛人によってはじめての女の子を得た喜びを深く感じた。なぜ京へ呼んで産をさせなかったかと残念であった。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その年の師走しわすの十三日、おせきのうち煤掃すすはきをしてゐると、神明前の親類の店から小僧がけて来て、おばあさんが急病で倒れたとしらせた。
大分だいぶん以前の話だが、独帝カイゼルには伯母さんに当る英国のヸクトリア女皇ぢよわうくなられて、葬儀の日取が電報で独帝カイゼルもとしらされて来た事があつた。
「福原の入道相国には、何をまた、思いたがえたか、物々しゅう軍馬を呼びあつめて、の地より入洛じゅらくあるとのしらせである」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御多忙中ですが、明朝、主人もその家を見に参りますから、あなたも御一緒にお出でを願って決定して頂きたいと主人からのおしらせですということ。
無論伯父は自分の好きなやうにする權利はあります。でも、あんなしらせを受取ると一寸心に暗い影がさしますよ。
鈴の音が、いま汽車を降りた新しい客の到着をしらせた。前から来ている知人達が迎えに走り出て、男も女も、女同士も男同士も、かわがわる頬へ接吻し合った。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
来るたびに近所の酉年生れの女の名をしらした。酉年の女が頻繁に姿を隠し出したのはそのころからであった。
「駄目です」と課長は不機嫌にわめいてから、「だが、昨夜また犠牲が出たんです。今朝がたしらせて来ました」
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宅では商人の行伴つれ来りてこの家の子は竜宮へ往ってしもうたとしらせたので、眷属宗親一処にあつまり悲しみく、ところへまたかの者生きて還ったと告ぐる者あり
彼女の出現は、かえってエリク・ヘンダスンに事態の逼迫ひっぱくしていることをしらせるに役立っただけだ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
梶は友人をある会社に尋ねて今日から東京へいよいよ落ちつくことをしらせにいった。
厨房日記 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そこへ病院から電話で、今白痴が息をひきとったというしらせがあったのである。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
立ち上がって、たもとから手帛ハンケチを出して、鋏の刃をいている所へ、門野が平岡さんが御出ですとしらせて来たのである。代助はその時平岡の事も三千代の事も、まるで頭の中に考えていなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょっとしらしてほしいとそのことを母親に頼んで帰って行ったが、途中で小石川の伝通院前の赤門の家で占いの名人のあるということを想い出して、ふとそこへ行っててもらう気になった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
専門猟師がやりで突き殺したのであるというしらせである。
老狸伝 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
夕飯時をしらせる寺の鐘が谷間に響き渡った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その年の師走の十四日、おせきの家で煤掃すすはきをしていると、神明前の親類の店から小僧が駈けて来て、おばあさんが急病で倒れたとしらせた。
影を踏まれた女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お胸が苦しくて朝の時が進んでも御寝室をお離れにならないのを、こうこうとしらせがあって源氏の大臣が驚いて参内した。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
さとったらしく、急に山道を迂回うかいして、瀬戸峠から、足助あすけの町のほうへ下って行くとのしらせ——それが、山中ばかり追い歩いた四日目の午頃ひるごろだった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)