嘲笑ちょうしょう)” の例文
「そうだ、これこそ人生だ、貧乏と、屈辱と、嘲笑ちょうしょうと、そして明日の望みのなくなったときこそ、はじめて我々は人生に触れるのだ」
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それで彼は、彼のめちゃな言葉を聞いて給仕ボーイ嘲笑ちょうしょう的な様子をしたのを、ひどく気に病みながらも、いて平気でいようとつとめた。
この説を初めから問題ともしないでいたずらに嘲笑ちょうしょうの的にしようとする人のみ多い事にも疑いをいだかないわけには行かなかった。
そうかと云って、そうであるまいとすると、私はてんから、情熱と魂を嘲笑ちょうしょうしてしまうような気がする。私は果して書きうるのか。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あらゆる多くの人々の、あらゆる嘲笑ちょうしょうの前に立って、私は今もなお固く心に信じている。あの裏日本の伝説が口碑こうひしている特殊な部落。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
巻煙草だのパイプだのをくわえたのや、頭巾ずきんをかぶったのや、無作法な嘲笑ちょうしょうを浮かべた頭が、そこからにょきにょき突き出された。
わたしは北京ペキン滞在中、山井博士や牟多口氏に会い、たびたびそのもうを破ろうとした。が、いつも反対の嘲笑ちょうしょうを受けるばかりだった。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その時分のいきおいからいうと、日本的なもの、伝統的なもの、と説くことが因循姑息こそくなものとして、嘲笑ちょうしょう軽蔑けいべつされやすい立場にあった。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
まさか親子連れで火をつけに歩きまわるやつもなかろうじゃないかと私は嘲笑ちょうしょうしてやったんだ、それにしても疑われるのは損だからね
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ほんの一瞬の差が一時間のあとには莫大ばくだいもない懸隔をつくるのである。今の安倍には、慰めや同情も罵詈ばり嘲笑ちょうしょうとおなじであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
言うこともほかにありそうなものを自分の悲しみを嘲笑ちょうしょうするにあたるようなことをお言いになるとはと院は心に思召おぼしめしながらも
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
遠い国許にいる知辺しるべの顔が、みな嘲笑ちょうしょうの歯を向けているようにひがまれる。いや僻みではない、当然そう思われているに違いない。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二十面相は、この最後の大場面をかざるために、思い出の青銅のよろいを身につけて、追手に見せびらかし、追手を嘲笑ちょうしょうしているのです。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わざと一番を敬遠したくなる競馬心理を嘲笑ちょうしょうするように、やはり単で来て、本命のくせに人気が割れたのか意外な好配当をつけたりする。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
このような手紙を、もし嘲笑ちょうしょうするひとがあったら、そのひとは女の生きて行く努力を嘲笑するひとです。女のいのちを嘲笑するひとです。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
漸く彼は自分の意志から進むことが出来そうに成って来た。彼は種々な方面から自分の身に集って来る嘲笑ちょうしょうを予期した。非難を予期した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私たちの常識は、こういう望みがこの世の中に在るということに対してすら、ひょっとかすれば真面まとも嘲笑ちょうしょうを浴びせてしまうかも知れない。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ちいさな、てんしんらんまんたる幼子だからこそ、赤ン坊でいえば虫が笑わせるといった笑い——この場合では嘲笑ちょうしょうを禁じ得なかったのだ。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この上ははじを忍び、あえて満都まんと嘲笑ちょうしょうに耐えて、しっかりした推理の足場を組みたてて事件の真相をつかまなければならない。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
Kは女中の言うことを考えこんだようにじっと聞いていたが、ほとんど嘲笑ちょうしょう的な眼差まなざしをして、驚いているグルゥバッハ夫人のほうに振返った。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
そしてなにかわたしにわからないことを言うと、夫はふふんとわらった。かの女の冷淡れいたんと、わたしの父親の嘲笑ちょうしょうとがふかくわたしの心をきずつけた。
かくのごとき問題を取り扱うには、嘲笑ちょうしょうはその場所を得ないように吾人には思われる。善も悪も、すべてが真剣なのである。
当時の社会主義運動には「分派」の争いが激しく、憎悪、反感、罵詈ばり嘲笑ちょうしょう、批難、攻撃が、ずいぶんきたならしく両派の間に交換されていた。
赤旗事件の回顧 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
世の嘲笑ちょうしょうや批難に堪えてゆけるだけの確乎かっこたるものはなかったが、どうかすると、彼はよく昂然こうぜんと、しかし、低くつぶやいた。
苦しく美しき夏 (新字新仮名) / 原民喜(著)
細い目のちょいと下がった目尻めじりに、嘲笑ちょうしょう的な微笑を湛えて、幅広く広げた口を囲むように、左右の頬に大きい括弧かっこに似た、深い皺を寄せている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
大坂ダイハンは、熊本と、もう何回接吻せっぷんをした」 とか 「おしりにさわったか」とか、あるいは、もっと悪どいことをうれしそうにいって、嘲笑ちょうしょうするのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
十八世紀の「素朴人」をもってしても、嘲笑ちょうしょうするには足りる。しかし今日の力戦のためにはそれはあまりに虚弱である。英雄が必要である。英雄たれ!
世間の非難と嘲笑ちょうしょうを一身に集めたような葉子との関係にも、肩身の狭い思いがしているので、少しばかりのことで気まずい思いをするのもいやだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あの人は芝居というものを信用しないで、いつもわたしの夢を嘲笑ちょうしょうしてばかりいた。それでわたしも、だんだん信念がせて、気落ちがしてしまったの。
どッ! と、浪のような笑声が、諸士の口から一つに沸いて、初春はるらしく、豊かな波紋はもんを描いた。が、笑い声は長閑のどかでも、どうせ嘲笑ちょうしょうである。愚弄ぐろうである。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
弱音を吹いて見たところで、いたずらに嘲笑ちょうしょうを買うまでで、だれあって一人同情をよせるものもない。だれだってそうだといわれて見るとこれきりの話だ。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
不思議にも人情は今までのところ茶碗ちゃわんに東西相合している。茶道は世界的に重んぜられている唯一のアジアの儀式である。白人はわが宗教道徳を嘲笑ちょうしょうした。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
彼と一緒になって嘲笑ちょうしょうもしなかったかということは、多くの不安な年月のあいだ、私には解きえぬなぞであった。
嘲笑ちょうしょう、私語。気違い、気違いなどとささやき合っている。……文麻呂の背後には、正装した大納言大伴ノ御行。……
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
それは何時の間にか私のたまらなくなる種類のものをやります。先程の婦人がそれにつれて踊るであろうような音楽です。時には嘲笑ちょうしょう的にそしてわざと下品に。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
どこか夢想的むそうてきな所があり、そのため、相当な位置にいたにもかかわらず、いつも人々の嘲笑ちょうしょうを買っていた。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
専門学者はすべてその虚構を嘲笑ちょうしょうしたのであるが、その後専門学者がだんだん研究に着手してみると、ただにベルト氏の言った事が間違いにあらざるのみならず
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
それが嘲笑ちょうしょうの意味でなくって、好意から来たものか、また好意らしく見せるつもりなのか、私は即坐に解釈の余地を見出みいだし得ないほど落付おちつきを失ってしまうのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぼくは、自分の弱さをそのまま投げかえされ、嘲笑ちょうしょうされるのは、もうたくさんだと考えたのだ。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
女を甘やかす今の欧羅巴ヨーロッパの„Dame“社会状態は、全亜細亜アジヤ人からも、それから古代希臘ギリシヤ、古代羅馬ロオマの人々からも嘲笑ちょうしょうされるにまっているといったショペンハウエルは
(新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
佐助はこの事が春琴に知れたら定めし機嫌を損ずるであろうただ与えられた手曳きの役をしていればよいのに丁稚の分際ぶんざいで生意気な真似まねをすると憫殺びんさつされるか嘲笑ちょうしょうされるか
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのような人間が虚栄的であることは何人も直ちに理解して嘲笑ちょうしょうするであろう。しかるに世の中にはこれに劣らぬ虚栄の出来事が多いことにひとは容易に気附かないのである。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
もっともタミル族の女給どもは、老博士を、というよりも、いつも博士の椅子を嘲笑ちょうしょうしたのだが、しかし、この椅子の存在なくしては、博士自身の存在もあり得ないのである。
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
多勢の顔には、驚きと非難と、そしてほのかな嘲笑ちょうしょうが浮んで来ます。この時、狭い川を隔てて猿屋町のお角の家からは、三味線のにつれて、なまめかしい歌が漏れていたのです。
金魚のように風に吹かれている芝居小屋の旗をみていると、その旗の中にはかつて私を愛した男の名もさらされている。わっは、わっは、あのいつもの声で私を嘲笑ちょうしょうしている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
市井しせいの間の小人の争いて販売する者の所為しょいと何を以てか異ならんや、と云い、先賢大儒、世の尊信崇敬するところの者を、愚弄ぐろう嘲笑ちょうしょうすることはなはだ過ぎ、其の口気甚だ憎む可し。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
極めて生真面目きまじめにして、人のその笑えるをだに見しものもあらざれども、かたのごとき白痴者なれば、侮慢ぶまんは常に嘲笑ちょうしょうとなる、世に最もいやしまるる者は時としては滑稽こっけいの材となりて
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俺は貴女のその笑顔を、初はどんなに楽しんでいたか分らないが、だん/\見ていると、貴女のその美しい笑顔の皮一つ下には、俺に対する憎悪ぞうお嘲笑ちょうしょうとが、一杯にちているのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
毎日石造りの陰鬱いんうつな大きな部屋に通って、慣れない交換台に向かって、加入者の罵声ばせいを浴び、仲間からは粗末な服装を嘲笑ちょうしょうされ、両親から譲られた唯一のものである美貌びぼう嫉視しっしされて
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
かれはその食事をも終わることができなく、嘲笑ちょうしょう一時に起こりし間を立ち去った。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)