周囲ぐるり)” の例文
旧字:周圍
で、もう逃げて居らんのかと思うとまたくるくると廻って自分の近くに来て居る。いつまでもくるくる人の周囲ぐるりを廻って見て居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そりゃ御父さんの三十もおれの三十も年歯としに変りはないかも知れないが、周囲ぐるりはまるで違っているんだからそうは行かないさ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
半分開いた眼が硝子ビイドロのゴト光って、頬ベタが古新聞のゴト折れ曲って、唇の周囲ぐるりが青黒うって、水を遣っても口を塞ぎます。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と法水が、聖像の周囲ぐるりにある雪を払い退けると、鍛鉄の十字架から浮び上った痛ましい全身には、みるみる不思議な変化が現われていった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
雷神山の急昇りな坂をあがって、一畝ひとうねり、町裏の路地の隅、およそ礫川こいしかわ工廠こうしょうぐらいは空地くうちを取って、周囲ぐるりはまだも広かろう。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まずクック氏は、蛇類は建築物や著しき廃址に寓し、いけかべ周囲ぐるりい、不思議に地下へ消え去るので、鳥獣と別段に気味悪く人の注意をいた。
白い長上衣スヰートカを著た若者は、自分の荷馬車の傍に坐つたまま、がやがやとざわめく周囲ぐるりの人波をぼんやり眺めてゐた。
周囲ぐるりにはほどよく樹木じゅもくえて、丁度ちょうど置石おきいしのように自然石じねんせきがあちこちにあしらってあり、そして一めんにふさふさした青苔あおごけがぎっしりきつめられてるのです。
それは幼い雛妓おしやくんで遊ぶ事で、枯れかけた松の周囲ぐるりに、小松を植ゑると、枯松までが急に若返へるやうに、訥子はかうしてをんなの若さを自分のものにしてゐる。
肉が無慙むざんにはぜておりますが不思議なことに、竹光を突っ立てた傷の周囲ぐるりに、二ヶ所ほど、別の軽い傷があって、それは、洗ってみると、血がにじんだ様子もありません。
「マッチはないかね。このパイプはほんとにマッチ喰いだ」マシュースは然う云いながらも周囲ぐるりの物に鋭く眼を働かせていた。そしてスパイダーが渋々差出したマッチを受取ると
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
塀で構われた小さな馬場を思わせる空地の周囲ぐるりの桜の木々が一時に満開して、そこへ町家の人たちが緋毛氈ひもうせんを敷き、重詰めを開き、ちろりのお酒をお燗して、三味線を弾いてさんざめいた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
俺の足の下には大地だいちがある。俺の爪先は、日々夜々に地心へと向うて入って行く。俺の周囲ぐるりには空気と空間とがある。俺は此周囲に向うて日々夜々に広がって行く。俺の仕事は此だ。此が俺の仕事だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あいつは昨夜ジナイーダが結婚すると云う噂に亢奮して、終夜よっぴてこの周囲ぐるり彷徨うろつき歩いていたと云うのだがね。しかし、あの男は犯人じゃない。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私の周囲ぐるりを取りいている青年の顔を見ると、世帯染しょたいじみたものは一人もいません。みんな自由です、そうしてことごとく単独らしく思われたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その周囲ぐるりは五、六尺高さの石塀で、入口の門はシナ風の優美なる門です。その中へみな集まってお経を読む。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
親仁おやじがその時物語って、ご坊は、孤家ひとつや周囲ぐるりで、猿を見たろう、ひきを見たろう、蝙蝠こうもりを見たであろう、うさぎも蛇も皆嬢様に谷川の水を浴びせられて畜生ちくしょうにされたるやから
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
最初、くち周囲ぐるりがムズ痒いような気持で、サテはちっと中毒ったかナ……と思ううちに指の尖端さきから不自由になって来ます。立とうにも腰が抜けているし、物云おうにも声が出ん。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
不図ふとがついてると、むかうのがけすこけずったところ白木造しらきづくりのおみや木葉隠このはがくれにえました。おおきさはやくけんほう屋根やねあつ杉皮葺すぎかわぶき前面ぜんめんいし階段かいだん周囲ぐるり濡椽ぬれえんになってりました。
周囲ぐるりの団子雲を見ていると、いつとなく(私は揺する、感じる、私は揺する)の、甘い詩のオレンジが思い出されてきて、心に明るい燦爛プントハイトが輝くのだ。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
余はただ仰向あおむけに寝て、わずかな呼吸いきをあえてしながら、こわい世間を遠くに見た。病気が床の周囲ぐるり屏風びょうぶのように取り巻いて、寒い心を暖かにした。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
親仁おやぢ其時そのとき物語ものがたつて、御坊ごばうは、孤家ひとつや周囲ぐるりで、さるたらう、ひきたらう、蝙蝠かうもりたであらう、うさぎへびみんな嬢様ぢやうさま谷川たにがはみづびせられて、畜生ちくしやうにされたるやから
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると、その凹んだ痕の周囲ぐるりには、まるで赤ぼうふらみたいな細い血の管が、すうっと現れては走り消えて行くのさ。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
になると、雨でも、風でも、稲葉屋の周囲ぐるりを、胡乱うろつき廻って、稲荷さんの空地にしゃがんでもいりゃ、突当りの黒塀に附着くッついて立明たちあかす……そうして声を聞く、もの音を考えるですだい。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その喪車の周囲ぐるりに垂れた黒い幕が揺れるたびに、白綸子しろりんずおいをした小さな棺の上に飾った花環がちらちら見えた。そこいらに遊んでいた子供がけ寄って来て、珍らしそうに車をのぞき込んだ。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何故かと申しますなら、あの周囲ぐるりにある七葉樹とちの茂みの中には、電鈴を鳴らす開閉器スイッチが隠されているからでございます。するとどうでございましたろう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
くしゃみもならず、苦り切って衝立つッたっておりますると、蝙蝠は翼を返して、ななめに低う夜着の綴糸とじいとも震うばかり、何も知らないですやすやと寐ている、お雪の寝姿の周囲ぐるりをば、ぐるり、ぐるり、ぐるりと三度。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それより、一体どこに推定の根拠があるのか?——法水の意外な言葉に、周囲ぐるりの人々はいっせいに驚かされた。が、ジナイーダだけは水のように静かだった。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そして、かしと角石とで包まれた沈鬱な死の室の周囲ぐるりへ、それが渦のように揺ぎ拡がってゆくのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
周囲ぐるりを嘲るように云い放ったとき、検事はその言葉の魅力に、思わずも引き入れられてしまった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのかたわらに、妙なかごのようなものを背負った妻の滝人、次男である白痴の喜惣きそう、妹娘の時江——と以上の五人を中心に取り囲み、さらにその周囲ぐるりを、真黒な密集がうごめいていたのである。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その時は、原因が周囲ぐるりにあったのではなく、今度は小式部の眼の中にあったのです。と申しますのは、何度も逆かさ吊りになると、視軸めのなかが混乱して、視界あたりが薄暗くなって来るのです。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
海霧ガスドアの隙からもくもく入り込んで来て、二人の周囲ぐるりけむりのようになびきはじめた。が、それを聴くと、法水は突然坐り直したが、すると頭上の霧が、漏斗じょうごのように渦巻いて行くのだ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
然し、その日のように雛段が飾られて、紅白に染め分けられた雪洞の灯が、朧ろな裾を引き始めて来ると、そこにはまた別種の鬼気が——今度は、お筆の周囲ぐるりから立ち上って来るのだった。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)