かん)” の例文
この材料を見分けることは、なかなか容易なことではなく、むずかしいことですが、注意の修練、かんによってできますものであります。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
いよ/\お糸は津志田家へ入り込むことになつたが、奧方のお高樣は、女のかんの良さで、どうしてもお糸を嫁にすることを承知しない。
ゆづりしとぞこゝに又丁山と小夜衣の兩人はほどなく曲輪くるわを出てたり姉の丁山二世と言替いひかはせし遠山とほやまかん十郎と云し人も病死なせしかば其跡を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
後家の鐙を買合かいあわせて大きい利を得る、そんなうまい事があるものではないというところにかんを付けて、すぐに右左の調べに及ばなかったナと
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのご機嫌を見計らって、取りまきの湯女ゆなのおかんとお千代が、しきりに浅草の景気をそそったので、つい、かごを四つあつらえてしまった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸術家というものは、かんの強いものだそうだから、何か虫の知らせとでもいうものがあったのかも知れない。すこし感心する。
十二月八日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「でも、近所の人様が可愛がって下さる上に、私は御方便にかんがようございますから、世間並みの盲目めくらのように不自由な思いは致しません」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかも、早のみこみで、かんぐりで、小才がある。かういふ女がおつちよこちよいをけしかけたのだから、小喧嘩こいさかひは絶えない筈ではなからうか。
凡愚姐御考 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
と大分横柄おうへい……中に居るもののひげのありなしは、よく其のかんで分ると見える。ものを云ふ顔が、反返そりかえるほど仰向あおむいて、沢の目には咽喉のどばかり。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
子供はかんがいい。それに、人の教えをよく守る。十二、三回、糸を波に送り流し、餌を取られるうちに、うぐいが餌に絡まる振舞を呑み込んだらしい。
小伜の釣り (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
「さようなあ。もういいかげん出てきそうなもんだが、こう長くかかるところを見るてえと、こりゃあひょっとすると大物のチャンバラだぜ。なあかん
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
人一倍にかんのいいらしい彼は、平助が身動きしたのを早くも覚って、たちまちにその針のようなものを押隠した。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かんちゃんと云って、私より二ツ三ツ年上で、獅子ッ鼻の、色の真黒けなだったが、斯ういうのに限って乱暴だ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
振返って慥かめるまでもない、よく話に寄った女房のひとりで、亭主が舟八百屋をしているおかんという女だ。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分ばかりが博識ものしりがるものなり、菊塢きくう奥州おうしうよりボツト出て、堺町さかひてう芝居茶屋しばゐぢやや和泉屋いづみやかんらうかた飯焚めしたきとなり、気転きてんくより店の若衆わかいしゆとなり、客先きやくさき番附ばんづけくばりにも
隅田の春 (新字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
しかしかれはもうこの頃はかんができて、姿は見えなくても、そこにはぜんぜん誰もいないのか、ガン人がそこにいるのかを感じわけることができるようになっていた。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうしてかんづいたのか、祥子の行った例の地下室は空っぽだったが、一味がジャンクで逃げたのをつきとめて手配をしている中に、わが海軍の沿岸警備艇に引っ捕えられた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
自分と同じような心持ちを経験した人ならば、ただこれだけで、なるほどあれだなと、すぐかんづくだろう。また経験した事がないならば、それこそ幸福だ、けっして知るに及ばない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
枝の接近を視力によってよりはむしろ鋭敏なかんによって知らされつつみちびかれ、いわば彼の感覚的な翼でたそがれの進路をさぐりながら、彼は新しい止まり木を見いだして、夜という
長年刑事をやってきた経験からのかんというやつが承知しないのです。
妻に失恋した男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が二、三カ所人集ひとだかりがあった。その輪のどれからか八木節やぎぶしの「アッア——ア——」と尻上りにかん高くひびく唄が太鼓といっしょに聞えてきた。乗合自動車がグジョグジョな雪をはね飛ばしていった。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
そんなことはかんで分るではないかと人々はいう。
純粋小説論 (新字新仮名) / 横光利一(著)
はるかに離れているとは言いながら、常の人よりは三倍も五倍もかんの鋭い弁信が、その騒ぎを聞きつけないはずはありません。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おめえ、めくらのくせにかんがわるいな。アアにわか盲だから、声まで見えなくなったのか。じゃアいって聞かしてやろう。びっくりして気絶きぜつするなよ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三州藤川在岩井村無宿當時江戸麹町三丁目重兵衞店作藏事町醫師村井長庵五十三歳 其方儀そのはうぎ三州藤川在岩井村にまかり在候みぎり同村に於て百姓かん次郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その馬鹿の上前をハネる利口者が、蟲のやうに殺されたといふのですから、平次のかんを働かせるまでもなく、其處には容易ならぬものがありさうです。
ステッキなど持って歩くと、犬のほうで威嚇いかくの武器とかんちがいして、反抗心を起すようなことがあってはならぬから、ステッキは永遠に廃棄はいきすることにした。
それがまたかんが悪いと見えて、船着ふなつきまで手をひかれて来る始末だ。無途方むてっぽうきわまれりというべしじゃないか。これで波の上をぐ気だ。みんなあきれたね。険難千方けんのんせんばんな話さ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
盲人はかんのよいものである。そのなかでもこの座頭は非常に勘のよいらしいことを平助もかねて承知していたが、今夜の手際てぎわをみせられて彼はいよいよ舌をまいた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、なかには何かかんちがいして、作爺さんがお召捕めしとりにでもなったようなことを言うやつもある。ねいりばなをこの騒ぎにたたき起こされて、寝ぼけているんです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「——藁屋わらやかんさんとこで面倒みてやってるらしいんだけど、唖者おしみたいにものを云わないし、お乳をやることもお襁褓むつを替えることも知らないらしいんですってよ」
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もちろんルナビゥムの用途ようとについても、彼らはかんづいていますのじゃ。そこで地球人を困らせようとして、あの倉庫にあったルナビゥムは全部ほかへはこんでしまった。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父は、三十歳前後の、かんのいい盛りであったのだろう。私は、河原の玉石の上へ腰をおろして、竿さばき鮮やかな父を眺めた。いまから想い出しても、父は釣りが上手じょうずであったと思う。
父の俤 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
路はもとより人跡じんせき絶えているところを大概おおよその「かん」で歩くのであるから、忍耐がまん忍耐がまんしきれなくなってこわくもなって来れば悲しくもなって来る、とうとう眼をくぼませて死にそうになって家へ帰って
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
母と自分はよくスペードを握っては妙な顔をしてすぐかんづかれた。兄も時々苦笑した。一番冷淡なのはあによめであった。スペードを握ろうが握るまいがわれにはいっこう関係がないという風をしていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学校の一軒さきに大きな人力車宿くるまやどがあって、おかんちゃんという、色は黒いがやせがたなキリリとした、きかない気の、少女こむすめでも大人のように気のきいた、あたしのために、あたしの家へよく忘れものや
そこをズッと市中の繁華な方へ歩んで来るうちにも、竜之助のかんが驚くべきほどに発達していることがわかります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「良いことに氣が付いた。お前のかんも捨てたものぢやない。その黒子がなくて、女の髮形をさせたらどうなる」
さうして貧しい芸術家の小さいかんでものを言つてゐるだけで、他には何の根拠も無いのであるから、私は自分のこの直覚を読者に押しつけたくはないのである。
津軽 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
もちろん、幾人かは狩衣かりぎぬ布直垂ぬのひたたれの目あきもいて、何かとかんのわるい者の世話をして行くふうではあった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒屋の御用聞きが、配達の徳利とくりを二つ三つ地面にころがして、油を売っていると、野良犬がその徳利を、なんとかんちがいしてかしきりになめまわしているのも、江戸の町らしいひとつの情景。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、たちまちものすごい勢いで、がらがらがらと疾走しっそうを始めた。ただし原地人軍の方へ向って前進しないで、何をかんちがいしたか、あべこべに、醤軍の方へ向けて、全速力で後退を始めたではないか。
私しなすは此上もなき不屆者ふとゞきもの伊東半右衞門は揚屋あげや入申付下役二人は留守居へあづつかは急度きつといましめ置と言渡され傳吉は出牢の上手當てあてして宿預け言付さげられけり又ごく月十日傳吉お專與惣次喜兵衞きへゑかん右衞門等を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
弁信はかんのせいで、いかなる時にも、いかなる道をも、踏み間違えるという心配はないが、しかし、非常と知って、特に急ぐというの自由は持ちません。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
偽善をかんで見抜く事です。この見抜く力を持っている人のことを、教養人と呼ぶのではないでしょうか。日本人は、いい教養を祖先から伝えられているのですね。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
室殿はかんのするどい眼で村重の面をにらまえた。村重はあわてて面を振りながらその顔色をごまかした。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨夜ゆふべあたり、何にか聽いた筈だと思ふが、お前はかんが良いやうだから」
「おい、あの野郎は、鷹匠町たかしょうまちかんだとよ」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とてもかんのいい、金棒引かなぼうひきの人たちは
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
戦機はかんだ。また天来の声だ。常道ではいえない。戦前の作戦は、大事をとるから、ただ敗けない主義になりやすい。それがいざ戦に入ると疾風迅雷しっぷうじんらいを要してくる。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)